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棄てられ王子の最強イカダ国家 ~お前はゴミだと追放されたので、無駄スキル【リサイクル】を使ってゴミ扱いされたモノたちで海上都市を築きます~  作者: タック
第十一章 アルケイン王国の決戦

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王城、城門へ

 ノアクル、ジーニャス、ステラは王城を目指して走っていた。

 王都に人はいるのだが、ここの住人も物資不足のせいか痩せ細り、汚れた服を着て、怯えた眼で徘徊するダスト兵を隠れ見ていた。


「くそっ、意表を突いたと思ったが、元からダスト兵がそれなりに配備されてるな!」


 丁度、前方に子供を捕らえて自らの内部に閉じ込めるタイプのダスト兵――通称ダストアーマーがいた。


「止めてください!! それなら母親の私が代わりに!!」


 必死に叫ぶ母親の抵抗も、ダストアーマーには無意味だ。

 涙を流す子供を万力のような腕で引っ張り、自らの内部に収めようとしていた。


「レメク王様は……どうして私たち民にこんなひどいことを……」


 このままダストアーマーは城の外へ出て行ってしまい、もう二度と母子は会えないのだろうと察した。


「――スキル【リサイクル】!」


 ノアクルは事前に手に入れていたダスト兵の残骸を投げつけ、それをバネのように変化させた。

 それをダストアーマーが閉まる直前に挟み込み、バネの伸縮で弾けさせ、ノアクルが急いで子供を救出した。

 そのままダストアーマーを殴り倒す。


「ママ~!!」

「よかった……!! あなたは命の恩人です……って、ノアクル王子様ですか!?」


 どうやら気付かれてしまったようだ。

 面倒だが否定する意味も無い。


「そうだ」


 周囲から隠れ見ていた住民たちも、ザワつきながら出てきた。


「あのゴミ王子が生きていた……?」

「ゴミ流しの刑にあって死んだんじゃ……」

「の、呪われ王子だ……」

「あの不吉なスキル【リサイクル】を本当に使っているぞ……」


 ノアクルは言われ慣れているが、ジーニャスとステラはカチンときていた。


「呪われ王子じゃないにゃ!! ノアクル様は、そのスキルでお前らを苦しめているダスト兵を、今目の前で倒したにゃ!!」

「ノアクル王子は正式に王国軍に協力して、この状況を打破するために動いているであります!」


 住民たちも、その強い言葉に気圧された。

 それに先ほどの母子もノアクルの味方になってくれた。


「ノアクル王子様は、誰も助けてくれなかったこの子を救ってくれました!!」

「ゴミ王子のお兄ちゃん、ありがとう!」


 住民たちの心は揺れていた。

 以前はシュレドの側について、ノアクルに石を投げる立場だったのだ。

 だが、シュレドはパルプタの街の住民を危険に晒したという話が流れてきた。

 それにこんなダスト兵が跋扈するような世界になり、無限とも思われていた資源がなくなってひもじい生活になった。

 ノアクルが言っていた『物を大事に』『直せばまだ使える』などの言葉なんて無駄だと思っていたが、今思うとこんな状況で必要なものだと身につまされた。

 住民の一人が問い掛けてくる。


「な、なぁ……呪われ王子は本当にこの状況をどうにかしてくれるのか……?」

「さぁな、俺ではわからん」

「わからないって、そんな無責任な!?」


 住民は襟首をグイッと掴んできたが、それに対して特に抵抗はしない。


「元凶は倒すが、国っていうのはそのあとに王と国民で何とかするものだろう。俺はゴミ流しの刑にされて追放された身だからな」

「ノアクル様がゴミ流しの刑にあったとき、誰か王都の人間は止めてあげたのにゃ!? ノアクル様を追放したのはお前たちにゃ!」

「う……」


 住民たちは下を向いてしまう。

 たしかに物資が無限に溢れていた頃なら、ノアクルの言葉や、不吉なスキル【リサイクル】は無駄なものだった。

 住民たちもその流れに乗って、ノアクルを叩く側だったのだ。


「だけど……頼む……このままじゃみんな死んじまう……。助けてくれ……」

「そんな身勝手な……!! ノアクル様を殺す気でゴミ流しの刑にしたのに……!!」


 涙目で叫ぶジーニャスを、ノアクルはその手で遮る。


「俺のために怒ってくれて感謝だ。だが、ここからは俺に言わせてくれ」

「ノアクル様……」


 ジーニャスは涙を拭ってから一歩下がる。


「おい、ゴミ共」

「なっ!? 王子が国民に向かってゴミと……!?」

「俺は元王子だ。別にお前たちは俺とはもう関係ない人間だし、王子であってもゴミと言うけどな。それにゴミ好きな俺にとってゴミは褒め言葉だ」

「そ、そうなのか……独特だな……ちょっと勘違いしていた……」

「元凶を今から倒すことはゴミにかけて約束しよう。だが、そこからこのゴミみたいな国をどう【リサイクル】するかはお前たち次第だ」

「オレたち次第……? 何か国に関わる大きな活動に参加しろとでもいうのか……?」

「いや、小さな【リサイクル】を積み上げろ。それこそ泣いている子供の悲しい感情を【リサイクル】して笑わせてやるとか、ゴミのポイ捨てを止めるとかな」


 ノアクルはニヤッと笑みを浮かべながら歩き、王城へ向かっていく。

 住民たちは、その背中が大きく広く、王の物だと思った。


「国は人で出来ている。一人一人がちょっとずつでも良いと思えることをしていけば、ほんの少しずつ変わっていくさ」

「の、ノアクル王子様……」

「世界がゴミで出来ているように、な!!」

「そっちは意味がわかりません……」


 ノアクルは大笑いしながら去って行く。

 ジーニャスは少し赤くなってしまった目で笑みを浮かべながら付いていき、ステラは住民たちに『あとでやってくる王国軍の指示に従って避難するように』と告げてから追いかけた。




