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棄てられ王子の最強イカダ国家 ~お前はゴミだと追放されたので、無駄スキル【リサイクル】を使ってゴミ扱いされたモノたちで海上都市を築きます~  作者: タック
第十章 王子兄弟と生贄姉妹

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アタノールの街

「よーし!! では今から極秘のルート、コードネーム〝乾いた道〟へ向かうか!!」

「声がデケェって!!」


 トラキアも止めに入るが、ミディの声の大きさは下がらない。

 本当にコレが海軍学校の次席だったか怪しい。


「船の上の生活で声が大きくなったのかもしれないな!! 海の男は波の声にも、セイレーンの歌にも負けていられないからな!!」

「ここは陸じゃがのぉ……」

「帰りたいけど、コレが案内役なのよねぇ……」


 アスピとレティアリウスは、すっかり呆れかえってしまっている。

 それでも現地を知らないメンバーはミディについて行くしかないのだ。


「こっちだ!! このアタノールの街は歴史が古く、何度も街を作り直したこともあって非常に道が入り組んでいるのだ!! 王都への極秘のルートを作るにはもってこいだ!!」


 たしかに曲がりくねった道を歩かされている。

 家や店の間を歩き、路地裏を通り抜け、野良猫か何かになった気分だ。

 こういうのはダイギンジョーやジーニャスに任せたい、と思った亀のアスピであった。


「って、思ったんじゃが、王都の方角から離れとらんか?」

「はっはっは!! コードネーム〝乾いた道〟は王都の方角とは関係がないからな!!」

「どういうことじゃ……?」

「見てのお楽しみというやつだ!」

「勿体ぶりおって……」


 古い乾燥レンガの建物の割合が多い区画に入った。

 ここまで来ると人の気配も少ない。

 そこからしばらく歩くとミディが止まった。


「さてと、到着」

「これは……」


 空き地にやって来たのだが、そこにあったシートを取り去ると巨大な物体が現れた。


「ご覧あれ、これが〝乾いた道〟――王都への極秘ルートさ!!」


 それは巨大な弓――いや、クロスボウやバリスタの形に近かった。

 どれくらい巨大かというと、人を矢にできるようなサイズだ。


「つかぬことを訊くのじゃが……王都への極秘ルートとはまさか……」

「そうさ!! これで発射して王都へ飛んでもらう!!」

「無茶すぎじゃろう!?」


 アスピは何度か投げられたことがあるので容易に想像できてしまう。

 風を切るようなスピードで遠くへ射出され、着地も何もあったものではない落下を体験するのだ。

 本当にろくな思い出ではない。


「大丈夫だ!! 地面に術式を組み込んだ魔法陣があって、確実に王都まで届くパワー……いや、王城すら粉砕するような超威力を出せるようにしてある!!」

「もはや弾になっておるのじゃが!? こちらも粉砕されるのじゃが!?」


 そこへ『ハハハハ』と見知らぬ笑い声が響き渡ってきた。


「な、何者だ!? まさか付けられていたとでもいうのか!?」

「そりゃアレだけ大声で喋っていれば聞かれるじゃろうて……」


 亜麻色の長髪をした男がスタスタと歩いてきた。

 前髪をファサッと掻き上げながら言う。


「美しくない、この〝乾いた道〟という装置は実に美しくないぞ……!」


 その男は彫りの深い美しい顔立ちで、鍛え上げられた芸術品のような筋肉をしている。

 分厚い大胸筋、小っちゃい船でも乗せられそうな上腕二頭筋、パンパンに膨れあがった大腿四頭筋。

 とても筋肉がアピールされている。

 いや、アピールというか全部見えているというか――。


「全裸の変態じゃー!!」

「失敬な、ちゃんとイチジクの葉でアソコは隠しているだろう」


 キラッと白い歯を輝かせているが、どう見ても変態だ。

 顔も良くて、身体も鍛え上げられていても局部に葉っぱ一枚で外をうろつくのは変態でしかない。


「ふっ、(オレ)の名を聞きたいか?」

「知りたくないのじゃ……」

「オレ様も女の子ならともかく、全裸の野郎の名前は興味ない……」

「顔と身体が良くても、これは知り合いになりたくないわね」

「強そうな筋肉、僕は知りたい」


 男は笑顔でフロントダブルバイセップスという、両腕を上げて筋肉をアピールするポーズを取った。


「そんなに(オレ)の名前を知りたいのなら教えてやろう!!」

「知りたがったのは四人の内一人だけじゃがな……」

(オレ)の名はアフロ!!」

「アフロヘアー?」

「違う!! (オレ)の髪型はサラサラロングヘアーだろ!! これは遙か昔に存在したと噂の美の女神アフロ様から頂いた名前だ!!」

「聞いたこと無いわね……」

「オレ様も知らねぇ。アフロヘアーの女神様なのか?」


 変態――もといアフロは少し考え込んでしまう。


「たしかにアフロ様の名前はアフロなのだから、髪型もそんな可能性があるな……。って、違う。アフロ様の考察をしている場合ではなかった! そう、ついに探し求めていた〝乾いた道〟を発見することができたのだ!!」

