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【第十一章完結】棄てられ王子の最強イカダ国家 ~お前はゴミだと追放されたので、無駄スキル【リサイクル】を使ってゴミ扱いされたモノたちで海上都市を築きます~  作者: タック
第十一章 アルケイン王国の決戦

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海上国家ノア+アルケイン王国VS強欲の魔人ランドフォル

 ノアクルは急いで海上国家ノアへと帰還した。

 途中、ジウスドラたちとは別れたのでノアクル、アスピ、ジーニャス、ムル、ダイギンジョー、ステラ、スパルタクスの七人となっている。


「ノアクル様たちがお戻りになったぞー! 避難民も収容済み! 錨を上げて沖へ出ろ!! 急げー!!」


 海賊の一人が大慌てで船内連絡をしているが、それには理由があった。

 さらに巨大になったランドフォルがノアクルたちをゆっくりと追ってきていたのだ。

 その姿は黒い羽を生やし、二つの鳥の頭を持つ化け物だった。




 ***




 ノアクルたちは艦橋へ到着した。

 濡れタオルをもらって顔の汚れを拭きながら、待機していたローズへ質問をする。


「現状、どうなっている? デカすぎるアイツから必死に逃げてきたから状況がわからん」

「まずは海上国家ノアの状況から報告しますわ。殿下の指示通り避難民を受け入れながら、ダストシリーズを撃退。負傷者はゼロ……ですが」

「どうした、歯切れが悪いな」

「シュレド元大臣と思わしき輩が出現。なぜかこちらを助けるためにダスト兵を倒していましたわ……」

「あー……。それは今のところ放置しておいても大丈夫かもしれない。良い奴ではないが、敵対してこないのなら問題ない。別に怨みもないしな」

「そ、そうですか……」


 たぶんシュレドは記憶喪失のときに色々と助けてもらって、思うところがあったのだろう。

 過去に犯したパルプタの民への罪は消えないが、今はそれどころではない。


「次にあの向かってくる巨大な物体……ランドフォルですか?」

「ああ、ぶん殴って倒したと思ったら、あんな感じになった」

「望遠鏡で観察していた者によると、瓦礫どころか王都の建物も吸収しながら大きくなっているようです。さらに王都周辺にいたダスト兵十万体も取り込んだ模様」

「どうりでデカくなっているわけだ……。アレが今までのように質量兵器をぶつけてきたらひとたまりもないな……」


 アレだけデカいのだから、さらに巨大な攻撃を仕掛けてくると予想できる。


「ただ、あんな形態になれるのなら最初からやっておけばよかったのでは。出し惜しみか?」

「あの姿は不便なことも多いからのぉ……」


 アスピが話に割って入ってきた。


「知っているのか? アスピ」

「完全な記憶は戻っておらんからボンヤリとじゃが、あの状態ではほとんど自我が残っておらぬはずじゃ。お主やトレジャンも経験があるじゃろうて」

「あー……死者の島でのアレか……」


 死者の島で意識を失った二人が、巨人のような姿になって無差別に破壊をしたときのことだ。

 たしかに強力なパワーを得ていたが、およそ知恵というものが存在しなかった。


「たしかに陸のジーニャスよりも低いIQは不便だな……自らそうなりたくはない……」

「比較対象がひどいですにゃー!」

「じゃが、ノアクル。あの状態にさせたからこそ、倒すチャンスができたとも言えるぞい」

「どういうことだ?」


 アスピは急に人化をした。

 全裸なのでいつもながらビックリする。


「ノアクル、ちょっと模型を作ってくれんか」


 ノアクルは言われた通りに模型を作り、ついでに全裸のアスピ用に服も作ってやった。

 材料はゴミや、先ほど渡されたタオルなのでクオリティ的には低いが気にしない。


「まず、強欲の魔人相手ともなると普通の手段で倒すことは難しいのじゃ」

「そういえば、万物灰塵砲(ゴッド・ダストカノン)が必要だとか言ってたな。それなら、最初から油断して玉座に座っているランドフォルに撃ち込めば勝ちだったんじゃないか?」

