第25話 死霊魔導師の長い夜は続く。
オークによるゴブリン村襲撃は激戦となっている。
多数のゴブリンに対して体格の差は倍以上あるオークだが、奇襲の効果が薄れたのか、五十の群れに対して十匹では押しきるには戦力が足りないようだ。
『主よ、戦闘音と血の臭いで他の魔物が寄ってきている。おそらくオークの別グループ』
『覗きに行ってくるっすか? すぐ戻ってこれるっすけど』
「うん、ジェイミーお願い。デバンとジムは倒れてるゴブリンを影の中に引きずり込んでおいて、多少は血の臭いもマシになるはず」
『ういっすー』
返事の途中からすでに影に足元から潜っていたジェイミーは、あっというまに消えていった。
『任されよ。別に倒してしまっても良いのだろう?』
どこかで聞いたような台詞だな……どこだった?
『団長殿、たまには良い考え』
『ジム! たまには余計だ! 行くぞ!』
『行く』
デバンとジムも影に消えた森の中、俺たち三人は激しい戦場の村を見る。
足元に転がっていた遺体と、突然首が飛び崩れ落ちるゴブリンとオークも次々に影へ消えていく。
『戻ったっすよー。オークの別グループが三組で十六匹、ゴブリンがいっぱいっす』
「いっぱいってどう言うこと!」
『奥の本拠地からぞろぞろ来てるっす。ちょっとヤバい数っすよ。どうするっす?』
「なんで奥の本拠地から……」
『たぶん戦闘音っすね。本拠地までそんなに離れてないっすから』
いや、あの地図を見るにここから本拠地までもニキロはあったはずだ。
地図を信用するならだけど、おそらく狩りに出かけていたゴブリンたちが村の異変に気づき、本拠地に知らせたんだろう。
証拠と言うには弱いがデバンが言ってた狩りに出たゴブリンがひと組も帰ってきていないので、その方が有力だろう。
どちらにしても、この村で待ち構えて倒すだけだ。
今夜中に本拠地も叩く予定だったし、問題ない。
「わかった。ならジェイミー、ちょっと予定より早いし場所も違うけど使役作戦を始めるよ」
『お、もうやるんっすねー、じゃあ、なるべく頭は潰さないで倒すっす!』
「うん。デバンとジムには念話で伝えるよ!」
影へ消えるジェイミーを見送り隣のセレスとヘルヴィを見送り念話を送った。
『始めるのですな! 行くぞジム!』
『了解。団長殿、手加減』
『ぬぬっ! わ、分かっておるわ! 手足頭を残し倒すぞ!』
影から飛び出し、ゴブリンを真っ二つにした後だけど、デバンも作戦をちゃんと思い出したようだ。
そんな時、村の外からオークたちが躍り出てきた。
しゃがみ、地面についていた手のひらから振動が伝わってくる。
相当数のゴブリンが走り、こちらに向かってきてる証拠だろう。
その大群がこの村へたどり着く前に制圧してしまいたい。
横に視線を送るとセレス、その奥にヘルヴィが俺の言葉を心待ちにしているように目をキラキラさせていた。
やる気は十二分にありそうだ。
「二人とも。長い夜になりそうだけど、安全第一に頑張ろう。作戦は――」
「言わなくてもわかっている。また取り囲まれる作戦だろ? レベルも前回とは違い、グッと上がっているからな。結界を一晩中張っていられるのだ」
ニヤリと笑うヘルヴィ。
「えっと、頭と、手でしょ、あ、あとは足だ! 足も残すんだよね? ならわたしも切るんじゃなくて突きで頑張る!」
なぜか指をおりながら狙うところを確認してきた。
可愛かったので頭を撫でておく。
それより背後から俺たちの方へ急激に近づいてくる気配を感じた。
俺はセレスとヘルヴィに視線を送り、気配の方へ指を指し頷く。
二人も視線だけ動かし、頷き、セレスは剣を抜き、ヘルヴィも杖を握り直した。
