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棄てられ王子の最強イカダ国家 ~お前はゴミだと追放されたので、無駄スキル【リサイクル】を使ってゴミ扱いされたモノたちで海上都市を築きます~  作者: タック
第十章 王子兄弟と生贄姉妹

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蒼穹の来訪者

 海上都市ノアからの物資積み下ろしなどが行われたあと、メンバーは事前の作戦通りに二手に分かれることになった。

 海上都市ノアを防衛するメンバーと、王都フィロストンへ攻め込むメンバーだ。


「わたくしが海上都市ノアで防衛の指揮をして、残るメンバーはピュグさん、トラキアさん、レティアリウスさんで――」

「俺が王都で現地指揮をして、攻め込むメンバーはスパルタクス、ダイギンジョー、ジーニャス、アスピ、ステラか」


 ローズとノアクルが確認を取った。

 ツァラストが補足説明を入れる。


「ツァラストはいったん先に王都に戻り、ジウスドラ様側のメンバーで準備をしておきます」

「そちらは……トレジャンもいる感じか」

「それともう一人――いえ、それは独立して動いているようなので」

「そうか」


 これで大体の確認はできた。

 各々が、世界がかかっているらしい戦いの場へと出発していった。




 ***




 ノアクルたち王都組は、アタノールの街に到着していた。

 そこに隠された〝湿った道〟というコードネームが付けられた王都直通トンネルを使うためだ。

 ツァラストの話だと、すでに囮である〝乾いた道〟が破壊されたのでランドフォルも警戒をしていないだろうと言っていた。

 筋肉ナルシスト――もとい美貌欲のアフロも王都へ戻っているらしい。


「楽勝で王都へ乗り込めるということだな!」

「声が大きいぞい、ノアクル……」


 アスピに注意されながらも、何度も継ぎ足しされた都市特有のゴチャゴチャ感を楽しみながら、アタノールの街を歩いていた。

 どこか雰囲気は海上都市ノアに似ている気もする。

 見ようによっては歩いているダスト兵も、古代兵器のクラブと似ている。


「街の中はたまにダスト兵がいるくらいだが、それくらいなら見つかっても問題ないだろう。むしろ闇鉱石装備を揃えたこっちの戦力なら〝欲〟の誰かがやってきても返り討ちにできるくらいだ!」

「うーむ……そうかのぉ……何か見落としているような……」


 もうすぐツァラストに指定された〝湿った道〟の地点に到着する。

 そこでこの街ともおさらばなのだが、背後から女性に声をかけられた。


「あらぁ、良い感じの後ろ姿……。ねぇ、もしかしてイケメン? ちょっとこっち向きなさいよぉ」


 マズいと思った。

 それは以前聞いたことのある女の声――クジャームだ。

 まだこちらに気付いていないらしいので、スルーしようとしたのだが話しかけ続けてくる。


「あれ、もしかしてシャイなの~? かっわいいわねぇ~。興奮してきちゃう……コッコッコッコ、クァーッ!!」


 間違いなく、このおかしすぎる言葉遣いはクジャームだ。

 アスピは『絶対に振り向いてはいかんぞ……』という表情で、ジーニャスはポンコツモードでもヤバいと感じ取っていて脂汗ダラダラ、ダイギンジョーは『気色の悪い相手でさぁ……』とでも言いたげだ。

