第38話 死霊魔導師は考える。
「しかし父上も思いきったな、王位継承権の順位を入れ換えるとはな」
陛下たちが去った部屋で昼食に呼ばれるのを待つ間、一気に増えた情報を整理しておきたい。
「えっとー、ヘルヴィは二位に上がったんだっけ?」
顎に人差し指をあて、コテンっと首を傾げるセレスが可愛いので反射的に撫でておく。
よく考えたら、この撫でる行為、無意識にやってたけど、セレスはへにゃりと笑うので、嫌がってはいないはずだ。
これが他の女の子に無意識にやってしまったとすれば、問題になる可能性もあるから今後は注意しよう。
そんなことを考えていると、ヘルヴィが俺に頭を差し出してきたので無意識に撫でてしまった。
いやいやいやいや! 今、注意しようと心に誓ったところだよね!
……まあ、お嫁さんになる予定のヘルヴィならいい、のか?
「ぬふふ。ああ、今回の功績も踏まえて第六位からの大躍進だ」
嬉しそうだし、ヘルヴィも撫でて大丈夫そうだ。
「凄いよねー、ヘルヴィはあと一つで女王様だよ」
二人が楽しそうに話している間に考えをまとめてしまおう。
一位だったフェットヴェルデンと、二位のブロムヒドローゼは継承権の無期停止になったので一気に二つの席が空いた。
そのまま繰り上がった第三王子が第一王位継承権保持者となり、ヘルヴィの上にいた二人の王女を抜き去り、第二位へ。
第三王子殿下の派閥には、世話をしてもらっていたとヘルヴィに聞いた。
フェットヴェルデン殿下やブロムヒドローゼ殿下のように王位簒奪を企てる者よりはシュテルネ王国にとってはいいことだろう。
ヘルヴィは元々その気も無いようだしな。
陛下に『ヘルヴィ、念のため統治を学べ』と言われたのに、『我はネクロウたちと冒険者として国に貢献するつもりだ』と返していたし。
陛下はそれでも勉強だけはしておけと念を押していた。
俺も辺境伯家だけど三男だ。他の貴族家の三男以下も冒険者になったり、騎士団に入る者が多い。
中には商人になって行商を始めた変わり者もいるようだが……そう、第三王子殿下、ドラートツィーアー・フォン・シュテルネ殿下だ。
なんでも王族としては珍しいテイマーの職業を持ち、動物だけでなく、魔物でさえテイムして使役したり乗りこなせるそうだ。
「だがドット兄上にとっては災難かもしれないな」
「行商人になりたいっていう、ちょっと変わった殿下のことだよね?」
セレス、殿下に『変わった』はつけちゃ駄目、不敬罪で捕まるからな。
注意しておかないと、セレスのことだ、本人の前でポロっと口を滑らせそうだし。
「セレス、殿下に変わっ――」
「セレスもそう思うか! そうなんだ、ドット兄上は王族としては特別変わった考えの持ち主なのだ!」
「……」
妹のヘルヴィまで『変わった考えの持ち主』と言ってるなら大丈夫……かも?
……一応その話題にならないよう気は使っておこう。
王位の件も重要だが今回の件で多数の貴族家が降爵、男爵位の貴族などは奪爵、平民に落ちる。
そのせいで空席となった男爵領をもらうことになったんだよな。
男爵位の叙爵と一緒に。
その時期は成人する十五歳になるんだけど、あと五年もあるからしばらくは考えなくても大丈夫だろう。
それに、セレスも世襲のできない一代貴族である準男爵に叙爵されるんだよな。
まあ、貴族当主になる俺の奥さんになるんだからと、王妃殿下が陛下に強要してそうなったんだけど。
陛下は王妃殿下には尻に敷かれてるようだ。
ちなみに王妃殿下は第二王妃で子供はヘルヴィだけとのことだ。
王妃なのに子供が少ないのだが、ヘルヴィによると、王妃殿下が『息子ちゃんだとぉ~、王位継承権争いがぁ~、面倒なんですもの~』と言ってたそうだ。
うん、言っては駄目なんだろうけど、確かに面倒事になりそうだからある意味正解だと俺も思った。
それに、『ヘルヴィちゃんとぉ~、セレスちゃんの~、結婚式で着るドレスはぁ~、任せてね~』と、暴走は止まらなかった。
それを見た陛下は怒りが消え去りタジタジになりながらも条件を出してきた。
ヘルヴィとの婚約は、俺が最低伯爵位に陞爵してからとか、無茶なことを言う。
今回のようなゴブリン騒動がちょくちょくあるなら可能性もあるけど、そう簡単にできるものじゃないと俺は言いたい。
男爵位の叙爵と同時に、最低伯爵位への陞爵……。
隣に座る二人を見る。
どちらも凄く可愛い女の子だ。
そんな二人が奥さんになってくれると言う。
どこのハーレム主人公だよ! と、思わなくもないが。
二人との婚姻の実現には、まだまだやらなければならないことがたくさんあるだろう。
俺が授かった職業。
忌み嫌われ、歴代の魔王が授かった職業として最も多く、甚大な被害を引き起こした職業。
【死霊魔導師】
今回の件で明るみになったが、陛下の取り計らいで大きな問題とはならなかった。
だが、忌み職に対しての猜疑心の火が消えたわけじゃないだろう。
燻り続け、ちょっとしたきっかけで炎となり燃え上がるかもしれない。
「それいいよヘルヴィ! みんなでピクニックとか絶対楽しそう!」
「お互い少くとも二人ずつ子ど――」
昼食の迎えが来るまでセレスとヘルヴィはおしゃべりを続け、俺は思考の海を漂っていた。
コンコン、とノックされる音で現実に引き戻された。
昼食が終わり、陛下に連れられやって来たのは謁見の場だった。
そこには急遽集められた今回の件に関わっていなかったとされる貴族たちが集まっていた。
陛下側にいる俺たちのことが気になるのか、ザワザワと場が騒がしくなる。
『陛下と共にいるあの三人は何者だ?』
陛下と一緒に入ってきたんだから気になるよな。
『確か、男児の一人はシュヴェールト辺境伯の三男』
成人前で、社交界にもまだ出てないのに俺のことを知ってる人もいるんだ。
『急に呼び出されたが、少なくないか?』
『そういえばティウス公爵の姿が見当たらないな』
ティウス公爵を含め、昨夜裁かれた貴族はここにはいないから目減りしているから気づくだろうな。
『ティウス公爵といえば確かゴブリン騒動があると聞いたぞ』
『フォイルニス侯爵の領地でも同じようなことが起きていると聞いたな』
『ああ、うちも共同遠征を打診されたぞ』
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陛下の言葉が無いからか、ざわめきはおさまらない。
聞いていてわかったことは、思ったよりうちと同じように共同遠征を頼まれた貴族家は多そうだ。
昨夜、ここに連れてこられたが、純粋に討伐に参加した貴族家の方は当然ここにいる。
その人たちは騒ぎ立てることも無く、陛下の言葉を待っているようだ。
王座の正面にある大扉が閉じられた。
「静まれ」
陛下のその一言でざわめいていた謁見の場が静寂に包まれる。
「これより、ティウス公爵領、フォイルニス侯爵領に起きたゴブリンの大発生を解決したものたちに褒賞授与の儀を執り行います」
俺たちの背後から気配もなくスッと出てきた宰相さんが、よく通る声で言葉を紡いだ。
褒賞授与の儀、か、俺たちのことだよな。
宰相さんに向いていた貴族たちの視線が横にズレ、俺たちに注がれる。
……緊張するからあまり見ないで欲しいと思いながら、居心地の悪い時間が始まった。
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