第1話 大惨者サタ・クランツ
俺は、物事を俺にとってどれだけ迷惑かで考える。
俺は、連帯責任というものが嫌いだ。何もかも社会のせいと言い出す人間も大嫌いだ。社会のせいだと?まるで俺も悪い人間の一員みたいじゃないか。俺を悪人にしたてやがって極悪人どもが。手が出そうなほど反吐が出る。ヘドロが出る。
俺は、俺に怒る人間が嫌いだ。手遅れだの、人間性が欠落しているだの言ってなんになる。どうしようもないほど長尺で俺を否定して何になる。憂さ晴らしなら理解できるが、言った後にさらに怒りを増してどうする。顔が赤いだけの赤の他人だ。赤っ恥をかかせやがって。
俺は、綺麗ごとをいう人間が大好きだ。俺が手を汚しても、綺麗ごとを信じさせる人間が悪い。汚いやり方だが、綺麗さっぱり責任を洗い流せる。
俺は、あらゆる戦いは勝敗ではなくダメージの蓄積によって結果を評価すべきだと思う。勝ち負けより相手にどれだけダメージを負荷を与えられたかが、常に次の戦いに影響し続ける。社会と戦うなどと言っている人間がいるが、ああいった人間は騒音あるいは差別でしか社会にダメージを与えられない。一瞬の勝ち負けより、永遠に蓄積するダメージをなぜ第一に考えない?こんな思想は負け犬の思想だとクラブのコーチに言われた。が、コーチが勝者のメソッドなる胡散臭いものを『悪気なく』信じて率いたチームは一回戦で『あっけなく』敗退した。『コーチ』が『高値』で買ったレビュー欄が絵文字まみれで異常に気持ち悪かったことだけは確かだ。スピった台詞を垂れ流し続けるスピーカは本当に見ていて目に五月蠅い。あれ以来あらゆるレビュー欄を見るのがおっくうになってしまった。コーチが俺に読んでみろと進めたのが悪かった。部活を辞める(正確には辞めさせられた)日にプレゼントされたものの、その日のうちに真っ白な有害図書用のポストに捨てておいた。余談だが、夜な夜なホームレスがポストをこっそりと開けて、本を盗んでいるそうだ。ホームレスに対して初めて申し訳ないと感じたなんてとても『いえない』。
人身事故のため、遅れて教室に入ったとき、そこは地獄だった。あえて言えば蟻地獄だった。にきびっつらの陰気臭い女が何やら死んでやるだのみんな死ねだの泣き叫んでいる。
クラスメイトは皆、唖然とその異常な光景を眺めている。
「またみんなで、この我シユスタを無視して!我を無視して!虫のように扱って!これでもか!」
まず、蝉のような奇声を発する女は誰だ。教室に一つ不自然なほど軽い机があったが、コイツのものだったのか。
名前こそわからないが、迷惑だ。俺は『アンテンパルト魔法少女テロ 町が焦げた日』を読みたいんだ。閑静な空間は喚声を取り除いて完成する。喚く女に話しかける。
「あの、自習の時間なんで静かにしてもらっていいですか?」
マスク越しだが、何を言っているかは伝わったらしい。
「私のこの心から、魂からの叫びを迷惑だって言いたいの?あんたも死ねばいいのに。」
急に小声になった。
「人に死ねとか言わないでください。」
一瞬女が固まったかと思うと教卓の上に転びそうになりながら登った。
「ぎぎぎぎぎぎぎ~っ!!ぎ~ぎぎぎぎ、ぎ~ぎぎぎ、ねじねじねじねじねじねじぐりぐりぐりぐりぐりぐりっ!」
思いっきり目をかっぴらいて、奇声(あるいは鳴き声)を発し始めた
教卓の上でねじねじとのけ反りながら、裏向きのゴキブリのような動きしている。
高い音が苦手なので、耳をふさぐ。耳当てを玄関で外したことを後悔した。
求愛行動であれば好みの雄と冬を越せるだろう。が、皆からは無視されている。
「私、先生呼んでくるっ」
眼鏡をかけたいかにも真面目そうな女が、廊下のほうに走っていった。
一方大きなムカデは、黒板のチョーク受けに首筋をぶつけ、サナギのようにうずくまっている。
