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棄てられ王子の最強イカダ国家 ~お前はゴミだと追放されたので、無駄スキル【リサイクル】を使ってゴミ扱いされたモノたちで海上都市を築きます~  作者: タック
第十一章 アルケイン王国の決戦

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エピローグ お前はゴミだと追放されたので

「野郎共~、積み込み作業がんばだぜ~」


 ここは海上都市ノアの巨大倉庫だ。

 他で売る交易品や、生活に必要な物資などが詰め込まれている。

 今回は食料などの物資をアルケイン王国側に下ろした分、ガンダーの街の芸術品や、ランドフォルが強欲にも溜め込んでいた希少品などを積み込んでいる最中だ。

 そこでトラキアは木箱をベッド代わりにしながら、ビーフジャーキーをオヤツにしていた。


「トラキア、あんたも働きなさいよ」

「げっ、レティアリウスの姐さん……!? こ、これは……その……戦士の休息ってやつで……!」


 いつの間にか、冷ややかな目をしたレティアリウスが側に立っていた。


「もうあの戦いから、だいぶ休みを取ったでしょ。スパルタクスを見習いなさいな」


 レティアリウスの視線の先には、大きな木箱を片手で持ち上げるスパルタクスがいた。

 左右の手と、背中にも木箱を背負っている。


「これ、丁度良いトレーニング」

「お、オレ様スピードタイプなので……」

「じゃあ、アタシのスピードトレーニングに付き合う?」

「そ、それもちょっと……やっぱり頭脳派ってことで!!」

「まったく、調子が良いわねぇ」


 そんな出航前のいつもの光景だったが、そこにノアクルだけがいなかった。




 ***




 ランドフォルの事件から少しだけ落ち着きを取り戻していた王都だったが、今日は大きく盛り上がっていた。

 国民たちは大興奮だ。


「もうすぐ戴冠式が始まるぞ!」

「急げ!!」

「救国の王子ノアクル王子様が、王になる瞬間を見逃すな!!」

「でも、なんで裁判広場でやるんだ?」

「城の王の間が半壊しちゃったからじゃないか?」


 その国民たちとは反対に、浮かない顔をしている少女――ステラがいた。

 ステラは戴冠式の控え室へ向かい、本日の主役であるノアクルを見つめる。

 彼は次の王に相応しい最高級の大きなマントを装着していた。


「ノアクル王子、ちょっといいでありますか?」


 本来ならこれから王になる者に対して、王国軍の一兵士が気軽に話しかけていいものではないだろう。

 控え室に通して二人きりというのもありえない。

 そんな自分がどれだけ配慮された立場なのか、というのを理解しつつも問い掛けなければならない。


「どうした、ステラ?」

「どうしたって……戴冠式でありますよ! 本当にいいのでありますか!?」

「いや、だからそれがどうした。王が崩御したのなら、第一王子が次の王になるのは普通だろう」

「それはそうでありますが……」


 言いたいのはそういうことではない。

 歯がゆい。

 だけど、絶対に言わなければならない。


「アルケイン王国の王になったら、海上都市ノアはどうなるでありますか!!」

「ローズがどうにかするだろ。それにステラには関係ないことだろう?」


 その言葉を聞いてステラはショックを受けた。

 たしかにステラは部外者だ。

 しかし、たしかに彼らの仲間として一緒に戦ったのだ。

 ノアクルから聞いた過去の活躍の話に胸躍らせ、どれだけその場所が素晴らしいものかも知った。

 だから、今のノアクルの態度が許せなかった。


「ノアクル王子にとって、あの場所はそんなに簡単に手放せるものなのでありますか!? ゴミと呼ばれるようなどこか足りない存在たちが集まり、姿形も色も違うけど、それでもパズルのピースのように綺麗に嵌まっていって……その中心には……あなたが……ノアクル王子がいたはずであります!!」


