一ヶ月後の覚醒
あのラストベガの事件から一ヶ月が過ぎた。
シュレドは頭の毛をすべて剃り、アルヴァ宰相へだけではなく、国民たちへも謝罪の意を示した。
アルヴァ宰相はにべもない程度だったが、国民たちは大受けだった。
『あの出来るイケメンで通しているシュレド大臣が……うぷぷ……』
『ヘマをして頭を丸めるって子どもみたい……かっわいい!』
『お前たち失礼だろう……クスクス』
『ここまで国が不甲斐ないとはな……。もしかして追放されたノアクル王子の方がマシだったんじゃ……』
『おいおい、俺もずっと思ってたけど口に出すと危ないって。あの禿げ頭が国民を弾圧してくるかもしれないぞ』
『けど、あの頭じゃまったく怖くねぇ~……ギャハハハ!!』
シュレドは激怒した。
生まれて初めての純粋で黒い怒りだ。
良家に生まれ、エリート街道を進んできて、周囲の者は大抵はこちらを尊敬したり、敵対していた者は金で懐柔したりしていた。
それなのに――それなのに――
「……もういい」
「は? シュレド様、突然なにを仰って……?」
現在、シュレドは自らに与えられた領地――城塞都市バルプタの執務室へと戻ってきていた。
普段は王都で仕事をしているので、部下に領地運営を任せている。
その部下でさえ、驚きの声をあげてしまうくらいにシュレドは憔悴――いや、闇を纏っているような異常な雰囲気だった。
「気に入らない相手を殺すため、恥も外聞も地位も名誉もすべて捨てましょう……」
「しゅ、シュレド様……?」
彼専用の執務室の机の引き出しを開けて、鋼鉄製のマスクを取り出した。
それはギザギザ歯の部分が開閉式の仕組みになっていて、一目で凶悪とわかるデザインだ。
一言でたとえるのなら鋼鉄サメの顎――それを口に装着した。
まるで最初から身体に付いていたかのようなフィット感だ。
次に大きなクローゼットを開けると、マフィアが着るような毛皮のコートを手に取る。
バサッとそれを羽織ると、マスクと表情も相まって、冗談のようだったスキンヘッドが凄みを帯びて見えた。
「な、何をするおつもりですか……?」
「この城塞都市を動かして、ノアクルと名乗る者――いや、アレは偽物ではない。本物のノアクルです……私にはわかる……殺すべき相手がわかる……」
「じょ、城塞都市を動かすですって!? お止めください! この古代文明の技術が使われた城塞都市バルプタは言い伝えによるとたしかに動くと聞きました……。しかし、この城塞都市ごと動かしたらここに住む領民の生活は――」
「うるさいですよ、黙りなさい」
「……えっ!?」
シュレドは金属のギザギザ歯をガパッと開き、まともな理由で反対してきた部下に噛み付いた。
首筋から流れでる血、痙攣する身体。
「あ、あががが……」
それを片手で軽々と持ち上げて、ゴミのように投げ捨てた。
「うん、すばらしい。この城塞都市の決戦魔術――領民たちが私に力を与えてくれる。言ったでしょう、すべて捨てると。私を馬鹿にした領民のゴミ共など、もってのほかですよ」
シュレドは執務室――本来は城塞都市バルプタの艦首に設置されている椅子に座り、浮かび上がってきたコンソールを操作する。
「さぁ、城塞都市バルプタよ……ノアクルを粉砕するために抜錨するのです!!」
地面が割れ、大地が震え、巨大な城塞都市が空へと浮き上がったのだった。
お待たせしました! 第四章のスタートです!
少し遅めのペースで投稿させて頂きたいと思いますが、とりあえずプロットは完成済みです。
それと新連載も投稿したので、そちらも応援よろしくお願いします。
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