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棄てられ王子の最強イカダ国家 ~お前はゴミだと追放されたので、無駄スキル【リサイクル】を使ってゴミ扱いされたモノたちで海上都市を築きます~  作者: タック
第十章 王子兄弟と生贄姉妹

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決戦の前の休日

「暇だ……」


 ノアクルは砦の中に用意されたVIPルームでゴロンと寝転がっていた。

 ベッドはふかふかで申し分ないのだが、さすがにムルではないので飽きてくる。

 なぜこんなことをしているかというと、今日は強引に休日にされたからだ。


 今日、王都フィロストン侵攻作戦が組み上げられたのだが、結局は遅れてやってくる海上都市ノア待ちであり、必要な準備も特にないノアクルはやることがない。

 それどころか何かバカな真似をしないようにとローズからキツく言われていて、強制的に休息を取らされているのだ。

 砦の兵士たちに『何か手伝う事はないか?』と聞いても、ローズに先手を打たれていて逃げられてしまう。

 きっと『殿下がやってきても、何もさせずに休ませておくように』とでも命令しておいたのだろう。

 こういう方面でローズには絶対に敵わない。


「何もすることがない……」


 もちろん、そこらへんのゴミを使っての【リサイクル】も禁止されている。

 少しでも消耗を減らしておけと。

 ちなみに気晴らしにトラキアと何かして遊ぼうかとも思ったが、砦の女性をナンパするのに忙しそうだった。

 連敗中でも諦めずに続けているようなので、砦の女性全員にアタックするまで終わらないのだろう。

 他の見知ったメンツは捕まらないし、気を遣ってか部屋に訪ねてくることもない。

 つまりそれらを踏まえた上で――。


「暇だ……」


 これはもう部屋の中のゴミをスキル【リサイクル】するしかない。

 ローズに対してはバレないように立ち振る舞えば何とかなるだろう。

 今まではバレまくって怒られているが、次もそうなるとは限らない。

 人生は挑戦の連続だ。


 ……と思ったのだが、部屋の中はゴミになりそうなものが一切用意されてなかった。

 というか不自然に物が少ないので、事前にローズに先読みされて撤去されているというのが正しいのだろう。


「そ、そんなに俺のことが信用できないのか……ローズ!!」


 できませんわ、とイマジナリーローズが言ってきたような気もするが気のせいだろう。

 ローズとの高次元な戦いを繰り広げていたのだが、そこで部屋のドアがノックされていることに気が付いた。

 いつからコンコンされていたのかわからないが、とりあえず部屋のドアを開けることにした。


「ノアクル王子、失礼しま――って、なんで全裸でありますか!?」


 そこにいたのはステラだった。

 真っ赤にした顔を、手で覆い隠している。


「ふはは! 暇すぎたので自分の服をゴミに見立ててスキル【リサイクル】で遊ぼうとしたところだ!」

「意味不明なことを言うなであります、このゴミ王子ー!!」

「嬉しいぞ、もっと呼べ!」

「まずは服を……って、そういえば部屋からローズ様の名前を呼ぶ声が……まさか……全裸でローズ様と……」

「は?」

「な、何か失礼しましたであります……」


 ステラはなぜか意気消沈しながら去ってしまった。

 もしかしたらイマジナリーローズに対して叫んでいた件かもしれない。

 だが、なぜそれでそんなリアクションをされるのか……?


