第21話 死霊魔道師はマシマシで仕返しします。
「これは何事だ! ネクロウ!」
いち早く混乱から立ち直った父様が聞いてきた。
「父様説明は後! 今はヘルヴィ殿下の命を遂行中です!」
それだけ言った後、蹴り倒した騎士が頭を上げ始めていたところに追撃を入れた。
「ぶふっ――」
綺麗に二発目は顔面に入った。少しの間脳震盪でまともに動けはしないだろう。
騎士をうつ伏せにして、右腕を取り、関節を捻る。
「アギャァアアア!」
子供がいつまでも大人を押さえ込めるはずもないから致し方の無いこと。
剣の修練と共に学んだ体術で、ゴキンと関節を外してやる。
多少、いや、かなり怒っていたことに、メイド長の痛みの分を割り増しで込めたから関節を壊すつもりでやった。
痛みでのたうち回る騎士の今度は足首を捻り、こちらも迷うこと無く関節を壊す。
「イギアガガガガー!」
無力化完了。あっちは、終わったみたいだな。
壁に背をつけた騎士の首に剣が添えられ、手に持っていた剣は無く、離れた床に落ちている。
甘いな、今からでも俺が行って関節をと思ったところに主役の登場だ。
壊れた扉を踏み越え、悠々と結界を張ったままヘルヴィとメイド長が入ってくる。
当然、結界に入ってない、もう一人の護衛騎士もだ。
惨状を見てか顔色は青ざめている。
「シュヴェールト辺境伯、騒がせてすまないな、我の前で剣を抜こうとした無礼者が屋敷に紛れ込んでいたのでな、ネクロウにも手を貸してもらい制圧したところだ」
「そ、そう、だったのですね」
「あ、ネクロウが壊した扉は、我の命を遂行する過程で起きたこと、我が修理代を出す、だからネクロウを責めるなよ」
「は、はい。しかし……その制圧したその二人は……」
「ヘルトヴァイゼ殿下、私の配下は教育が行き届いておる者たちばかりだ。殿下の前で剣を抜く? あり得ん」
白髪の男がソファーに座ったまま口を開いた。
「なんだいたのかティウス。この無礼者どもはキサマの配下か?」
ティウス公爵が殿下を付けているのにヘルヴィは呼び捨てにした。
貴族社会における上下関係がハッキリとわかる。
ティウス公爵もそれがわかっているのか面白くなさそうに眉間の皺を深めた。
「あり得んと言うが、本当のことだ。ところでティウス……我が立っているというのになぜキサマは座っている! それこそあり得んだろう! さっさと立て無礼者が!」
ティウス公爵は歯をむき出しにして顔を真っ赤に染め自分の騎士を見る。
まさかやるつもりはないよな。
そして何もせずついて来ただけの護衛騎士も視線をやる。
何か繋がりがありそうな雰囲気だが、すぐに目線を外しソファーから立ち上がるティウス公爵。
その動きに合わせて控えていた騎士がティウス公爵を守るように前に出てきた。
それも、いつでも剣が抜けるよう身構えながら。
目は本気のようだ。ティウス公爵が命じれば相手がヘルヴィでも切りつけるだろう。
ゆっくりと相手を刺激せず、ヘルヴィ視界を遮らないように前に出ておく。
「ティウス、なんでも我に言わせるな。キサマの配下が犯した罪の責任はキサマにある。早々に無礼者どもを不敬罪として処せよ!」
ティウス公爵は動かず苦虫を噛み潰したような顔になる。
「動かぬのか? ならば……ネクロウ、二度めの命だ。先ほどからティウスの前で我に圧を掛けてくる二人の無礼者も制圧せよ!」
「ま、待――」
「はっ!」
今度は二人だ。長引かせるつもりもない、魔法も使おう。
左右の騎士の足と腕を同時に狙い、的は肘と膝。
「ヒールショット!」
「なっ――イギッ!」
「グアッ!」
一瞬で勝負は決まった。片手に四発、両手で八発放たれたヒールショット。
狙いも正確で、二人の手足はこの後使い物にならないだろう。
「し、信じられん、小回復しか使えん役立たずの子供に私の最強の騎士を倒されただと……」
素手の俺が魔法、小回復が使えることは知っていただろうが、それを攻撃に使うとは思わなかったはずだ。
最強だろうが、相手が手の内を知らなければいくらでも勝負をひっくり返すことだってできる。
「チッ! こうなればファート! キサマが殺れ! そうすれば望み通りサリウス子爵家当主にしてやる!」
そう叫んだティウス公爵の視線の先にはあのおかしな行動を取る護衛騎士がいた。
いや、この状況でそれを言われても動かないだろう。
仮に俺を倒せたとしても、ヘルヴィがいて、辺境伯の父様も見ている中だ。
いくら公爵が推薦したとしても、それが通るとは思えない。
だが護衛騎士ファートは動いた。それも何の躊躇も無く剣を抜き、向かってくる。
が、遅い。
「私の息子に何をするか!」
剣聖と呼ばれる父様だが、剣が無いから弱いとはならない。
俺もそうだが、父様の体術も相当なものだ。
それに俺に向かい集中していたのも悪い。
父様の声に反応したのも悪手だ。
ほんの一瞬、ピクリと視線が父様側に向いた。
「はっ!」
床スレスレ限界まで姿勢を低くし、横凪に振ろうとしていた剣の軌道から身を外す。
俺の声に反応した時には俺の姿を見失っているはずだ。
すでに剣の間合いの内側、体術の間合い。
一人目と同じように膝へヒールショットを纏わせた拳を振り抜いた。
「グアッ! ヘブッ!」
少しだけ俺の方が早かったが、ほぼ同時に父様の拳もファートの顔へ吸い込まれた。
一番奥のソファーに座るのはヘルヴィ、左の席に父様はわかる。
本当は父様の横に座るつもりだったのだが、また横に座らされた。
「ティウス、何か申し開きはあるか? 会うのは最後になるかもしれんからな、一応聞いてやろう」
そう切り出したヘルヴィの言葉の先には拘束されたティウス公爵がうなだれ床に跪いていた。
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