第10話 死霊魔導師は謝る。
誰かが頭を撫で、指で髪の毛を梳いている。
後頭部に柔らかい感触と共に、靄がかかったような意識が浮上してきた。
ぼんやりと目を開けると、色白の金髪碧眼の美少女が覗き込んでいた。
誰だ……どこかで見たような……。
「ネクロウ。目が覚めたようだな」
「えっと、どちら様?」
「なんだ、寝ぼけているのか? ヘルトヴァイゼだ。ネクロウ、お前、いつまで我の膝に頭を乗せているつもりだ?」
ヘルトヴァイゼ……か、フニフニと柔らかいのは膝だったんだ。
気持ちいいな。この人が誰かわからないけど、今度セレスに頼んでみよう。
あれ……ちょっと待て、なにかとんでもない名前を聞いたよな。
確か……ヘルト、ヴァイゼ……っ!
「お、王女殿下!」
そうだった! ヘルトヴァイゼ王女殿下だ!
王子殿下だった時のインパクトが凄すぎたし、今目の前にいるヘルトヴァイゼ王女殿下は治療前とは別人のように美少女になっててわからなかった。
膝に乗せていた頭を素早く退け、床にひれ伏した。
いわゆる土下座だ。
「ももも申し訳ありませんでした!」
ヤバい。
これで許されるようなことはないだろう、辺境伯家の三男とはいえ、王女殿下の膝に頭を乗せていたのだ。
マジでヤバい。
床に頭をこすり付け怒りがおさまるのを祈る。
最悪シュヴェールト辺境伯家は没落の連座で死罪だってあるかもしれない。
ヤバいヤバいヤバいんだけどぉおおおおお!
許して下さい許して下さいぃいいいいいい!
床を破り抜く気持ちで少しでも頭を低くすることしかできない。
「くくっ、よいよい。少しからかっただけだ。ほれ、頭を上げ横に座るが良い」
からかっただけ? 救いの言葉に聞こえるけど本当に大丈夫か?
「よ、よろしいのでしょうか」
そろそろと確かめるようにゆっくりと上目遣いで王女殿下の様子をうかがう。
ニヤニヤだが笑顔で頷く王女殿下。
いいのだろうかと思いながらもゆっくりと立ち上がり、応接室来た時の位置に腰をおろした。
「くくっ、ネクロウ、お前は凄いな、こんなに体調が良いのは久方ぶりだ」
「いえ、完治した、ってことでいいのですよね?」
半信半疑で聞きながらも、ブカブカだが服を着ているため見えない部分も多いが見えている部分はひび割れも乾燥肌も見当たらない。
「うむ。見よ、すべすべでぷるぷるだ、触っても良いぞ」
左腕を二の腕あたりまで袖をめくる王女殿下。
それを愛おしそうに右の手のひらでつーっと撫で上げ、指先で押しへこませ、離すと間を置かずに元に戻る。
お言葉に甘え二の腕あたりを指先で押してみる。
柔らかで弾力もある触り心地だ。
当たり前のことだが王女殿下にしてみれば、五年ぶりの感触なんだなってことが伝わってくる笑顔が眩しい。
「ほれ、こっちも触ってみよ。このお腹など常に爛れ、膿が乾く間も無くてな、それはもう触れたものではなかったのだぞ」
「王女殿下! 見せてはいけませんって! お願いですから隠して下さい! ってどこまで捲るつもりですか! 手を引っ張らないで!」
今度は俺の手を取りお腹へと誘うが必死で抵抗。
俺が取り乱すのを楽しんでいるようで、胸まで捲り上げている。
「なんだ、治療の最後は我の胸に頬擦りしたと言うのになにを恥ずかしがってる」
そんなことしたのかよ俺!
「ももも申し訳ありませんでしたぁあああ!」
そんなことをしばらく続け、存分に俺で楽しんだ王女殿下は満足したのか、あの怪しい宝石を付ける。
すると、みるみるうちに小柄体型から肥満体へ風船の様に膨らんでいく。
だけどなんでだ? 肥満体なんてものになる意味あるのだろうか。
「これはな、強力で、色々な症状を出す特殊な毒の進行を押さえるための特注魔道具であり、附与の困難な性別を変え肥る呪いをかけているものだ」
「あ、なるほどです。だったらもう必要な……必要ですね」
考えればわかることだな。毒の進行を遅らせてるからこの姿なんだ。
毒の進行を遅らせる。だから近い未来には死ぬと相手は認識してるってことだ。
それなのに元の姿で現れたら解毒されたと仕組んだものたちにバレてしまうだろう。
「わかったようだな。おそらくだが、監視のために今日来てる護衛の中にも紛れ込んでる」
「え……そんな」
「だから、我の毒は解毒は成功していないことにする。成功したのは傷やひび割れだけとな」
「そうですね。その回復は見てますから、疑うことも無いでしょうし……」
だけどそれなら男になる理由は何かあるのだろうか。
「当時我の性別は兄や姉たちに明かされていなかったからな、男になっておけば第四位の王位継承権も派生するが、女のままでは姉たちが間に入るからな、まあ、毒を盛られたことへの嫌がらせだ」
始めてみた時の丸々としたパンパン顔で、悪戯っ子な笑顔を見せた。
「よし、用事もすんだことだ、結界を解くぞ」
嫌がらせのために性別変換の呪いを魔道具に附与するなんて、とんでもない王女殿下だな。
「ところで、どのくらいの時間二人でいたのですか?」
意識がなかったとはいえ、あまり結界を張っていた長いといらない疑いを持たれるかもしれない。
「それほどではないぞ。たかだか二時間ほどしか経っていない」
「そうなんですね」
治療に二時間か、病院なら待つだけでそんなもんだしな。完治なら早いくらいか。
王女殿下はソファーの背もたれに体重をかけたまま右手を前に伸ばし、左から右にスッと素早く振った途端、パリンと音が鳴る。
「よし、以上だな、さて、用事は済んだのだが、我の肌を見たネクロウよ……」
王女殿下が何か言おうとしたところでバン、と扉が開き騎士たちと父様が部屋に駆け込んできた。
「ヘルトヴァイゼ殿下ご無事ですか!」
あ、病院じゃない、魔法で二時間……も、だよ……。
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