「うーむ……」


 よくわからないが追いかけた方が良さそうだとは思ったのだが、部屋以外で全裸はダメかなと少しだけ思い、きちんと服を着てから外に出るのであった。




 ようやく砦の屋上でステラを見つけた。


「探したぞ」

「もしかして、ステラがここに来ると思っていたでありますか……?」

「いや? 地道に目撃者を探して辿ってきた」


 なぜかまたステラが残念そうな顔をしてきた。

 意味がわからないが、何か不満に思わせるようなことをしてしまったのだろうか。


「横、いいか」

「ど、どうぞであります」


 砦の屋上は見晴らしが良い。

 そのため敵を警戒するための見張りにも使うのか、座れる場所もある。

 ちなみにステラはここの見張りと交代してもらっていたらしく、下で休んでいた元の見張りも情報提供者の一人だ。

 一応、これで共同の見張りをしつつステラと話すことになるので、ローズからは休んでいろとまた怒られてしまう気もする。


「さっき、ローズの名前を言っているのを聞かれてしまったな。アレはイマジナリーローズの恐怖と戦っていたのだ」

「え、えーっと……?」

「俺が唯一この世で絶対勝てないと思えるものがあるとすれば、それはローズだな……」

「つまりローズ様はその場にいないのに、怖くて幻聴が聞こえて、それを振り払うために名前を呼んでいたでありますか?」

「……そうとも言う」


 するとステラは大笑いし始めた。


「うぷぷ……あはははは!!」

「笑い事ではない、ローズの座学は本当に大変だからな……」

「も、申し訳ないであります……ふふふ……。それじゃあ、なんで全裸だったでありますか?」

「何もせず休んでいろとローズに言われて部屋にゴミになるものもなくて暇だったから、せめて服を【リサイクル】して、何か作って楽しもうとしていたところだった」

「さすがゴミ王子、行動がいちいちおもしろいでありますな。大体、その服を使ってしまったらずっと裸のままになるでありますよ」

「そういえば、そうだな……。俺が一人で海に出た当初なら、アスピとムルがいるくらいで全裸でも怒られなかったのになぁ……」


 いつの間にかステラには笑顔が戻っていた。


「ゴミ王子! 航海の話を聞かせてほしいであります!」

「いや、それよりもなんでステラが俺の部屋に訪ねてきたのかを――」

「ただお礼を言いたくて行ったであります。ほら、ゴミ王子のことをもっと教えてほしいでありますよ」

「そうか? 俺は普通だから面白くないかもだけど、まぁ仲間たちは変な奴らが多いから航海の話は楽しいかもしれないな。ん? なんだ、その何か言いたそうな顔は」


 ステラと見張りがてら、このアルケイン王国からゴミ流しされたあとの話をすることになった。

 ノアクルにとってはただの自分の話だったが、ステラにとっては珍しいのか大はしゃぎだ。


「まず、最初に喋る亀のアスピと出会って意気投合して――」

「喋る亀と意気投合って、開幕からすごいことになっているでありますな!」


「――そしたら、ムルが空から舞い降りてな。伝説上のハーピーは恐ろしいと言われてたから、そのときは死ぬほどビビった」

「ステラもムルさんとお会いしたいでありますな~」


「――幽霊船で酔ったジーニャスがゲロを吐いていた」

「最悪の出会いでありますな!」


「――ローズは獣人たちのために、自らゴルドーに捕まっていて……」

「お優しいローズ様……」


「――猫の島で出会ったダイギンジョーの料理は絶品で……」

「しっかりとした食材を揃えて、ステラもご相伴にあずかりたいでありますな!」


「ピュグたちドワーフは色々なものを作れてすごいぞ」

「ステラの鎧も作って欲しいでありますな~」


 それらの冒険譚を話し終えたら、いつの間にか夕暮れ時になっていた。

 吹く風が心地よさだったのだが、今は少しだけ肌寒いものに感じる。

 少し縮こまっていたステラにマントをかけてやった。


「あ、ありがとうであります……ノアクル王子……」

「呼び方が戻っているぞ、ゴミ王子と呼べ」

「で、でも……あんなにすごい話を聞いたあとだと……」

「お前がお前であるように、俺も俺だ。過去も未来も関係なく、目の前にいる〝今〟と話してるんだろう」


 ステラは黙ってしまった。

 しばらくしたあと、疑問を投げかけてきた。


「ゴミ王子は、もし自分の記憶がなくなったらどう思うでありますか?」

「自分の記憶がなくなる? なんでそんなことを……。ああ、そうか。お前たち姉妹は記憶を失っているのか」


 ステラはコクリと頷いた。

 そのことで色々と不安なことがあるのだろう。


「俺は記憶がなくなったことはないから何とも言えないが……。俺の戦った最低な野郎は記憶を失っていたな。シュレドというのだが、共通点というやつだ」

「最低な野郎と共通点……」

「わはは! こんなときに名前を出す奴でもないがな! 思い出してしまったのなら仕方がないだろう!」

「はぁ……ノンデリ……。続きをどうぞであります……」

「悪人のソイツは記憶を失って善人になっていた」

「悪人が善人に……」

「でも、俺は思った。そいつの本質的なところは変わってないんだろうな、と」

「悪人から善人になったのに?」

「善と悪の物差しなんて、絶対ではないから誰かが決めるものだろう。何かキッカケがあれば、シュレドもどっちの方向へ行くかわからない……と俺は思う。俺だって、このスキル【リサイクル】の力を一度悪用してしまったら、もう戻れないくらいの世界の敵にだってなるかもしれないしな」