座ろうとすると、僕の机には見慣れない荷物が大量に置いてあった。今回の席替えを行った日に登校していなかったため、女は席を間違えたらしい。カバンは新品のようで少しだけ色が濃い。カバンのフックには、加工しすぎて顔かどうか判別できないほど不格好なキラキラした男の顔のようなものをアクリルで挟んだキーホルダーがついている。これは不快だ。丁度、キーホルダーが見えないような向きに直して教室の後ろにあるロッカーの上に置く。しかし、カバン自体の重みとチェーンの位置関係で、でキーホルダーの向きが固定されてしまうため、カバンをあの女のようにひっくり返す。
他の私物を香水の匂いに顔をしかめながら、移動していると担任のエレコが入ってきた。
「シユスタさん、親御さんが迎えに来るので保健室で待っていてください。」
エレコは、年配の女性でいつもの明るい顔とは違い顔に涙を浮かべている。ふくよかな頬のフォルムをはっきりさせるように涙が顔についている。
女が教室の外に出ると、エレコは涙ながらに教卓をたたきながら言った。
「皆さん、あれほど人を仲間外れにするなと言ったのに、どうしてこんなことが起こったんですか?シユスタさんがどれほど苦しんだか、貴方たちは知ってるんですか?」
貴方が答えを知らないと不味い質問だろうそれは。形式的な問いということは分かるが。
そもそも、学校に来ない人間をどう仲間に入れるというのだ。シユスタという名前も今日まで聞いたことがない。そもそも、優先される人間はクラスに友達も知り合いもいない俺のような人間ではないのか?性格が悪くても、きっと友達ができると言って励ましたのはエレコ、あんただぞ?
「今日の私の授業はありません。何でこんなことが起こったか、明日までに一枚、このクラス全員にプリントの宿題を出します。なぜこのようなことが起こったのか、今後このようなことを起こさないためにどのようなことができるのか各自、各々が深く深く考えてください。黒板の上にも張ってある通り一人一人の責任を持った行動があらゆる状況に影響を及ぼします。」
だそうだ。貴方が責任を持った行動を取っていればこのような事態は俺の目に入らないところで起こっていたのでは?俺の中でこの人の台詞はすべて『(笑)』がついている。最後に言った決め台詞もだ。
「何行目まで書いたら成績に加算されますか?」
俺はよく質問するほうだ。
「うるさいっ!あなたみたいな人間がいるから、こんなことが起きたんです。」
エレコは顔を真っ赤にして歯を食いしばらせる。皆がこちらに軽蔑の目を向ける。
教員が出す課題について生徒からの質問を受け付けないとは、一体どうなっているんだ?捨て台詞に加えて職務放棄とは社会科教師資格失格だ。
ドアがぴしゃりと閉まり、エレコは出て行った。と、思ったら階段のあたりでひざまずて泣き出した。泣きたいのは俺のほうだ。まるで俺が何の迷惑も鑑みずに人をただただ不快にさせたみたいじゃないか。頼むからこれ以上俺に迷惑をかけないでくれ。
「お前、あったまおッかしいんじゃねぇのか?」
隣の席の他人が、机を俺のいない方向にずらす。
だが、正当性のない人格攻撃をされる道理はない。
「頼むからこれ以上俺を不快にさせないでくれるか?香水の臭いのせいで吐きそうなんだ。勘弁してくれよ。」
俺はうんざりとした目のまま、片足を軸にして、くるりとドアの方向を向きトイレに行った。
廊下を歩いていると、隣の席のやつが俺を追いかけようとしてクラスメイトに止められているのが分かった。人様に迷惑をかけてまで自分の攻撃性を証明したいだなんて本当に迷惑な人間だ。あんな人間が隣の席にいるとなると、身の安全を脅かしかねない。早急に席替えを頼まなくては。
