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短編集

猫の贈り物

作者: 暮 勇

 私は誇らしかった。

 散々待って、観察して、日が翳る頃になってようやく獲物を仕留めたのだから。

 それに、その獲物をここまで無事運べたことも、私が今胸を張る理由の一つだ。この界隈には他者が獲った獲物を横取りしようとする不届な輩も少なくはない。そんな修羅の様な道のりを私は何人も寄せ付けることなく無事運び終えたのだから、それを少しくらい誇ってもバチは当たるまい。

 しかし私が最も自身を誇りに思うのは、この獲物を我が物とせず、贈り物にするという寛大さにあった。本当は新鮮なこの獲物を食べてしまいたくて堪らなかったが、あやつの日々の献身に感謝の意を示そうとしていることを思うと、不思議と腹は空かなかった。

 私は一度息を整え、大きな呼び声を上げる。きっとこんな贅沢な品を見た途端、あやつは飛び上がって喜ぶに違いない。

 壁の向こうでがさがさと、ものが動く音がする。

 きっと私が来たことに気付いて、準備をしているのだろう。あやつはいつも私に触れるためだけに食事の用意をするのだ。日頃我らを捕まえんとするため食事でおびき寄せようとす者がいる中で、まこと出来たやつだ。

 食事が入った皿を持ちながら、あやつは壁を押し開けて私を見下ろした。その途端、こちらが驚く程大きな鳴き声を出し、体が浮いた。皿に盛られた食事が溢れてしまったのはもったいなかたっが、中々に見ものだった。

 やはり、飛び上がって喜んでいる。

 私は一層胸を張って、持っていけ、とひと鳴きした。

 そいつはまじまじと私の贈り物を見つめ、固まっている。そして私に目線を合わせる様にかがみ込み、ぎこちない様子で私の頭を撫でた。

「僕のために、こんな大きな鳩を仕留めてきたのかい?す、すごいなぁ」

 声は感動で震えている。

 なるほど、贈り物をするのは気分がいい。

 私は、自分が誇らしくて仕方がなかった。

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