 ノアクルは無言で立ち上がり、顔すら見せないようにして戴冠式の会場へ向かっていってしまった。


「きっと……きっと……今乗らないと後悔するでありますよーッ!!」


 ステラは大声で叫ぶが、ノアクルは振り返らなかった。




 結局ステラは何もできず、戴冠式のパレードが始まってしまった。

 ノアクルとジウスドラ、ツァラストが馬車に乗って王都を主要部分を回るのだ。

 ステラは王国軍の護衛として、馬車の近くで馬に乗っている。


「きゃー! ノアクル王子ー!」

「前は気付かなかったけどイケメンー!」

「ノアクル王子に栄光あれー!!」

「助けてくれてありがとうー!!」


 ただの感謝の声だけでなく、黄色い声援まで送られている。

 ノアクルは王子らしい仕草で馬車の外へ手を振っている。

 以前からは考えられないサービス精神だ。

 しばらくして、戴冠式用に装飾された裁判広場へと到着した。

 正装を纏った位の高い人間が待機しており、アルケイン王国の由緒ある王冠も台座に置かれていた。

 ステラは大勢の王国軍の中から、特別にノアクルの護衛として近くに立つ。

 こうやってちゃんとした場所で見ると、彼は凜々しい王子の表情をしているのがわかる。

 それと同時に、もう海上都市ノアのノアクル王子ではないのだな、と寂しくなってしまう。


 音楽隊による演奏、歌手による国歌斉唱、建国の歴史に基づいた叡智の旅人と国を持たぬ民であった初代国王の劇が子供たちによって行われた。

 そのあとも厳かな儀式が細かく行われる。

 今回はランドフォルが収集していた中に、古い海神にまつわる本来の戴冠式のことが書かれていたので、そちらの方を採用したようだ。

 忘れ去られた海神であるツァラストと、ステラの二人からしたら実感はないが、何かむず痒い感じがする。

 さすがに神官――ではなく〝海神官〟の育成が間に合わないので、重要な儀式の部分はツァラストが行うことになっている。


「ノアクル・ズィーガ・アルケインよ。永劫回帰の海神に誓って、その永遠の人類愛を民のために捧げますか?」

「誓います」

「よろしい、このツァラストが……じゃなくて、偉大なる永劫回帰の海神の祝福あれ」


 ツァラストは、ノアクルの頬に軽く口付けをした。

 次に台座に置かれていた王冠を両手で慎重に持って、ノアクルの頭にゆっくりと載せた。

 一歩下がってから、大きな声で宣言する。


「新たなるアルケインの王よ! 永劫回帰の海神ツァラストステラと共にあれ!」


 これで戴冠式の手順は終わりだ。

 国民たちは一斉に歓声を上げた。

 (くら)く、(いびつ)だったランドフォルの国は終わったのだ。

 これからは救国の王子であるノアクル王のアルケイン王国が始まる。

 その様子を見てステラは、これで良かったのかもしれないと思った。

 自分の勝手な気持ちを優先しすぎていて、ノアクルや、国民たちのことを考えていなかった。

 あの楽しそうな航海の日々を聞いて、自分もその仲間になったと錯覚していただけだったのだ。

 それで自分もいつか……などと淡い無謀な期待を持ってしまったこともある。

 そういう自分勝手な気持ちをぶつけてしまっていただけだったのだ。

 姉は許嫁を得て、もう依存もできなくなった。

 だからといって、ノアクルに依存するのもいけない。

 もっと立派に一人で歩ける大人にならなければならないのだ。

 そのはずなのに――。


「どうした、ステラ。なぜ泣いている?」

「ば、ばか。王様がステラなんかに話しかけちゃ――」

「ふむ、そうか。それなら……」


 ノアクルは少年っぽい無邪気な笑みを見せた。


「パス、次の王はジウスな」


 信じられないことに王冠をジウスドラに載せてしまったのだ。


「えっ!?」

「ノアクル王は何をやって……」

「よく見えない、見せろ見せろ!!」


 国民たちも混乱しているようだ。

 近くで見ていたステラはもっと混乱している。

 平然としているジウスドラとツァラストがおかしい。


「まったく、兄上はこまったものだ。これは新たなる王として余が罰を下さねばならぬな」

「ええ、そうですね」


