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棄てられ王子の最強イカダ国家 ~お前はゴミだと追放されたので、無駄スキル【リサイクル】を使ってゴミ扱いされたモノたちで海上都市を築きます~  作者: タック
第十章 王子兄弟と生贄姉妹

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トンネルのその先

 ムルは素早く着地。

 ハーピー最大の武器である脚力を乗せた回し蹴りを放つ。


「クァーッ!? コイツ……女のクセに強い!!」


 クジャームは回し蹴りを受けきれず、大きく後ずさった。

 焦りの表情で顔が醜く歪んでいる。


「コイツ何者……。光る羽……、もしや船を襲ったときに助けに入った奴クァーッ!?」


 ムルは追撃を仕掛けようとしたのだが、操られた通行人の男性たちが目をハートにしながら群がってきた。

 どうやらスキル【性欲】に支配されているようだ。

 着ている物を脱がせようとしている通行人の男性もいた。


「強くて女で、しかも空を飛べる……アタイの天敵すぎる!! 絶対無敵のはずのアタイが天敵となんて戦えるはずないクァーッ!!」


 クジャームは一瞬のうちに飛び立ち、王都の方へと逃げていってしまった。

 ムルは男性たちを無理に引き剥がして怪我をさせるのを避けているのか、無抵抗のままで棒立ちしていた。

 しばらくすると、ノアクルたちを含めた男性陣は動けるようになった。


「ふぅ……。距離が離れたからスキルが解けたのか? 危なかった……」


 さすがにノアクルでも今回は生きた心地がしなかった。

 直接的な強さというのも恐ろしいが、搦め手というのも対策ができなければ詰みだ。


「助かった、ムル。ありがとう」


 ノアクルは礼を言うが、ムルは不思議そうな顔をしていた。


「アタシ、裏切ってたのに最初に言う言葉がそれでいいの~……?」

「ムルがそういう行動をするのには、何か理由があったんだろ」

「うん~」

「それなら別にいいさ」


 ムルはいつものように眠たげだが、微かに笑みを浮かべた。


「さっきのアレだけはどうにもならないから、倒してくるね~。あとのことはノアクルたちを信じてるから~」


 ムルはバサッと翼をはためかせて飛び上がった。

 ノアクルたちは大声を上げて見送る。


「やることをやったらいつでも戻ってこいよ! ムルの寝床は用意してあるからな!」

「日が暮れないうちに帰ってくるんじゃぞ~!」

「ムルさんがいないと偵察が大変ですにゃ~!」

「ムル、強い。いると嬉しい!」

「眠りの質が良くなる料理を作って待ってまさぁ!」

「ムルさんのことは話でしか知らないですが……大切な家族なら! 一緒が一番だと思うであります!!」


 ムルは振り返って満面の柔らかい笑みを浮かべてから、王都の方へ飛び去っていった。




 ノアクルたちは王都への地下トンネル〝湿った道〟を通っていた。

 この名前にも何か意味があるらしいのだが、座学をサボり気味だったノアクルはわからない。

 かといってゴミに関係するものでもなさそうなので、誰かに聞くほどの興味もない。


「さすがに快適とはいかないが、それなりに広い地下トンネルだな」


 しっかりと表面が建材で固められたトンネルではないが、余裕のある高さと幅があって、土の壁は見た目よりも硬質に圧縮されている。

 数人が同時に歩いても平気だ。


「ツァラストの話では、先行隊であるステラたちがあらかた安全を確保したあとに、王国軍が後詰めでやってくるという話であります」

「住人の救助を行うため、だったか」


 ステラがコクリと頷く。


「そうであります、本来の王国軍は国民を守るためのものでありますから」

「たしかに王国軍がやってきて、王都住人の救助ルートにも使うのなら広さは必要だな」


 ジウスドラが王都まで、このルートを作るためにはかなり苦労したのだろうなと察する。

 普通にスコップで掘るわけにもいかないし、特別なスキルか、土魔術で地道に掘ったのだろう。

 しかも、音などでバレないように防音魔術も展開していたかもしれない。

 さらにこれを短期間で掘るのは不可能で、ランドフォル側に見つかってしまってもお終いだ。

 そこで別の空ルートの〝乾いた道〟も用意して、そちらを目立たせて敢えて警戒・破壊させてから、この地下ルートの〝湿った道〟を運用したのだろう。


「リスクは高いが、住民避難のために完成させたか。ジウスらしいな」


 しばらく進み、もう少しで王都に到着というところまでやってきた。

 念のために到着してからの目的を再確認しておこうと思う。


「王都に到着後、各自分かれて行動することになる。俺とステラとジーニャスは、ジウスたちと合流して王城のランドフォルのところへ。他は各自、四ヶ所の封印装置を破壊してくれ」

