魔人の児戯
巨大な剣がいくつも突き刺さった王城の中、ジウスドラ、トレジャン、ツァラストは強大な敵と対峙していた。
アルケイン王国を影で支配していた強欲の魔人、ランドフォルだ。
レメク王の顔をしたそれは、ただ肉体を奪っているだけで人間ではない。
「どうした、来ぬのか?」
ジウスドラとしては、正直なところ時間を稼ぎたい。
しかし、ランドフォルがしびれを切らしたり、機嫌を悪くした場合は今のように〝戯れ〟ではなく、飽きて本気で殺しに来るだろう。
そうなったら絶対に勝てない。
勝機はゼロだが、今の戦力で足掻いて満足させるしかないのだ。
その気持ちを左右のトレジャンとツァラストに目配せすると、伝わったようでコクリと頷かれた。
「覚悟しろ、強欲の魔人ランドフォル!」
ジウスドラは走り出す。
その行く手を巨大な剣が阻んでくるが、身軽な動きで回避、乗り越え、足場として高くジャンプする。
同時にトレジャンも動いていて、巨大な剣を殴り壊しながら強引に前に進む。
ツァラストは作った剣を投げてけん制。
三者の刃がランドフォルに届きそうなとき、その前方を幾重にも重なる巨大な剣がガードした。
「ちっ」
「もっと我を殺したいという〝欲〟を持たぬか。どれ……味を変化させるスパイスだ、我もそよ風を吹かせてやろう」
天井をぶち抜き、巨大で硬質な手の平が振ってきた。
サイズはゆうに人間を超えていて、まるで羽虫でも潰すかのような形だ。
ドンッという衝撃と旋風がフロア全体に広がる。
間一髪、ジウスドラとトレジャンは避けることに成功したが、一歩間違えば叩き潰されるところだったのだ。
無限の物資を相手にするというのは想像以上に絶望的だ。
トレジャンはやけっぱちになって笑う。
「はっ、攻撃が届かねぇし、届いても不死身。しかも相手がちょっと手の平を動かせばご覧の有様だ。打つ手はねぇぜ」
「それでも……繋げなければならない! 兄上に!」
ジウスドラは気迫を込めて言い放ち、トレジャンはやれやれという表情をした。
「あの小僧……いや、ノアクルに託すというのは癪だが……」
トレジャンは全身の宝で身体能力をブーストした。
それはジウスドラの表情を見たからだ。
「覚悟を決めた漢の露払いくらいはしてやる」
「ツァラスト、余に例の力を試してくれ」
「で、ですがアレは成功率も低く……」
「よい、元より勝算が薄い戦いだ。命を賭けるくらいの覚悟は幼少期から出来ている」
巨大な手の平と剣が降ってくる。
トレジャンがそれを次々と破壊しているが、今にも突破されそうだ。
「持たねぇぞ!!」
「頼む、ツァラスト」
「はい……!!」
ツァラストの眼が緑色に輝き、この世全てを達観しているかのような神秘的な表情になった。
ジウスドラの左手を取り――。
「アナタに力を……」
――手の甲に軽く口付けをした。
しかし、何も起きなかった。
トレジャンの奮闘も虚しく、ジウスドラとツァラストの元へ巨大な手の平と剣が全方位から襲いかかってきた。
「ジウスドラ様……」
「よい、ツァラストのせいではない。余が適性の無い……〝ゴミ〟だったからだ。最後まで付き合わせて悪――」
言の葉すら轟音で遮られる。
別れの挨拶と共に攻撃を食らい、辺りに砂ぼこりが立ちこめて何も見えなくなっていた。
「ふん、取るに足らぬ〝欲〟。つまらぬ〝ゴミ〟だったか」
ランドフォルが玉座でニヤリと笑っていたが、次の瞬間に不機嫌そうな表情に変わった。
なぜかというと、その馬鹿げた声を聞いたからだ。
「――ほう、〝ゴミ〟だと? 素晴らしいじゃないか! 我が弟ながらようやくゴミの素晴らしさに気が付いたか!」
潰されたはずのジウスドラとツァラストの前に仁王立ちしていた存在――ノアクルがいた。
巨大な手の平や剣だったものは、スキル【リサイクル】によって無力化されていたのだった。