 ノアクルたち三人は王城の城門前に着くと、そこをダスト兵たちが守っているのを確認した。


「やれやれ、外だけじゃなくて中にも結構いるもんだな」


 ノアクルは右手を掲げてスキル【リサイクル】を使おうとした。

 しかし、その手は先ほど子供を救ったときについた擦り傷が痛々しかった。

 それを見たステラは勇気を出して言った。


「ノアクル王子、ここはステラに任せるであります。体力を温存で!」

「もっと俺が好きな名前で呼んでくれたら考える」

「……このゴミ王子」

「よし、任せた!」


 ステラは黒いグローブをグイッと付け直していた。

 これは闇鉱石の金属糸を織り込んだ逸品〝すごいつよいくろいグローブ〟だ。

 名前のセンスは、ステラはまだ記憶が戻ってから数年なので仕方がない。

 この状態で武器を握れば、多少だが武器に神気を流すことができる。


「これさえあれば、ステラでもダスト兵を倒せるであります……!」


 ドヤ顔で帯びていた剣を引き抜き、ダスト兵へと一直線。

 高く飛び上がり、雄叫びと共に剣を振り下ろす。


「真っ二つでありますー!!」


 ガキンッという硬質な音が響くのと同時に、ステラの手がビィーンと痺れた。


(かぁ)った!! 攻撃したステラの手の方が(いった)いであります!!」

「おーい、ステラ。忘れてるかもしれないが、普通に斬ったり、殴ったりして粉砕できるダイギンジョーやスパルタクスがおかしいだけだからな」

「ぐぬぬ……。知ってるであります! 試しただけであります!!」


 ステラは涙目で悔しそうだ。

 これが本当に双子の姉なのかが怪しい。

 さすがジャンケンで決めた姉だと思ってしまう。

 そう考えているのが気付かれたのか、ステラに睨まれてしまう。


「べ、別に俺は変なことは思ってないぞ……うん……」

「ノアクル王子、特訓の成果を見せるであります!!」

「特訓ってほどでもないけどな……ちょっと打ち合わせしただけだし」

「ダスト兵が迫ってきてるであります、ほら、早く!!」

「俺への呼び方が気に食わない」

「こ、このゴミ王子がぁーッ!!」

「俺は今、最高に気持ち良いぞ! よし、サービスのスキル【リサイクル】だ!」


 そう言って作り出したのは、L字型の棒の武器――トンファーである。

 素材は少し前に倒していたダスト兵なので金属製だ。

 ステラはそれを空中でキャッチして、スタンダードな剣のときよりも様になる動きで振るう。

 普通だったら剣とさほど威力が変わらないはずなのだが、そうではなかった。


「トンファーストラーッシュ!!」


 逆手に構えたトンファーで勢いよく殴る。

 するとダスト兵の身体がひしゃげ、倒れた。


「にゃ!? なんであんなに強くなったにゃ!? あの武器……えーっと、トンファーでしたっけ……それが特別な武器ですかにゃ?」

「いや、俺は普通にトンファーを作っただけだ」

「じゃあ、どうして突然強く……?」


 よくぞ聞いてくれましたとばかりにステラはトンファーを高く掲げた。


「それはステラのスキルによるものであります!」

「スキル? トンファーが強くなるスキルですかにゃ……?」

「惜しいであります! ステラのスキルは、ヘンテコな武器だと強くなるスキル!」

「ヘンテコな武器だと……強くなるスキル……」


 あまりにも既存のスキルと違いすぎるもので、ジーニャスは困惑の表情だ。


「本来なら妹のスキルとセットで使うものなのでありますが、今は我慢してノアク……じゃなくて、ゴミ王子で我慢しているであります!」

「ふふふ、俺の機嫌をよくし続けろよ」

「トンファーキーック!!」


 ステラはトンファーで殴らず、キックで攻撃していた。

 なぜかそれでも威力が上がっているのか、ダスト兵の装甲に深くめり込んで倒せた。


「何かとんでもなくメチャクチャなスキルですにゃ~……。うちの曾お婆ちゃんの方向性に近いような……」


 少し呆れ顔に近い表情でステラ無双を眺めるジーニャスだったが、ダスト兵が一ヶ所に集まっているのに気が付いた。


「な、なんだにゃ……?」


