海上都市防衛戦
これでランドフォルを倒し一件落着――かと思っていた。
しかし、激しい揺れが起きて、ランドフォルが埋まったはずの瓦礫から巨大な何かが出現した。
「なんだこれは……」
あのジウスドラが驚愕の表情を見せていた。
他の全員はそれを見て察した。
「ジウスが知らないんじゃ、誰も知らないってことだな」
「そうですにゃー……何かヤバいってことだけはわかりますけどにゃ」
ノアクルは再び構えて戦おうとするが、空からの来訪者が止めに入った。
「いかん、ノアクル! その状態のランドフォルに下手に手を出してはダメじゃ!」
それはアスピと、それを掴んで運んできたムルだった。
「どうしてだ、アスピ。さっき人間くらいの大きさのときにはぶっ飛ばしてやったが……」
「アレは自我を失い、制御を失っておる……。このままだと世界中にゴミをバラ撒いて大変なことになるぞい……」
「世界中にゴミだと!?」
「ちょっと嬉しそうな表情をするのは止めるのじゃ」
しまった、顔に出ていたか。
「とにかく、アルケイン王国は二度と人の住めぬ場所になってしまうじゃろう」
「ふむ、さすがにちょっと多すぎるゴミだな」
「そのためには完全に倒すしかない」
「どうすればいいんだ? さっき止めに入ったし、殴るのはダメなんだよな?」
ノアクルの肩に、アスピがのそのそと登ってきて説明を続ける。
「広範囲のエネルギーでコアを確実に撃ち抜く必要がある……」
「今いるのだとトレジャンの〝烽宝砲〟か?」
「いや、もっと威力と範囲がほしい感じじゃな」
「となると……〝万物灰塵砲〟か」
アスピは頷いたが、それでも歯切れが悪い。
「それでもどこにあるかわからぬコアを撃ち抜けるかは博打じゃな……」
「やけに詳しいな」
「シープ・ビューティーとかいうお嬢ちゃんに精神を覗かれたあと、少しだけじゃが過去を思い出してな……。それより時間がないのじゃ!」
「そうだな。全員、急いで海上都市ノアへ移動するぞ!!」
***
――一方その頃、海上都市ノアの甲板。
「だ、ダスト兵が乗り込んできたぞ!!」
住民たちの家があるエリアなのだが、アルケイン王国の人々を避難させるために海岸に着けていたら、追いかけてきたダスト兵たちまで乗り込んできてしまっていたのだ。
正面入り口は何とか耐えていたのだが、海に面した横や左右からよじ登ってきている。
非戦闘員たちは、民家入り口にバリケードをして必死に耐えていた。
「私たちアルケイン王国民のために……すまない……」
「なぁに、気にすんな! ノアクル王子が避難させろって言ったのなら、オレたちは従うまでだ!」
「そうそう。人間をゴミと褒め称える変人王子だけど、懐だけは広いですからね! 私たちパルプタの民も同じように助けられましたし!」
「ありがとう……ありがとう……」
避難民と海上国家ノアの住人は協力して持ちこたえていた。
暴走して見境なく攻撃し始めたダスト兵たちは、非戦闘員ですら関係ない。
大挙して押し寄せ、民家のバリケードを壊して突入してきた。
手にした武器で人間をミンチにしてやろうという勢いで振り回している。
女性は我が子を守り、男性はその前に立って守る。
一秒でも時間稼ぎになればいいと必死だった。
「最後まで諦めない、それが海上都市ノアの住人ってやつだ!!」
ダスト兵の刃が振り下ろされ、死を覚悟した――その瞬間。
「ハハハハハ!! それでこそあのゴミ王子ノアクルの民!! ですが、助けるのはアイツではない、この私――シュレドですよぉ!!」
そこに現れたシュレドが、ダスト兵の頭を左右の手で一つずつ握り、持ち上げ、グシャッと握り潰していた。
「どうですかぁ、宿敵である私に助けられて悔しいでしょう!?」
「あ、ありがとうございます……!」
「あなたは命の恩人です……!」
「ありがとー!! 顔の怖いおじちゃん!!」
男性だけではなく、女性と子供からも感謝の言葉をもらうという予想外のリアクションだった。
シュレドは機嫌が悪そうに舌打ちをしてから、民家の外にウジャウジャといるダスト兵へ向かって歩いて行く。
「ここで潰されてしまっては、自らの手でノアクルへの正当な復讐ができませんからねぇ。……まぁ、それに貸しも……いや、私にそんな汚点はないぃぃー!!」
シュレドはバッと服を脱ぐと、下に以前のような悪役衣装が装備されていた。
筋肉を盛り上げさせ、次々とダスト兵を破壊していく。
「憂さ晴らしには丁度良いゴミ共ですねぇー!!」
周囲を一掃すると、乗り込んできたばかりの巨大なダストドラゴンに向かって砲弾のように跳んでいく。
「イッツショォォォオオオタイム!! 世界大臣たる完全究極体シュレド様に跪きなさいぃぃぃ!!」
その飛び去っていくシュレドを見ていた、待機組だったローズたちは唖然としていた。
「あ、悪夢ですわ……」
「うーん、でも今のところは味方っぽいですます」
「あのパワーはどこから……」
「それより、住人の避難とダスト兵の排除をしましょう」
立ちくらみがするローズだったが、ピュグとミディの言うことが正しい。
溜め息一つ付いてから、一緒に来ていた海賊と獣人闘士、古代兵器たちに指示を出す。
「救護班はそこの家にいる方々へ急いでくださいませ! 闇鉱石武器を持っている者はダスト兵の排除を! 大型のダストゴーレムなどはわたくしたちが対処しますわ!」
『応!!』
『Aye!!』
『戦闘システム、起動』
海賊にはシミター、獣人闘士にはメリケンサック。
ドワーフたちが余った闇鉱石で少数作っておいたのだ。
さすがにノアクルたちとは元々の戦闘力が違うので、闇鉱石装備を持っても急激に強くはならないが、それでもダスト兵を倒す程度はできる。
古代兵器の方はジーニャスがいないと精密な連携はできないので、簡易的な指示だけ出している。
それでも闇鉱石の武器パーツをつければそれなりに戦ってくれる心強い味方だ。
ローズ曰く『何より壊れても、何度でも復活できて治療費もかからない財政面の味方ですわ!!』と、えげつない守銭奴台詞を言われていた。
「普段は心優しいローズ様ですますが、その実ギャンブル狂で金に汚く、ロボとノアクルさん様には厳しいという――」
「ピュグさん、何か言いましたか?」
「……って、ノアクルさん様が、よくぼやいていましたですます!!」
ピュグの咄嗟に吐いた嘘だったが、ローズは怒りマークをピキピキと浮かび上がらせ、カチューシャの術式カートリッジで強力な魔術を次々と撃ち放つ。
「やはり殿下にはもっと〝お勉強〟をしてもらわないとですわ……!!」
「ひぃぃぃい……」
破壊されていくダスト兵は『未来の殿下ですわ』と言わんばかりの八つ当たりだ。
ピュグは経済的にも、社会的にも、暴力的にもローズに逆らわない方が良いと心から理解した。
「……ジーニャスの奴、大変なところで働いてるんだな」
ミディも同情していた。