「世界の敵……悪……」

「良くも悪くも、強い力というのは天秤のどちらにも傾いてしまうものだ。それを決めるのは自分……でありたいな。他人から重りを乗せられて、天秤を傾かせるなんてまっぴら御免だ。世界を変えることはできないが、俺の意志くらいは俺で変えて決めたい」


 記憶の話で不安そうだったステラは、再び表情を和らげてくれた。


「ゴミ王子は強いでありますなぁ」

「俺はただ、俺のやりたいことをやってるだけだ。強いて言えば、それを許してくれている周囲の仲間が我慢強いかもしれん」


 二人して笑ってしまう。

 仲間には怒られそうだが。


「やっぱりそういう感じのゴミ王子のこと、好きであります」


 それを言った瞬間のステラはハッとして、矢継ぎ早に次の言葉を紡いでいく。


「す、好きっていうのは、人間として好きというのであって、王としても好きかなーって……そういうことであります!」

「王として好きと言われてもなぁ……。俺はアルケイン王になるつもりはないし……。いや、それだったら海上都市ノアに来るか?」

「海上都市ノアに……?」

「そこでなら存分に仲間としてこき使ってやるぞ! 王ではなく、王子としてだがな!」

「それは……」


 こき使ってやるとまで言ったのだから、断られると思っていたのだが――。


「すごく……すごく楽しそうであります!!」

「なにっ!? こき使われるのがか……?」

「だって、航海の話で聞いたようなことが起きるのでありますよ!」

「まぁ、そりゃまだまだこれから色んなところを航海する予定だが……」

「そんな冒険譚のような一員にステラもなれるでありますか!?」

「基本的に誰でもウェルカムだが……」


 ステラは翡翠色の瞳をキラキラと輝かせながら、こちらを食い気味で見つめてきている。

 柄にもなく気圧されてしまう。


「ステラ、海上都市ノアの一員になるであります!!」

「い、いや……決めるのが早いな……。だけど、立場的に王国軍の騎士見習いならアルヴァさんにも聞かないといけないし、双子の妹のツァラストはどうするんだ……」

「むむむ……アルヴァさんとツァラストも一緒に……」

「色々と無茶だろう、それは。俺は拒まないが、もっと色々と考えたり、周囲と相談したり、準備をしてから決めることだ」

「ご、ゴミ王子に正論を吐かれるだなんて……悔しいであります……!!」

「俺も正論でツッコミを入れるのは、お前くらいかもしれないな……」


 また変な所で二人噛み合ってしまい、互いに笑みをこぼす。


「きっと、たぶん、何とかして海上都市ノアに……ステラは乗るであります!! 約束であります!」

「ああ、約束だ。期待しないで待っておく」


 すでに夕焼けは過ぎ、二人の姿を夜の帳が隠そうとしていた。




 ノアクルが屋上から去った後、ステラはひとりぼっちで肌寒さと寂しさを感じていた。

 自然とノアクルが残してくれたマントの匂いを嗅いでしまう。

 彼を感じる。


「ただの騎士見習いと、あれだけ輝かしい王子様かぁ……」


 冒険譚を聞いて、ますますそう思ってしまった。

 ノアクルへ抱いていた淡い恋心は、自らのせいで暗い影を落としてしまう。

 身分も、志も違いすぎる。

 ノアクルには沢山の仲間がいる。

 それに比べてステラは、最愛の妹すら許嫁のジウスドラを見つけてしまった。

 本当にひとりぼっちなのはステラだけだ。

 だからといって、ノアクルへ依存するようなことはしたくない。

 こんな恋心はゴミだと、捨てることにした。

 海上都市ノアに乗るという約束は破ってしまうが、あれだけ仲間がいるノアクルなら気にしないだろう。

 今は明日の作戦だけに集中しよう。


「あれ、涙が……なんで……」

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