気になるあいつのお弁当
昼休みの教室で、みんな机に弁当を広げてお昼ご飯を食べている。
いつもの光景の中で、気づいてしまった。
クライメイトの一人が、弁当を食べていないことに。
そいつは、斎藤夏子。
佐藤の苗字の俺の前の席に座っている、出席番号が一つ違う小柄な女子だ。
女子はダイエットをしたりするから、なんて一瞬思っただけで、とくに気にはしてなかった。
次の日、弁当を持ってきたらしい斎藤の弁当箱の中身が見えた。
うまそう!
から揚げ、卵焼き、ハンバーグ、エビフライ、ポテトサラダ、俺の好物ばかり入っている。
「夏子、食べ終わった?」
「まだ、はりきって作りすぎちゃって多くて先に行ってて」
断じて盗み聞きをしたわけではないけれど、聞こえてきた会話で斎藤が弁当作っていることを知った。その日は家に帰っても、うまそうな斎藤の弁当が頭から離れなかった。
翌日、密かに斎藤の弁当を見るのが楽しみだったのに、斎藤は弁当を持ってきていなかった。また、ダイエットか? 弁当を忘れたか? どうしてなんだと気になるけれど、入学から半年、喋ったこともないのに、今更話しかけることができない。
その日から、俺は斎藤が二日に一回しか弁当を持ってきていない事実に気づいた。
気づいたら理由が気になってたまらない。
けれど、話しかけるきっかけがつかめないまま時間が過ぎていく。
いつものペースでいけば、二日に一回、あの美味しそうな弁当を見ることができるのに、斎藤は二日に一回のペースを破った。
その日、俺はついに我慢できなくなった。
「なあ、斎藤」
「……え? 私?」
「ああ、その、今日は弁当忘れたのか?」
「あ、うん」
「おにぎりやるよ」
「いいの? ありがとう。今度お礼に何か作ってくるね」
「おう、期待している」
小さな口でおにぎりを口に入れる斎藤を見て、俺はリスを思い出す。俺のおにぎりを斎藤が持てば大きく見えて、不思議だった。
「それで、一つ聞きたいんだが」
「なに?」
「あのさ、斎藤はなんで二日に一回しか弁当食わないんだ?」
俺の問いに、斎藤は満面の笑みで答えた。
「明日からは毎日食べるよ」
「それはいいけど、なんで二日に一回だったんだよ?」
「気になる?」
十年後、俺は斎藤の作った愛妻弁当を持って、会社に向かうようになる。
おしまい
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