兄弟の絆
その話を聞いて、先に事情を知っていたアルヴァとローズ以外は唖然としていた。
「なんじゃと……ノアクルをゴミ流しの刑にしたジウスドラが……!?」
驚くアスピに対して、ツァラストは静かに答えた。
「ゴミ流しの刑にしたのは、ランドフォルの本来の生贄がお義兄さん――ノアクルさんだったためです。同時にスキル【リサイクル】はランドフォルの天敵と言っても良いので、本来なら目立たないようにしてほしいところでしたが……」
いや、他と違っていつも通りの男が一人いた。
それはノアクルだ。
「ふはは! 俺のゴミ好きが目立ってしまったか!」
「色々と手段を裏で講じたようですが、お義兄さんの予想外さには敵わなかったという感じですね。仕方なく〝安全策〟を講じつつ、ゴミ流しの刑にして遠ざけたということです」
「安全策?」
「それはあとで〝ご本人〟から聞くといいでしょう」
何となく誰か察してしまった。
次に声を上げたのはジーニャスだ。
彼女もアルケイン王国の一部である、マリレーン島の住人だったので思うところがあるのだろう。
「ウォッシャ大佐みたいな、アルケイン王国の悪い人たちのボスじゃなかったのにゃ!? ジウスドラ様は!?」
「そのような輩を野放しにして道化に徹していたことは、大変心を痛めておりました。ただ最悪の事態にならないようにコッソリと手助けなどは行っていたらしいですが」
「こっそりと……?」
「はい、海上国家ノアに密かに情報を与えて、困ってる人の元へ導いたりです」
「うーん、よくわからないにゃ……。アルケイン王国から情報をもらってなんて……」
「ふふ、実はアナタも……おっと、〝彼女〟は感謝されたくてやっていたのではないので、ヒミツにしておきます」
「にゃ~?」
たぶん以前、マリレーン島でジーニャスの船が大破してトドメを刺されそうになっていたところへ〝導いた件〟だろう。
それとラストベガでローズのピンチを知らせたという〝名も無き海賊〟も、もしかしたらジウスドラの手配かもしれない。
あとはアルケイン王国での問題はシュレドくらいだが……アレは暴走していたのでどうにもならなかったとも考えられる。
パルプタを破壊したとして海軍を寄越さなかったことに感謝するくらいだろうか。
「それにお義兄さんが当時提案していたゴミ問題で提出した書類などは焼き捨てていますが、ジウスドラ様はすべて熟読、暗記されてますよ。って、アレ? 不思議がらないのですか?」
ノアクルは当然のようにジウスドラの正体のことを頷き続けていたので、ツァラストに疑問に思われたようだ。
「何度か言っているが、俺は最初からジウスのことを信じていたからな。アイツがおかしなことをするときは、大体は理由があるだろう。デキの悪い俺と違ってな!」
「殿下は、さすがにもうちょっと考えてから行動してくださいね……」
ローズからのツッコミは聞かなかったことにした。
「やっぱり兄弟なんですね」
ツァラストが優しく微笑んでいる。
「ん? 行動とか全然似てないと思うが?」
「絆を感じます」
「ふはは! そんな大層なものではない! 何となくだ、何となく!」
と言ったところで気が付いた。
「絆と言えば、ステラは妹のことをずっと気にかけていたな」
「あっ、えっと……!!」
暴露されてしまったステラはいつものように怒るかと思ったが、恥ずかしそうに俯いていた。
「……はい、であります」
ノアクルはあまり考えず、ローズに聞いてみた。
「ツァラストとステラをしばらく二人にしてやってもいいか? お前ならこの二人抜きでも大体の作戦を立てられるだろう」
「はぁ……だから殿下はちゃんと考えてから発言してくださいと……」
「俺の代わりに考えてくれる、ローズがいるからな」
「そんなことを言われたらやるしかないですわ。まったく、どれだけ王に向いてるんだか」
「わはは、まだしばらくは王子のままで充分だけどな」
目に涙を溜めたステラが近付いてきた。
もしかして、勝手なことをするなとぶん殴られるのだろうか。
そのときは『ゴミ王子』と言ってほしいところだ。
「……ありがとう。お前を……いや、お前たち兄弟を誤解していた」
「俺は気にしてない。謝るならジウスだけでいいぞ」
「本当にありがとう……お前たち兄弟には助けられてばかりだ……」
「調子が出ないな……。見習い騎士っぽい変な言葉遣いが取れているぞ」
「こ、これは……何も知らなかったステラが、王国軍で強引に見習い騎士をさせてもらうために……というか……であります……!」
「わはは! しなしな~っとしてるお前より、俺はそっちの方が好きだぞ」
「す、好き……バカヤロウであります!! ゴミ王子!!」
何か知らないが本気でぶん殴られた。
周囲から冷たい目で見られている。
ツァラストだけがとても嬉しそうだ。
えっ、何コレ怖い。