「おや、そういえば四ヶ所と言っても、残りはワシ、スパルタクス、ダイギンジョーの三人しかいないのじゃが?」


 アスピは首を傾げているが、ノアクルはそれに対してすぐ答えた。


「ジウス側の一人が残りの一ヶ所を担当するという話だったが、たぶんムルのことだな。そちらは任せよう」

「なるほど、それでムルは『あとのことはノアクルたちを信じてるから~』と言ったのじゃな!」

「普段は装置を守っているらしい〝欲〟の一人を追ったから、そういうことだろうな」


 うんうんと頷くアスピだったが、目をカッと見開いてツッコミを入れてきた。


「って、それもあるが、この計算だとワシが一人で戦う感じになっとらんか!?」

「そうだが?」

「ワシ、基本的に戦闘能力ゼロなんじゃが!? 大地の加護と信仰がある船の上とかなら色々とできるが……!!」

「うーん、でも、ジウスが配置を決めたらしいからなぁ」

「そのお主の弟のジウスドラ、ワシのことを何かと勘違いしとらんか……」

「ムルが情報を流してるだろうし、そこらへんは平気だろう。きっと守っている〝欲〟のやつが亀恐怖症とかなんじゃないか?」

「んなわけあるか!!」


 溜め息を吐くアスピはツッコミ疲れたようだ。


「はぁ……。まぁ、お主がそこまで信頼する弟なら、大丈夫なんじゃろうが……」

「フフン、その通りだな!」

「お主自身はバカじゃが、人を見る目だけはあるからのぉ……」

「は~? バカと言ったアスピがバカだな!!」

「ワシをバカと言ったノアクルの方がバカじゃな!!」


 それを横で見ていたジーニャスは呆れ果てていた。


「にゃ~ん……。割と初期から見てるけど、いつもこんな感じだにゃ~……」

「仲が良い証拠でありますな」

「どこがだ」「どこがじゃ」


 今度はステラへ、ノアクルとアスピが仲良くツッコミをハモらせていた。

 ステラはスルーして、最後のすりあわせをした。


「作戦としては、各自が目標を達成したら王都から脱出。その頃には住民も避難完了しているはずでありますな。そこでダスト兵が停止・暴走しているかどうかは不明なので、念のため全員が海上都市ノアまで移動、合流で作戦完了であります」

「……あ、格好良く私が言いたかったにゃ~……」

「り、陸のジーニャスさんはどうやら本当にポンコツらしいのでちょっと……であります……」

「言い返せないにゃ~~!! 悲じいにゃぁぁあ!!」


 もう出口が見えてきている。

 そこで大声で泣き叫ぶ無能ジーニャスを大慌てでノアクルが止めようとしたのだが――


「せめて一番乗りして栄光の第一歩を踏み出してやるにゃあああああああ!!」

「うわ、お前バカ止めろ!!」

「大丈夫だにゃ!! よくわからないけど、きっと大丈夫だにゃ!! 天才ジーニャスの勘が告げているにゃ!!」

「お前は今ポンコツだろう!!」




 ――数分後、トンネルから出た直後に大量のダスト兵に囲まれていた。


「……ど、どうしてバレたんだにゃ!?」

「お前が大声で飛び出していくからだろう……。ただでさえ獣人が少ない王都でお前は目立つし、しかも海賊の格好までしているんだぞ……」

「そ、そうだったのかにゃ~」


 テヘペロをするジーニャスに、大量のダスト兵が飛びかかってきた。

 ジーニャスは全身の毛や耳、尻尾を逆立てながら人生の最後を感じたが、ダイギンジョーが一閃――ダスト兵を瞬殺した。


「さて、後から来る人のために掃除をしておかないといけませんねぇ」

「料理の前に掃除、大事ってみんな言ってた。箒どこ?」

「スパルタクスの旦那、それはジョークってやつでさぁ」


 スパルタクスは理解できないのか、キョトンと首を傾げながらダスト兵を粉砕していった。


「さてと、それじゃあダスト兵を倒しつつ、各自のターゲットへ向かうぞ! またみんなが明日も笑えるようにな!」

「わかった!」

「わかりやした!」

「了解であります!」

「がんばるにゃ~!」

「ワシ、亀の歩みなんじゃが!?」


 こうして王都での戦いが始まった。

これにて第十章は終了です。

次回から第十一章『アルケイン王国の決戦』が始まります。

ここから、コミカライズになったら作画コストがとても大変そうなシーンが続きます……!

未来のフミキチさん(コミカライズの漫画家さんです)、頑張れ……!!


面白い!

続きが気になる……。

作者がんばれー。

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<(_ _)>ぺこり

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こちら、コミカライズ版です!

漫画:フミキチ先生
原作:タック


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