「お主、万物灰塵砲(ゴッド・ダストカノン)を撃つときにいつも近くにいるせいで気付いてないかもしれぬが、これは発射準備のときから物凄い魔力反応を発しておるのじゃぞ。事前に気が付いて警戒され、破壊されるか、相殺されるか、回避されるのがオチじゃ。そもそも海からでは的が小さすぎて、相手がどこにいるのか把握すら難しいというのもあるのぉ」


 たしかに〝魔法レベル〟の強力な攻撃で、しかも溜めが長い万物灰塵砲(ゴッド・ダストカノン)に気が付かない馬鹿はいないかと納得した。

 アスピは人間形態ランドフォルの模型を、巨大化ランドフォルの模型に置き換えた。


「じゃが、あの形態にしたことで相手は知能を失った。つまり――」

「そうか、今なら万物灰塵砲(ゴッド・ダストカノン)を直撃させられるということか!」

「その通りじゃ。前も言ったが巨大な分、その弱点となるコアがどこにあるか博打じゃがのぉ」

「よし、一応の勝機は見えたな!」


 ノアクルは片手でグッとガッツポーズを取った。

 それを見ていたピュグが申し訳なさそうに言う。


「あの~……ノアクルさん様……。申し上げにくいのですますが……」

「ん? ピュグ、どうした?」

「修理した万物灰塵砲(ゴッド・ダストカノン)の調整が完璧ではなく、チャージ速度が落ちていて、発射する前に追いつかれてしまうですます……」

「マジか……」


 現状、海上都市ノアは沖へ向けて逃げているのだが、たしかに追ってくる巨大化ランドフォルが徐々に近付いて来ているように見える。

 巨大すぎて距離感がないのだが、歩幅もデカいのだろう。


「ど、どうにか出来ないのか?」

「強引に想定以上の魔力を送り込めばチャージ速度を上げられますが、この海上都市ノアの全員の魔力を使っても足りないですます……」

「万事休す、か」


 あのジーニャスやローズが押し黙っているので、本当に解決策がないのだろう。

 そのとき、突然の声が聞こえてきた。


「このまま迫ってくる巨大化ランドフォルに潰されるしかないというのか――と思っているなぁ! ゴミ王子ぃ!」

「ゴミ王子……? ステラ、今呼んだか?」

「いえ、こんな切迫した状況でそんなことは普通言えないでありますよ」

「だよなぁ……。じゃあ、誰が……」


 ベタンッと艦橋の窓ガラスに張り付く男――シュレドがいた。


「私ですよぉ! ゴミ王子の宿敵、元第一王子のライバル、無駄スキル持ちの好敵手! シュレドですよ!!」


 テンション高めのシュレドに相反して、艦橋内は静まりかえってしまった。

 ノアクルは、チラリとローズの様子をうかがった。


「殿下。ろくでもない目に遭わされたことがあるので、このまま海に放り投げましょう」

「えっ、さすがに俺もそこまではしなくてもと思ってしまうのだが……」

「よーく聞きなさい、憎き海上都市ノアの者共よぉ! 密かにこの状況を打開するための準備を私が――この超有能最強世界大臣の私がしておいてやりましたよぉ!!」

「ほら、ローズ……ああ言ってるし中に入れて話を聞いてやろうよ……」

「チッ、仕方がありませんわね」


 ――しばらくして、普通に入り口からシュレドが入ってきた。

 相変わらずヴィランめいた格好がすごい。


「一応言っておくが、何かしたら全員でたこ殴りだからな」

「ククク……できますかねぇ!」


 シュレドはムキムキの筋肉を見せつけてきた。

 そこで気が付いた。


「あれ、シュレド。お前、なんでパルプタの戦いのときみたいに強くなってるんだ? いつもはナヨナヨの中年だよな?」

「な、ナヨナヨの中年……!? 失敬な、インテリと言いなさい!」


 たしか記憶喪失のときに出会った綺麗なシュレドのときも、パワーアップ状態ではなかったはずだ。


「ヒミツを知りたいですかぁ! ゴミ王子ぃ!」

「あー、知りたい知りたい。早くしないと追いつかれてお前と一緒に海の藻屑になってしまうから早く言え」