 ステラに関しては色々と今までの怨みがあるのか、必死に戦うのを堪えているようだ。


「は~あ、こっちに構ってくれないなんてつまんないミャオ~」


 ようやくクジャームが飽きたらしく、内心ホッとした。

 これでやり過ごせるだろう。

 さすがに相手が一人で倒せるとしても、騒ぎは起こさない方が良い。


「ん? 僕たちに構って欲しかったのか?」


 スパルタクスが振り返った。


「何で今、反応したのじゃー!?」

「さっきまで僕たちを呼んでいたと気付いてなかった」


 アスピのツッコミに対して、スパルタクスはいつもの天然っぷりを発揮していた。

 諦めて全員が振り向く。


「あらぁ、そこの女二人以外は良い男揃いじゃないのぉ……って、アンタたちは!?」

「やっぱり本当に知らずに声をかけてきていたのか……」

「男漁りに来たら、偶然いるんですもの……ビックリよ……」


 どうやら本当にただ運が無かっただけらしい。


「仕方がないにゃ……! 人数で勝ってるこっちがお前をボコボコにするにゃ……!!」

「身も蓋もないセリフですが、今は正々堂々とタイマンしてる時間がないので一気にいかせてもらいまさぁ」


 ダイギンジョーが戦闘用包丁を抜いたのを皮切りに、全員が戦闘態勢に入った。

 圧倒的にクジャームが不利――と思いきや、彼女は笑みを浮かべていた。


「あらぁ、見たところまともに戦えるのはイケメンたちだけじゃない?」

「そ、それがどうしたにゃ」

「それならぁ、イケメンたちを味方に付けちゃえばいいってことよぉ」


 そこでステラがハッとしていた。


「あー!! マズイであります!! クジャームのスキルは範囲内の異性――つまり男性を魅了してしまうであります!!」

「何で今言う!?」

「女のステラには脅威じゃないから忘れていたでありますー!!」


 クジャームはクジャクのような羽をバッと広げて、妖艶なお色気仕草をした。


「スキル【性欲】よぉん! お目々ハートでアタイの言いなり確定ぇ~!」

「そんなギャグみたいなスキルで俺たちは操られてしまうのかあああああ!?」


 男性側ではなく、ステラとジーニャスの女性側はもっと深刻だ。


「ぎにゃー!! 操られたノアクル様、スパルタクス、ダイギンジョーのおじちゃんに勝てるはずないにゃー!!」

「お、終わったであります……」


 ポンコツジーニャスと、戦闘能力は並程度のステラ。

 それに対して手加減無しのノアクル、腕力のスパルタクス、鋭さのダイギンジョーだ。

 勝敗は見るまでもない。


「男性陣にケダモノのように蹂躙されてしまうにゃー!!」

「酷い言い方だな、おい」

「にゃ……? ノアクル様、襲ってこないにゃ?」


 ノアクルは呆れた表情をしているが、女性陣に敵対する行動はしていない。


「も、もしかして敵のスキルを防いで!?」

「いや、それがどうも身体の自由が利かない……。クジャームと戦おうとしても手が出せん……」

「右に同じくでさぁ……」

「……僕も」


 どうやら敵にも味方にもなれないという状況らしい。

 それにはクジャームも驚いていた。


「な、なんて抵抗力……。天然記念物レベルの朴念仁が揃っていたというの!?」


 周囲にいた通行人の男性たちは目がハートになってクジャームに擦り寄ってきているので、本当にこちらの男性陣が朴念仁なだけだったのだろう。

 ノアクルは元々恋愛よりもゴミいじりの方に興味があり、スパルタクスも脳筋、ダイギンジョーも酒と料理で頭がいっぱいだ。

 戦力として意味は無いが、アスピもそんな感じなのだろう。


「よし、これなら……ステラがスキルを中和して……!」

「それはもうシープ・ビューティーから聞いた!! させるわけないじゃない!!」


 クジャームは鳥類特有の素早いジャンプをして、ステラの前に立ち塞がった。

 鋭い爪で振るい、ステラはそれを剣で受け止めるも大きくグラつく。


「そこの乳のデカい下品な格好の黒髪女を殺してから――」

「こ、この格好には事情が……というかクジャクみたいな変な格好のお前には言われたくないであります!」

「――語尾かぶりの猫獣人も殺してイケメンゲットだミャオー!」

「微妙にかぶっているようでかぶってないにゃー!! そんなくだらない理由で死にたくないにゃー!!」


 たしかにくだらない遭遇で、くだらないスキルで、くだらない理由だが――どれも恐ろしいほどに想定外のピンチだった。

 これが普通のパワータイプの〝欲〟相手だったら対処できた、気まぐれを起こさない相手なら遭遇すらしなかった。

 こんなくだらない人間を想定していなかったのが悪いのだろう。

 だが――一人だけそういうことに備えていた仲間がいた。

 正確には、いたというより〝空からやってきた〟だろう。


「女は死ねクァー!!」


 ステラとジーニャスに振り下ろされそうになる両手の爪――そのクジャームに光の羽が降り注ぐ。

 間一髪クジャームは飛びのいて難を逃れ、その光の羽が飛んできた方向へ向かって叫ぶ。


「邪魔をするのは何者ミャオー!?」


 眩しい太陽を背にした、六枚の翼を持つ美しい女性――ムルだった。

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こちら、コミカライズ版です!

漫画:フミキチ先生
原作:タック


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