 ダスト兵は集まって――いや、少しずつ重なっていき、結合して、巨大な別の存在になっていく。


「お、合体というやつか。メカの合体、良いよな」

「私は良い思い出がないですにゃ……」

「わはは、すまん」

「その顔はまた機会が合ったら試そうという雰囲気ですにゃ……絶対に嫌ですにゃ……」

「……わはは!」


 二人はそんな話を和やかにしていたが、敵の目の前にいるステラとしては大変だ。

 ダスト兵は巨大な姿になり、もはや別物だった。


「だ、ダスト兵……。いや、これはダストゴーレムと呼べる感じでありますな……。ですが、今のステラは無敵であります!!」


 ステラは先ほどまでの勢いと同じように、トンファーによる攻撃を仕掛ける。

 トンファーの直接攻撃や、トンファーキックを織り交ぜた素早い連撃だ。


「うおちゃあああああああ!!」

「すごいかけ声だにゃ……」

「ほあちゃああああああああ!!」

「いや、でもダストゴーレムに全然効いてないな」

「あー、もう! そういう実況は止めるであります!!」

「テンションで乗りきろうとしたけど、諦めたな」


 ステラは恥ずかしそうな表情をしてから、ノアクルの方へと逃げ帰ってきた。


「どうする? 俺が戦うか?」

「も、もっと変な武器を出すであります! ゴミ王子!!」

「変な武器かぁ……」


 いざ、変な武器と言われてもパッと思いつかない。

 そもそも、そんなにすぐ思いつくものなら変ではなくメジャーな武器だろう。

 考え方を変えて、武器かどうか怪しいジャンルというのもいいかもしれない。

 そこでふと、この城門辺りで昔ジウスドラと遊んでいた記憶が蘇った。

 そのときに手にしていたのが――。


「スキル【リサイクル】」

「こ、これは!?」


 ステラがパシッと受け取ったのは〝ブーメラン〟だった。


「……」


 ステラからゴミを見るような視線を感じる。


「いや、だってさぁ……」

「……」


 ステラは虚無顔のまま、ブーメランをダストゴーレムに投げつけた。

 ブーメランはポテッと落ちた。


「ゴミ王子、この世に飛び道具が魔術以外流行らなかった理由は知っているでありますか?」

「ま、まぁ……ローズからの座学で多少は……」

「手から離れている時間で魔力が拡散して、相手の魔力防御を抜けなくなるでありますよ……ご覧の通り、このざまであります……」


 ステラはブーメランを地面から拾い上げた。

 戻ってすらこないブーメランはどこか悲しげだ。

 ダストゴーレムですら困惑して見つめてきている。


「でも、ヘンテコな武器だろう?」

「それは……そうでありますがー!!」


 ステラは子供のように地団駄を踏んで怒りを表現していた。


「すごい勢いでおっぱいが揺れてるにゃ~……」

「ジーニャス、お前マジでIQが下がってるな……」

「って、それだけじゃなくて、地面も揺れてますにゃ!?」


 いつの間にか、ステラの地団駄がすごい威力になっているようだ。

 ダストゴーレムがステラに掴み掛かろうとしたが、ステラは非常に怒っていた。


「邪魔をするなでありますー!!」


 ステラの無自覚なブーメランキック――つまりただの蹴りがダストゴーレムを吹き飛ばした。


「……」


 少しだけ冷静になったステラは今の自分の格好を客観的に見た。

 ブーメランを持った巨乳の女が胸を揺らしながら地団駄を踏み、武器であるブーメランを使わずになぜか蹴りで巨大なダストゴーレムを蹴り飛ばす。

 シュールすぎる、コントだ。


「泣きたい」

「何かごめん……次はもうちょっと見た目的に悲しくならないヘンテコな武器を出せるように善処する……」


 ちなみに自身が使い慣れてしまうとヘンテコという認識はなくなってしまうので、すぐにブーメランキック無双は終わった。

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こちら、コミカライズ版です!

漫画:フミキチ先生
原作:タック


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