「実はこんなこともあろうかと、アルケイン王国の民から魔力を吸収するための簡易決戦魔術を国中に仕込んでおいたのですよ!!」

「……またみんな干からびないか?」

「残念ながら設備がない簡易的なものなので、限界まで搾り取ることは不可能……残念ですよ……」

「全然、残念じゃないけどな。というか俺を倒すために決戦魔術を再び使おうとしてたんじゃないか?」


 シュレドはギクッとした表情をしたが、そのままスルーして話を続けてきた。


「こ、この簡易決戦魔術を使えば、万物灰塵砲(ゴッド・ダストカノン)とやらに魔力の補充もできましょう!」

「たしかにそうだが……強制的にアルケイン王国の民から魔力をもらっていいのか……?」

「まぁ、魔力量が一定以上の者からしか吸い取れない簡易版なので、死者は出ないでしょうねぇ」

「いや、そういうことではなく、気持ちの問題というか……」


 いきなりアナタの魔力を使わせてもらいます、と言って勝手にされるのは嫌だろう。

 海上都市ノアの自らの意思で魔力を分ける術式とは根本的に思想が違うのだ。

 そう悩んでいるとローズがきっぱりと言い切った。


「どっちみち、ランドフォルの資源に頼りきりだった民たちの自業自得でもあるので使わせてもらいますわ」

「あとで恨まれるかもしれないぞ……」

「知ったことではありませんわ。むしろ尻拭いをしていると感謝してほしいくらいですわ!」


 少し無理をしているようなローズを見て溜め息を吐いてしまう。


「ローズ……お前、自分が悪者になって責任を負おうとしてるだろ」

「べ、別にそんなことは……」

「せめて、そのくらいは俺に背負わせろ。――ここにノアクル・ズィーガ・アルケインが簡易決戦魔術の限定使用を承認する!」


 これで指示したのは自分ということになる。

 ローズが何とも言えない視線を向けてきているが、さすがに普段頑張ってもらっているのだから、これくらいやらせてもらっても文句は言わせない。

 その二人のやり取りを見て、シュレドが手の平をポンと叩いて何か思いついたようなポーズをしていた。


「実は私も、露悪的な行動をしていただけというのはどうでしょうか?」

「いや、お前は本当に私利私欲のためだろう……」

「ははははは! 私の行動を理解できない凡人が世界に多すぎただけですよぉ! だからこそ、世界をプロデュースする世界大臣たる私が必須!!」

「絶対にコイツ、この戦いが終わったら牢屋にぶち込んでおいた方が良いと思うぞ、うん」


 こんなやり取りをしている間にも、巨大化ランドフォルは海の中を歩いて徐々に迫ってきている。


「そうと決まれば、万物灰塵砲ゴッド・ダストカノンに簡易決戦魔術で魔力供給を――」

「私が機関室に直接行って、アルケイン王国中の魔力をまとめてぶち込みますかねぇ」

「コイツ、エンジンを破壊したりしないだろうな……?」

「ハハハハハ! そんなつまらないマネはしませんよ! ゴミ王子に勝ったと言えるには全力のときを、もっと徹底的に叩きつぶさなければいけませんからねぇ!」


 不安しかない。


「私ちゃんが連れていって、機関室ではドワーフ全員で見張るですます!」

「頼んだぞ、ピュグ」

「いざとなったらエンジンを爆発させて、元大臣さん様を吹き飛ばすですます!」

「……それは止めてくれ」


 それからローズとジーニャスが各所へ指示をして、万物灰塵砲(ゴッド・ダストカノン)の発射準備が行われた。

 機関室からのチャージ報告がかなり早くなったのだが、それでも巨大化ランドフォルが不気味に近付いてくる。


「ジーニャス……海のことなら大体把握していると思うが……これは……」

「うーん、目視でもわかっちゃいますにゃ。これでも発射前に追いつかれますにゃ」


 重い積み荷を海に捨てるなど、可能な限りの手段を尽くしたが、それでも間に合わない。


「腕アンカーを発射して妨害したり、戦えるものが甲板で迎え撃ったりとかは……」

「その分、魔力を消費するのでチャージが遅くなってしまいますにゃー」

「打つ手無し、か……」


