第33話 死霊魔導師は陛下のお部屋に訪問しました。
「陛下に会いに行くぞ!」
色々考えたけど、やることは一つ。
陛下に直接、できれば他の人がいない状態で会い、今回の貴族派、王族派の争いについて知らせること。
両派閥の殺害計画書は手元にあるし、ヘルヴィがいて、魔道具で記録した音声と映像が証拠としてある。
これで信じてもらえなければお手上げだけど……。
「ネクロウ、すごーく気になることがあるんだけどさ、陛下の所にぴょんって転移するの? 怒られない?」
手にしていたナイフとフォークをテーブルに戻し、上着の袖をつまみ、つんつんと引っ張るセレス。
「そんなことすれば護衛してる近衛騎士に怒られるだろうな。まあ、怒られるってより切りつけられる、か」
「やっぱりそうだよね、切られるのはやーだし……あ、そうだ、ヘルヴィがいるから、陛下に会いに来ましたーって言えば案内してくれるね」
「セレス、我がいようとすぐには会えんぞ。手続きをして、正面から行くのなら時間は、そうだな、早くて数日中には会えるだろうな」
「え? でもだって、すぐに会わないと駄目なんだよね? どうしたらいいの?」
俺とヘルヴィとを交互に見ながらオロオロしてるセレス。
こんな時だけど、可愛いから撫でておく。
それで落ち着いたのか、へにゃりと強ばっていた顔が緩んだ。
「ヘルヴィ、陛下が一人になる時間を狙えるかな、この後から最悪今夜中に」
「確実に一人になる時間はあるが、夜となると日によって、としか言えないな」
日によってか……予想はつくけど……。
「就寝時が一番可能性は高い。まあ、運が悪ければ王妃か側室もいるがな」
うん、予想通りだ。
「しかし、そんなことを言ってる場合ではないのも確かだ。なんとかやるしかないだろう」
あーでもない、こーでもないと相談しながら夕食は進む。
「食事の後、王城へ行き、影の中で陛下が一人になるのを待つしか手はないってことだな」
『その事だが主よ、すぐに王城へは向かえませんぞ』
影からスルっと顔だけ出したデバンが爆弾を落とした。
『影転移は至るところに転移ができるが、最低限、行ったことがある場所』
「あ……そうか、デバンたちがいた頃はシュヴェールトが王都、今の王都には行ったことがないから……」
『その通りですな』
「じゃあ地道に移動して行くしか――」
『ですからジェイミーに王都へ向かってもらい、ジムには殺害計画書を元に貴族派の現在地を探ってもらってますぞ』
「おお! さすがデバン! っていうより早く言ってよ!」
「あーびっくりしたー、間に合わないかと思っちゃいました」
「我も移動に関しては影転移ありきで考えていたからな」
『主の思案の邪魔になると思いましてな、どのみち影転移が必要とわかっておりましたから、二人を向かわせた次第ですぞ』
「え、あ、ごめん、俺のせいだよね。でも、本当にありがとう、デバンが動いてくれたお陰で助かったよ」
話はまとまり、ジェイミーの帰りを待つことにした。
ヘルヴィの話によれば、深夜近くまで陛下は公務をしているらしい。
毎日深夜までか……前世の俺と同じで陛下も仕事が楽しいんだな。
そう思うと、国への貢献で叙爵して領地を貰うのは魅力的に思えてきた。
仕事し放題……って違うだろ俺っ! 前世はそれで死んだんだろ俺っ!
危ない危ない。過労で死んだのに、またセルフ社畜になるなんて駄目すぎる。
なんとか考えの軌道を修正し、俺たちは少し仮眠することにした。
起こされたのは、深夜を少し回ったところだった。
俺たちは陛下との謁見のため、冒険者の装備ではなく会うのに失礼じゃない貴族服とドレスに着替える。
ヘルヴィは魔道具を着けた状態だ。
陛下はヘルヴィが女性と知っているが、しばらく本当の姿を見せていないそうで、貴族服を着用してる。
準備が整い影の居住空間に入る。外の景色はヘルヴィの部屋から一転し、見たことの無い部屋に切り替わった。
質実剛健、その言葉がぴったりの部屋に、魔道具で肥大化したヘルヴィを筋肉質にしたような男性が大きな机でペンを走らせている。
机の上は紙の束が積み重ねられ、全てが公務の書類なら、凄く羨ましい。
じゃなくて!
……これ程の仕事量だと深夜までやったとしても、終わる未来は見当たらない。
幸いにも部屋には陛下しかいないようだ。
仕事の手を止めさせるのは心苦しいが、持ってきた問題も急を要する事案だから納得して貰おう。
「ヘルヴィ」
「わかっている。密室の結界を張るから安心しておけ、この機会を逃す手はない、行くぞ」
ヘルヴィを先頭に、俺とセレスが後に続き影から部屋に出る。
陛下は書類に集中しているせいか、突然現れた俺たちには気がついてないようだ。
とりあえず影転移は見られていないようだし、死霊魔導師の件は後回しにできそうだ。
「密室の結界」
静かに結界魔法を発動させる声に陛下がピクリと反応し、視線を書類から俺たちへ向けた。
「何ヤ……つ? ヘルヴィではないか、公務中はここには入るなと――」
「父上、お叱りは後に、まずはこれを見て貰いたい」
陛下の言葉を遮ったヘルヴィは数歩前に進み、殺害計画書を机を挟んで差し出す。
陛下はヘルヴィを見るだけで、手元の書類には視線を移さない。
「ヘルヴィよ、それはここにある公務書類より先に見るべき物なのか? そうでなければ隅にでも置いても出ていくがよい」
「父上にとってこの国の行く末に関わることが、重要でなければそうしますが」
「……」
「……」
二人は微動だにせず、見つめ合う時間が過ぎていく。
「お前がそこまで真剣ということは、冗談でも悪ふざけでもないようだな」
そう言いやっとヘルヴィが両手で差し出した殺害計画書に視線を向けた。
「っ! なんだこれは! ヘルヴィ! これは本当のことなのか!」
「はい。すでにゴブリンの大量発生で対処に動いていた貴族派筆頭、ティウスが王族派の襲撃で負傷しています」
ここに来るまでのことを詳しく、それでいて要点をまとめ簡潔に説明した。
信じられないと、困惑の表情を浮かべながらも、次の魔道具で映し出された映像と音声で納得してくれた。
「何をやっているのだフェルは、どこへ出掛けたのかと思っておったが……」
「ブロムヒドローゼ兄様も同じですよ、父上、兄様は王族派の筆頭を狙い進軍しています」
「ブームはフォイルニス侯爵家の領地に現れたゴブリンの大軍討伐に向かっていると記憶しているが……」
そっちにもゴブリンが大量発生していたのか。
「ゴブリンは口実でしょう、本当の狙いはその殺害計画書にある通りです。父上、我たちには止めに行ける力があります」
「それは無理だ、ブームが出立したのはもう三日も前だ、すでにフォイルニス侯爵領に入っていてもおかしく……いや、ヘルヴィ、お前、どうやってここへ入った?」
そこで何かに気がついたようだ。
「内緒にしても、想像できるでしょう父上」
「まさかヘルヴィ、転移魔法を……」
「我ではないですが、転移で止めに行くことは可能と言っておきましょう」
陛下はニヤリと笑うヘルヴィから視線をずらし、初めて俺とセレスに視線を向けた。
さあ、ここが正念場だ。
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