 むしろ二人は笑うのを堪えきれずにニコニコとしている。


「ノアクル・ズィーガ・アルケインをゴミ流しの刑に処す!」


 国民たちはさらにザワつくが、次の言葉で何となく察してしまう。


「丁度良い〝イカダ〟も港にあるし、それに乗せてゴミの海へ流すことにしよう」


 海上都市ノアのことだと国民たちは口々に言った。

 つまり、一度ノアクルが王になったあと、ジウスドラに王の座を渡して遺恨をなくしたのだろう。

 ひどく回りくどい茶番だ。

 だが、ノアクル、ジウスドラ、ツァラストがとても楽しそうにしているので何だかわからないが良い雰囲気になっている。


「兄上、お達者で」

「ああ、ジウス。お前もな」


 スキル【リサイクル】の紋章がある右手と左手で兄弟の固い握手が交わされた。

 それを見てステラは、ようやく状態が理解できた。

 ノアクルは最初から海上都市ノアに戻るつもりだったのだ。

 それが他人事のはずなのに、嬉しくて嬉しくて、今度は嬉し涙が出てきてしまう。

 最後なのでノアクルに対して、王国軍のステラではなく、ただのステラとして言葉を贈る。


「ノアクル王子! このアルケイン王国で積み上げた一つ一つの経験が、世界のどこにいても、同じ想いを抱いていけると信じているであります!! あなたに幸あれ!!」


 ノアクルはその言葉をスルーして、ツァラストの方に話しかけた。


「弟のことを頼んだぞ、ツァラスト」

「はい。こちらの姉のことも頼みました」

「え?」


 ステラは、ノアクルに手を強く引かれながらマヌケな声を出していた。




 本日の主役であるノアクルが、女性であるステラの手を引っ張って街の中を走っている。

 それはハタから見たら駆け落ちか何かに見えるのかもしれない。

 もっとも、ステラは混乱しすぎてそんな場合ではない。


「の、ノアクル王子!? これはいったい!?」

「わはは! ゴミ王子と呼べ!!」

「い、いつものゴミ王子に戻ってる!?」

「何を聞きたいんだ? ゴミ王子と呼び続けてくれたら教えてやらんこともない!」

「じゃ、じゃあ……もしかして最初から王になる気は無くて……」

「他の奴らの体裁を保つために一瞬だけ王になってやっただろう。全部、ジウスとツァラスト、アルヴァさんとかのお偉いさんには通達済みだ。海上都市ノアの面子にもな」

「国家を巻き込んだ茶番でありますー!?」


 ステラは唖然としてしまった。

 むしろ関係者で知らなかったのは自分だけで、今思い返すと恥ずかしすぎることがある。


「じゃ、じゃあ……控え室で必死に王になるのを止めたときも……」

「笑いを堪えるのに必死で顔を見られなかった」

「ゴミ王子ぃぃぃぃいいいい!! そういうところが本当にゴミ王子でありますよおおおおおおおお!! ゴミゴミゴミゴミ王子いいいいい!!」

「連呼は嬉しいな!」


 顔から火が出るほどに恥ずかしい。

 それでも、こちらを少しだけ見てきたノアクルの表情は優しくマジメなものだった。


「まぁ、最初は本当に王になっても良いかなとも思っていたんだ」

「え?」


 単純に言うと、ステラはその瞬間、ギャップにやられてしまった。

 わかりやすく言うと、ときめいてしまったのだ。

 硬く大きい手で、手を握られているというのも意識してしまった。


「あぎゃっ!?」


 脳の処理が追いつかなくなり盛大に転んでしまった。

 手を繋いでいたのでノアクルが引き上げる形で頭は打たなかったが、足をくじいてしまった。


「大丈夫か?」

「めっちゃ足を捻ったであります……ゴミ王子のせい……」

「まいったな、出航を待たせてるのに……。それなら、よっと」


 ノアクルは何の躊躇もなく、ステラをお姫様抱っこしてきた。


「な、ななななななな!?」

「意外と軽いな」

「意外と、ってなんでありますかー!?」


 手を繋いでいただけでアレだけ混乱していたのに、もうステラの脳は限界だった。

 思わず変なことを口走ってしまうくらいに。


「な、なんでステラを海上都市ノアへ連れていくのでありますかー!! ステラは妹が一人で幸せになったから、ステラも一人で何とかしなきゃって思ってるところだったのに……!!」

