逃げるが勝ち
(あ、これ厄介な事になるわ)
私エウレカ・クォンタムがそう感じたのは母が闘病の末天に召され葬儀を終えた後だった。
「エウレカ、新しい母親が欲しくないか?」
「はい?」
父親に書斎に呼び出されそんな事を言われた。
「実は再婚したい相手がいるんだ」
「再婚したい相手、ですか……」
「あぁ、向こうも連れ添いを亡くし寂しがっていてな、向こうにもエウレカと1つ下の娘がいるんだ」
「そうですか……」
「エウレカは王太子と婚約している訳だしやはり片親では何かと不便があるだろう、妹も出来るし文句無いだろう」
父親の発言と同時に私の心にはブリザードが吹いている。
この人は何を言っているんだろうか?
要は浮気相手と再婚する、と言いたいんだろう。
まぁ、薄々分かっていたけど遂に本性を出してきたか。
この人は貴族の再婚、しかも子連れの問題がわかってないのだろうか?
わかってないからこんな話を出すんだろうなぁ……。
「どうだろうか、今度顔合わせをしてみて『結構です』え……?」
「再婚したいならご勝手にどうぞ、ですが私のお母様は亡くなったお母様だけです。 新しいお母様も妹もいりません」
「いや、いきなりそんな反抗しなくても……」
「いきなり再婚の話をしてきたのはお父様じゃないですか。 だいたいその話はお祖父様達は知ってるんですか?」
「いや、それは……」
「お祖父様達が知らない話を勝手に進めて良いんですかね? 困るのはお父様じゃないですか?」
「そ、それはこれから話して……、話せばわかると思うしエウレカだって会えばきっと気に入ると」
「だったらまずお祖父様達と話し合ってください、話はそれからです」
ピシャリと言い放ち私は書斎を後にした。
自室に戻り私はベッドの上にポスンと横になった。
「はぁ〜……、なんで私が喜ぶと思ったんでしょうね、普通に考えてトラブルの匂いしかしないじゃないですか……」
私はそんな事をぼやいた。
「でも、あの感じだとお父様は再婚話を強引に進めそうね……」
我が家は公爵家である、その後釜に入りたい女性はそりゃあいるだろう。
でも貴族の再婚はハードルが高い、まず再婚相手が相応の身分の者なのか、過去に問題を起こしてないか、とか身元調査を行う、それで問題無しとしても国王様の承認が必要になってくる。
実は国王様の承認が一番高い壁だったりする、国王様は若い頃に女性トラブルに巻き込まれており女性を見る目がかなり厳しい。
ちょっとでも疚しい部分が出た場合、承認は得られない。
お父様だってその事は知っている筈なのにどうして再婚なんてするんだろう。
「もしかしたら、お母様と結婚する前から付き合いがあったかもしれないわね、連れ子の娘も異母妹という事になるのかしら……」
そんなの私が絶対に損する未来しか想像できない。
ただでさえ王太子様との関係も良くないし。
月に一回のお茶会も最近ではすっぽかされているしこれでは友好な関係なんて作れる訳が無い。
「なんだか全てが上手くいかないわね……、もう逃げたい気分だわ……」
そんな事を呟いた瞬間、ハッとした。
「そうだわ、逃げればいいのよ……、なんで私が厄介事に巻き込まれなきゃいけないのよ、嫌な事から逃げればいいのよ」
そう思うと急に前向きになった。
そして私は行動を取ることにした。
あれから1か月が経過した。
「う〜ん、良い空気ね♪」
私はのんびりと田舎道を歩いていた。
私が取った行動、それは公爵家から籍を抜く事だった。
幸い私は14歳、法律である程度の自由が認められている。
勿論ゴタゴタはあった。
なんせ王太子様の婚約者でもあるんだしそう簡単に籍は抜けれない。
でも王太子様との関係が良くない事、王妃教育がそんなに進んでいない事等が周囲の証言で明らかになり婚約の話は白紙となった。
婚約の話が無くなったので遠慮なく籍を抜く事が出来た。
「お祖父様達にも感謝しないといけないわね、後押ししてくれたんだから」
お父様は勿論反対したんだけどお祖父様達が私を援護してくれた。
『お前はエウレカの人生を台無しにするつもりか』
『エウレカが肩身が狭くなるのは目に見えている』
『再婚は認めてやる、その条件としてエウレカを自由にさせろ』
と色々言われてお父様は承諾した。
例えお祖父様が許可したとしても国王様がどうするかまではわからない。
「まぁ後は知らないわ、もう関係ないし」
私はお祖父様が紹介してくれたとある村でこれから一人暮らしをする予定だ。
元公爵令嬢が1人で暮らせるか、と思う人がいるけれどノープロブレム。
亡くなったお母様が色々教えてくれたのよ。
もしかしたらお母様はこうなる事を予測していたのかもしれない。
私はお母様の魂が成仏出来ますように、と心の中で祈り歩いていく。