第11話 死霊魔導師の致命的失敗。
屋敷の正面に父様と並び王女殿下の乗った馬車を見送る。
王女殿下は『おそらく次は二年後だな』と言葉を残し去っていった。
二年後は王立学園に入る年だ。同じ歳だからそこで再会と言ったのだと納得しておく。
「ネクロウ。ヘルトヴァイゼ殿下とは本当に何も無かったのだな? えらく仲が良さそうに見えたが」
「……はい。少々治療を張りきりすぎて倒れ、介抱してもらったくらいでしょうか」
「ふむ。いや、殿下に介抱させるなどもっての他、なのだが、あのご様子なら心配あるまい。私も陛下とは仲良くしていただいたからな」
と、自己完結したのかうんうんと納得顔だ。
でも実は問題大有りなんだよな。十歳とまだまだ子供ではあるが、全裸を見て問題ないとはならないだろう。
それが貴族の子女でもそうだ。貞淑さが重んじられ、不貞が発覚すればその女性の婚姻は絶望的になる。
それが不可抗力で肌を見せてしまっただけでもだ。
……あの王女殿下なら『気にするな、治癒させたネクロウへの褒美だ』とか言いそうだ。
少し『二年後』ってワードが気になってくる……。
「ふう。突然の来訪で疲れたな。それにもう昼食の時間だな」
「そうですね。剣の修練が潰れてしまいましたよ」
父様と二人、『はぁ』固まった体から力を抜き、並び屋敷に戻った。
昨夜も順調にレベル上げを行った。
眠い。スケルトンを倒せるようになって調子に乗りすぎた。
ヘッドショットの一撃必殺が楽しすぎてジムに止められるまで倒しまくった結果、夜中の三時に寝台に入ったからだ。
眠気にプラスして体の怠さも残るがなんとか足を前へ進め、朝食の部屋に到着した。
「おおネクロウ、遅いではないか、待ちかねたぞ」
「…………」
目を疑った。
いつも父様が座る椅子、シュヴェールト辺境伯当主が座る一番奥席に、しばらく見ないだろうと思っていた人物が座っていた。
貴族風の豪奢な椅子ではなく、父様好みの質実剛健な頑丈な椅子。
そこへ昨日解毒と回復をほどこしたヘルトヴァイゼ殿下が座っていた。
「どうしたネクロウ。そんなに見つめられてはテレるじゃないか。さあいつまでも立っているな、こっちに来て朝食をいただこうではないか」
「いや、なんでいるの!」
「なんでと言われてもな、今日からここに泊めてもらうからなんだが」
「……え泊まる? じゃなくて俺今口に出してました?」
「しっかりと、『いや、なんでいるの!』とな」
心の中で叫んだと思ったいことを一語一句そのままを口にした。それも俺の声色を真似て。
「これはネクロウが我に対して対等な話し方をしてくれたと嬉しく思うぞ」
「も、申し訳ありません王子殿下!」
その場で昨日に続き土下座を披露する。
嬉しく思うと言われても、こっちは辺境伯の三男で殿下は殿下で王族だ。
まだ十歳の子供ではあるが、子供だからと許されることではない。
「よいよい。このままでは食事も話も進まんな……よし、ネクロウ・フォン・シュヴェールトよ。我との会話は敬語禁止だ」
それは無理!
ぶんぶんと横に首を振り否定の意思を示す。
「殿下! それでは臣下や民に示しが付きません! 撤回を!」
おお! そうだ撤回だ! 護衛騎士さん頑張れ!
「ならん。もう決めたことだ。ネクロウ、我のことは愛称でヘルヴィと呼ぶのだ」
俺と護衛騎士の反対をその権力で押しきり、『敬語無し』『ヘルヴィ呼び』を勝ち取ったヘルヴィ殿下。
そして今、何故か一緒に剣の修練をしている。
「セレスとやらは何者だネクロウ」
思っていたより堪能な剣術を披露してくれたヘルヴィ殿下が真面目な顔で、護衛騎士と模擬戦でいい勝負をしているセレスを見つめている。
いつものことだ。力はあるが体重が大人の騎士に比べ軽すぎるため、吹き飛ばされているがダメージはない。
セレスも俺とならいい勝負になるんだけどな、力対技でだけど。
「セレス? 専属メイド候補で遊び相手かな」
本当は将来、俺の伴侶にと思っているのは秘密だ。
「いや、そうではない。我らと同じ歳だといってたよな。それなのに護衛騎士と互角とは……」
「子供相手だから手を抜いてくれてるんだろ? うちの騎士たちとやればいつも吹き飛ばされてるからね」
そうなんだよな。一応シュヴェールト辺境伯家の三男なんだよ? それなのに騎士たちは手加減も遠慮もないし。
小回復を覚える前は騎士団の詰所に回復してもらいに行ってたし。
「いや、手加減などしておらんだろう、見よあの必死な表情を」
そう言われて見れば、確かに必死に相手をしているように見える。
「だったらあの護衛騎士さん、体調悪いとかじゃないかな」
「ふむ。我も先ほどヤツと模擬戦をしたがいつも通りであった。ならば……よし決めたぞネクロウ。我らが冒険者パーティーにセレスも入れるぞ」
「え? 冒険者パーティー? 『我ら』ってもしかして俺も入ってる?」
「当然だろうが! 我がリーダー兼結界魔導師でネクロウはパーティーの要、回復魔法使い。そして今一番必要な前衛、セレスが加われば我らパーティーはSランクにまで一気に駆け上がるだろう!」
……いや、確かにバランスは悪くないけど、Sランクはねえ。
父様が当主を継ぐ前、Bランクまでは上がったそうだ。
その父様に手も足も出ない俺たちがSランク……じゃなくて!
「ちょ、初耳なんだけど!」
「初めて言ったからな。元々、今日ここに来たのはそれが目的だ。だから諦めよ」
「……はぁ、反対しても駄目なんだろうし、諦めるとして、なんで冒険者?」
「それはな」
「それは?」
ヘルヴィは呪いによって太くなっている人差し指を口に当て、『後でな』とこちらに戻ってくる護衛騎士たちをチラリと見た。
そうか、潜り込んでいる可能性があると言ってたから、冒険者になるってのも秘密ってことか。
しかし、冒険者か。
『いいっすねー冒険者。貯まってきた魔石も売れるっすよ』
『主がこの調子でアンデッドを倒し続ければ、無限に広がる影の中とはいえ邪魔になるのでな』
『宝箱の中身も、邪魔』
そうだった、魔石は毎度手に入るし、倒して出現する宝箱も結構な数を手に入れたしな。
そうか、俺とセレス、そしてヘルヴィで冒険者か。
というか、職業を授かってから怒涛の展開だよな。
死霊魔導師ということはまだバレそうにもないし、将来自分の領地管理するためにはモンスターの対応も迫られることになる。
アンデッドだけなら俺だけで十分だが、通常のモンスター相手にどこまでやれるかもわかっていて方がいい。
それにランクを上げられれば、領地で活躍するだろう冒険者からも一目置かれるかもしれないな。
ふふ……ふふふふふふ。
有りだな!
その夜、死霊騎士団総出でダンジョンに行くことにした。
冒険者になるのだからと、三つのダンジョンに別れて魔石を回収するためだ。
後からそれは失敗だったと気づかされることになる。
見張りのいない俺の部屋にヘルヴィがセレスを引き連れて忍び込んでいたからだ。
気づかずに部屋に戻った俺たちと見つめ合うセレスとヘルヴィ。
絶体絶命の状況を切り抜ける名案は……。
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