通じたと確信した俺は、開戦最後の言葉を、ゴブリンとオークたちの断末魔を聴きながら優しく話しかける。
「うん、そうすれば俺たちの味方はどんどん増えるし、二人とも、頑張ろうな」
そう口にした直後、身を潜めていた俺たちのところに草をかき分け飛び出してきたのはオーク。
だけど俺たちは準備万端だから慌てることもない。
スッと立ち上がり、俺とヘルヴィの声が重なり戦いが始まった。
「物理結界!」
「ヒールショット!」
前回同様三角柱に張られた物理結界はオークの一撃を軽く弾き返す。
片手五発のヒールショットはオークの胸を貫き、致命傷を与える。
「わたしも行くよ! やっ!」
結界に張り付いたオークたちのがら空きになった腹に高速の突きが連続で刺さる。
一度の攻防で十匹のオークを倒した。
これもレイスダンジョン前でオークを何度も相手をしていたからできる芸当かもしれない。
体はゴブリンより遥かに大きく、力も比べようもなく強いが、取る行動はほとんど変わらない。
ドスドスと大きな足音を立て、こん棒を振り上げてまっすぐ突っ込んでくるだけ。
ヘルヴィの結界があり、近接攻撃のセレスに中・遠距離の俺がいれば負ける未来は見えない。
それに、倒したあとは死霊魔法を使え、今度は俺たちと一緒になり、格上格下、別種族、同族だろうが、俺たちの敵に立ち向かうことになる。
倒れたオークから浮かび上がる黒い靄に向かってスキルを行使するだけだ。
村全体にこだまするゴブリンとオークの声に被せるように、魔力を込めた声で叫んだ。
「お前たち聞け! 俺の名は、ネクロウ・フォン・シュヴェールト! 俺に従え! 死霊使役!」
俺から立ち上る黒く細い魔力の糸は、目の前のオークだけにとどまらず、村全体に広がっていった。
ぐぐっと魔力が引き出されていくが問題ない量だとわかる。
今ので約五十ほどの靄に繋がったとわかった。
順調だ。黒い靄が自分の身に戻っていく。一拍置いて死体だった巨体がビクっと脈動し、動き始める。
自分が戻れる体がない靄たちは、まだ生きているゴブリンやオークに群がり取り憑き、次々と体を乗っ取っていく。
次々に現れ、村に入った途端、長く立っていられるオークはいなかった。
『主よ、第一陣は片付いたようですな』
「そうだね。地鳴りの様子だと数分後かな」
『ゴブリンの大群はもうすぐっすー』
『団長殿、ジェイミーと俺、隊分けして』
へえ、部隊として動けば個々で動くより倒す効率は上がるし、逆に倒される確率は下がるか。
ここは騎士団長だしデバンにお任せだな。
『ふむ。ならば機動力重視でゴブリンをジェイミーが。攻撃と壁役のオークはジムに任せよう』
言われてすぐに隊を分けちゃったよ。
なら俺も協力しないとな。
魔力の糸を通して、デバンを主軸として、ゴブリンはジェイミー、オークはジムの命令を聞くように指示しておく。
すると、ゴブリン、オークに分かれ、隊列を組始めた。
「ふむ。ゴブリンとオークの部隊だが、動きが揃うと壮観だな」
「ネクロウ、私たちはどうするの?」
「俺たちはさっきまでと同じかな、着実にゴブリンの数を減らして、最終的には本拠地を攻めるから、それまではね」
本拠地にはおそらくあのキングがいる。あの頃より格段に強くなったが油断は禁物だ。
それに、この森、ゴブリンとオークしかいないのか?
そんな考えに思考を取られていた。
木々がざわめきを増し、ブーツを通して大地の震えを伝えてくる。
森の闇をうねらせるような雄叫びが近づいてくるのがわかり、俺たちの緊張感が高まった。
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