 巨大化ランドフォルの手が海上都市ノアへ届こうとしたとき――魔術通信が入った。


『兄上、援護を行います』

「その声は……ジウスか!?」


 ジーニャスが慌て気味に報告をしてくる。


「ノアクル様、アルケイン王国旗艦エデンがこちらに……いえ、巨大化ランドフォルに特攻していきますにゃ!?」

「マジか」


 アルケイン王国を象徴する巨大な鉄の船が、巨大化ランドフォルに向かって体当たりをしている。

 それも手加減無しの全速前進だ。

 巨大化ランドフォルは、その大きさにもかかわらずグラついて動きが止まった。


『こちら機関室、魔力チャージ完了ですます!』

『私に感謝しなさいよぉ! ゴミ王子ぃ!』


 それを聞いたノアクルは環境にあるトリガーに指を乗せるが、まだ発射を迷っていた。


「どこに照準を付ければ……再チャージを考えたら一発勝負だ……」


 いくら万物灰塵砲(ゴッド・ダストカノン)が広範囲攻撃だと言っても、巨大化ランドフォルのすべてを消し飛ばすことはできない。

 コアを外してしまったら、海上都市ノアが破壊されてすべてが終わってしまうだろう。

 緊張して手が汗で濡れている。

 そのとき、魔術通信からジウスドラの声が聞こえてきた。

 珍しく声が震えている。


『あ、兄上……頭のところを……望遠鏡で見てください……』

「なに……?」


 ノアクルは言われたとおり、ジーニャスから渡された望遠鏡で巨大化ランドフォルの頭部を見た。

 そこには――。


「……父上」


 巨大化ランドフォルの肉体に半分飲み込まれつつも、人間サイズランドフォルの身体を羽交い締めしているレメク王がいた。

 ジタバタと暴れる人間サイズランドフォルに対して、レメク王はただいつもの不器用な表情でいた。

 それが王の役目だと言わんばかりの威厳を秘めている。


「父上……あなたはいつもそうだ……」


 自分が死ぬのをわかっていても、何かを伝えようとはしてこない。

 ただ無言で誰かのために耐え続ける。

 可能性ある者を信じて命すら投げ出すことを(いと)わない。

 そういう、どこかノアクルに似た不器用な男なのだ。


「殿下……」


 ローズが心配そうにしているが、艦橋内の全員もそんな視線を送ってきている。

 ノアクルは今、自分がどんな顔をしているのかわからない。

 ただジーニャスだけが、涙目になりながら大声で言ってくれた。


「あなたは偉大なる王レメク・ズィーガ・アルケインの息子、ノアクル・ズィーガ・アルケイン! 母を殺されたカタキを取る権利が〝あなた方〟にはあるはずです!」

「あなた方、か。そうだな、父上もカタキを取りたいはずだ」


 さぞ無念だっただろう。

 ノアクルは今、初めて父親の気持ちを考えたのかもしれない。

 親の気持ち、子知らずというやつなのだろう。


「ジーニャス、語尾忘れてるぞ。だけど、ありがとうな」


 ジーニャスは復讐を、その手を血で染めて果たした。

 言葉の重みが違う。

 もう覚悟は決まった。

 レメク王の息子として、母のカタキは取らなければならない。

 照準を巨大ランドフォルの頭部に合わせる。

 気のせいかもしれないが――ふと、父の初めての笑顔を見た気がした。

 ノアクルも一瞬だけ笑顔を返したあと、すぐに王者の凜々しい表情を受け継いだ。


「さらば、父上! ――〝決戦式(アーク)万物灰塵砲(ゴッド・ダストカノン)〟発射ッ!!」


 この世で一番重いトリガーを引く。

 最初に細い火線のようなモノが空中に伸びる。

 海上都市ノアが崩壊するのではないかと思うほどの振動と轟音。

 視界いっぱいに広がっていく翡翠色の輝き。

 永遠にも思える数秒間が続き、発射後には空にあった雲が消し飛んでいた。

 頭部を失った巨大化ランドフォルは倒れながら、大きな波を起こし、身体が崩れていった。

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