個室の鍵を閉めて、ポケットからスマホを取り出す。俺のプレイしている「ビーストマイナー3」の報酬は、4時間ごとに受け取れる。学校をさぼって受け取るわけにはいかないが、この授業は成績に関係ないだろう。
放課後図書室が閉まると、学年主任のところへ向かった。学年主任は、ひょろがりで、毒々しいほど赤い口紅をつけた30代半ばの男だ。
「分かった。今回のことはエレコ先生と話をしておく。宿題の件は、成績には加算されないが、俺の『建前』でいえば必ずやってほしいと思う。」
まぁ、予想通りの回答だ。成績に関する言質を取るためにした質問に過ぎない。
「何もわからない人についてどう書けばいいんですか、俺は?いつもみたいに『本音』で教えてください。」
俺は今日初めて微笑む。
「あまり言いたくはないが、クラス全員が不登校の生徒を心配したというシナリオにしないとエレコ先生の心が持たないんだよ。体裁ってものがあるんだな。こんなこと言いたくないがAIなどを使いなさい。正直発狂騒動の一件を私は心から迷惑に感じている。君にじゃない、シユスタにな。あと、エレコにもだ。そういえば、こんな宿題を受験期に出すなと親御さんからクレームが来てエレコの阿呆は、喧嘩をしたそうだ。」
俺は、一瞬で察した。
「え、じゃあその対応をしたのは。」
「俺だ。学年主任は暇じゃないのに全く呆れたよ。」
彼は、苦笑交じりに話した。
俺は、この先生が心底大好きだ。表向きでは、『暑そうな』言葉で女受けしているが俺と話すときは驚くほど本音で話してくれる。
「まぁ、今回は『虫の居所が悪かった』と思って深く考えないことだ。
大丈夫だ。AIが『深く考えて』くれる。これこそ『ディープラーニング』だ。君とは本音で話せて楽しいよ。あ、これは勿論本音だ。」
「ありがとうございます。ボーンズ先生。」
俺の口角と黒目は少し上に上がる。先生は、俺にとって有益な人間だ。
忘れ物に気づいて教室に戻ると、エレコからの謝罪のポエム(?)が書いてあった。
皆さん。
昨日は先生としてふがいない態度を取ってしまったことを心から申し訳なく思います。あんなことが起きてしまった責任は私にもあります。
むしろ、懸命に受験に励む皆さんよりも私の責任のほうが重いかもしれません。そして、サタさん。昨日は強い言葉を使ってしまってごめんなさい。先生は、ほかの教員の方々とかかわって自分を見つめなおしました。
そして、今日提出の課題ですが皆さんは提出しなくてもかまいません。カリキュラムで指定していない課題の提出を求めてしまったことは、本校における重大な規律違反です。受験勉強の邪魔をしてしまったことを申し訳なく思っています。
最後にもう一度。皆さん、本当にごめんなさい。そしてあの後、先生を励ましてくれた人たち、本当に感謝しています。
みんなが笑いあえるクラスへ、残された時間は少ないですが進んでいきましょう。
大学生になる君たちが、先生の勝手ですが笑って卒業していってくれることを私は心から望んでいます。
後半の一部は、書けと言われて書いたのだろう。一部だけですます調なのがその証拠だ。
とにかく宿題を提出しなくてよくなったらしい。
クラスのグループチャットで宿題のことを伝えようとすると、俺はブロックされていた。畜生、畜生どもが。手前らは、建前ばかり気にして本当に気持ち悪い。誰一人迷惑じゃなかったのか。自習したくなかったのか。俺はしたかったぞ。俺自身かなり頭が切れるほうだ。お前らごときにキレるメモリ容量は存在しないんだよ。人間の脳を無駄に使わせることは一部を殺していることに等しい。あの人殺しどもが。どいつもこいつも俺に腹が立っているかのように振舞いやがって。俺は全くもって全くの第三者だ。何も関係ない。筋合いも建前も道理もない。
誤字脱字が不安だ…