「違う人間なんだから、同じようにしなくてもいいだろう」

「で、でも……血の繋がった唯一の家族で……」

「俺とジウスも、いつも違う道を選んでるしな」

「あ……」


 その言葉は非常に重く、説得力があった。

 険しい人生を歩んできた二人の兄弟。

 それぞれが、それぞれのやり方でアルケイン王国を救ったのだ。


「ふむ、わからないならゴミでたとえよう。たとえ燃えるゴミと燃えないゴミがあっても――」

「いえ、それはいらないであります。さっきので充分に伝わったであります……」

「そうか、それは残念だ」


 冗談でなく本当に残念そうなのが、ノアクルらしい。


「それに頼まれたからな、ジウスとツァラストに」

「ふ、二人に……何を……?」

「外の世界を見たがっているステラを海上都市ノアに乗せてくれ、ってな」

「べ、別にステラは……」


 そんなことを思ってない! そう強がろうとしていた。

 しかし、ノアクルに運ばれている最中に海が見えてきた。

 巨大な海上都市ノアも見えてきてしまったのだ。

 心の中の気持ちが爆発した。


「見たい!! 大きな海を渡って色々なものが見たいであります!! もっと色んな人と出会って、もっと色んな食べ物を食べて、もっと色んな文化を見て、もっと色んな経験を積んで――ステラもノアクルみたいに、誰かに冒険の話を聞かせるであります!!」

「そういう気持ちが、また俺に火を付けてくれたのかもしれないな。感謝する」

「えっ?」


 ノアクルが珍しく素直に呟いた声は、海の音にかき消されてよく聞こえなかった。

 そのまま目的地に到着した。

 多くの仲間達が出迎えてくれて、ノアクルは新たな仲間へ大声で言った。


「ようこそ! 海上都市ノアへ! 使えるゴミはいつでも歓迎だ!」


ここまでお読みいただきありがとうございました!

いったんのエピローグです。

と言っても、また何かのきっかけで書くかもしれません。

皆さんがコミカライズ版も応援してくれたら、人気次第でワンチャン……!!

(おっと、偶然にも本日コミカライズ一巻が発売してるじゃありませんか!! 私も漫画家のフミキチさんにかなり協力して、出版社さんも宣伝に力を入れてくださっているので是非よろしくお願いします。何か海が舞台だからか男も女も肌色率が高めな気がします、よろしくお願いします)



そして、新連載も始めました。

タイトルは

『魔法殺しの刀使い ~魔法優位の国で不遇な剣士さん、MPではなく【TP】という謎のゲージが生えてきて存在価値なしとされた件~』


異世界現地ものですね。

主人公の最初の強さはノアクルと近い感じですが、今回は挑戦的なコンセプトをいくつか入れているので読み味が結構変わっていると思います。

TPというのは、ゲームをしていたら結構出てくるアレですね。強いです。

それに加えて、今回はきちんと序盤(六話くらい)から〝恋愛対象〟としてのヒロインを用意してみました。

私の作品としてはメチャクチャ珍しいです、挑戦です。

他にもいくつか新連載がすでに用意済みなので、そちらも楽しみにお待ちいただければ幸いです。




面白い!

続きが気になる……。

作者がんばれー。

などと感じて頂けましたら、下の方の★★★★★をポチッとして評価をもらえますと作者が喜びます!

「ブックマークに追加する」と合わせて合計12ポイント追加になります。

ぜひ、この作品を多くの人に広めるためにご協力お願い致します。



さぁ、星を入れたら新連載へ出航!! 使えるゴミたちが待ってるぜ!!

『魔法殺しの刀使い ~魔法優位の国で不遇な剣士さん、MPではなく【TP】という謎のゲージが生えてきて存在価値なしとされた件~』

↓のリンクから簡単に飛べるようになっているはずです、たぶん。

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いつも読みに来て頂き、ありがとうございます!

「ブックマークに追加」も便利なのでオススメです!



こちら、コミカライズ版です!

漫画:フミキチ先生
原作:タック


【↓情報はこちらのリンクから↓】
i929463

【新作です! タイトルを押すと飛べます!】
『魔法殺しの刀使い ~魔法優位の国で不遇な剣士さん、MPではなく【TP】という謎のゲージが生えてきて存在価値なしとされた件~』
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