「い、一応聞くがどうするつもりなのじゃ……?」

「ランドフォル様のために破壊する!!」

「やっぱりそうなるかー!?」


 この状況にミディは歯がみしていた。


「くっ、まさかこんなことになるなんて……」

「大体がお主のせいじゃろ……。王国軍、人材不足すぎる」

「このアフロはランドフォルの最後の腹心……スキル【美貌欲】を使うので気を付けてください!!」

「ハッハー!! この(オレ)のスキルは美しすぎて目立つからバレバレかぁ!」


 するとアフロの周囲から、どこからともなく人々が現れた。

 そして口々に発する。


「あ、アフロ様のお顔は世界一お美しい……です……」

「お美しいです……はい……」


 声が震えていて、明らかに言わされている感がある。


「美しいの声が聞こえなぁ~いッ……!」


 アフロは足を高く上げたあと、それを思いっきり地面に打ち付けた。

 ドンッという振動と共に頑強な石畳が砕け、かなり遠くまでヒビが入ってしまった。


「スキルを使わずともこの威力、見かけ倒しではないようじゃな……」


 人々は小さな悲鳴をあげてから、さらに必死な表情でアフロを賛美する。


「そのお姿は美の女神にも引けを取らない美しさァー!?」

「全人類の中でもっともイケメンですぅぅぅぅうう!!」

「うん、とても当たり前のことだけど、聞けてよかったよ。ありがとう、ファンのみんな! ファンのみんなの声援で(オレ)は輝ける!!」


 アフロの筋肉は神々しく輝き、無駄に笑顔が煌めいていた。

 普通はイケメンがこんな状態だったら英雄の印象でも受けるのだろうが、人を脅して賛美させてスキル発動したのならただの狂人だ。


「ああ、そうそう。(オレ)は心までイケメンだからスキルの力を教えておこう。他の醜い欲を持つ奴らの面倒くさい効果と違って、(オレ)のスキル【美貌欲】は単純にパワーを上げるものだ」


 こんな風に――と近くにあった巨大な建物をパンッと拳で吹き飛ばした。

 まるで巨人の拳が当たったかというくらいの威力だ。


「どうだい、シンプルに美しいだろう?」


 それを見たトラキアは震え上がっていた。

 普段、強者たちを見ているから力を測ることができるのだ。


「や、やべぇぞアイツ……パワーだけなら今まで見た奴らの中でもトップクラスだ……」

「ああ、そうだ。そこの亀は殺さないでおくよ。ランドフォル様から、ノアクル・ズィーガ・アルケインとアスピ・ド・ケロンはなるべく生かして連れてこいと言われたからね。他の欲たちは忘れてそうだけど」

「ノアクルはレメク王の息子だからともかく、ワシもじゃと……?」

「理由は知らない。もしかしたら、ランドフォル様の攻撃を逸らしたから興味を持たれたんじゃないかな?」


 アスピは、ランドフォルという存在と面識はない。

 ないのだが……なぜか相手の攻撃の手の内が把握できてバリアで逸らせたのだ。


「もしや、失っていた記憶と何か関係が……」

「さぁて、その前に〝渇いた道〟とやらも破壊しないとね。今後の計画にこれは邪魔らしいし」


 アフロは〝渇いた道〟の装置へとズンズンと歩いて行く。

 その異常なパワーを持つ存在の前に立ち塞がることなど、命を確実に投げ打つようなものだ。

 誰一人としてできない。


「待て、ここ通さない」


 いや、一人だけいた。


「ほう、なかなか良い筋肉を持つ獣人だ。名は?」

「スパルタクス」

「うん、名前も良いね。じゃあ、死んでもらおう」


 アフロは足を勢いよく踏み出し、右ストレートを放つ。

 凄まじい爆発力が込められたそれを、スパルタクスも右ストレートで受け止める。

 衝撃が波紋のように広がる。


「ほう、本気を出していないとはいえ、これを受け止めるか。美しい」

「くっ、お前の身体すごく硬い……」

「だが、美しさが足りない……!!」


 拳のラッシュが始まる。

 左ストレート、相打ち。

 右ストレート、相打ち。

 左ストレート、被弾。

 右ストレート、相打ち。

 左、被弾、右、被弾、左相打ち、右被弾、被弾、被弾、被弾。


「ぐは……」


 何発も拳を食らったスパルタクスは吹き飛ばされ、倒れながらもよろけながら起き上がろうとしていた。


「おっと、その前に確実に〝渇いた道〟を潰しておくか」

「……させ……ない……。子供たちの笑顔のため……この国の戦えない人たちのため……」


 再び立ち向かおうとするスパルタクスに対して、ミディが止めに入る。


「無理です!! ここはいったん引きましょう!! 相手がヤバすぎる!!」

「ここで守らなくちゃ……。ノアクルが獣人を救ってくれたように、僕たちも人間を救う……!」

「ざぁんねん! こうやって美しい拳で破壊して――……なっ!?」


 アフロが〝渇いた道〟を拳で殴り壊したのだが、その瞬間に下にあった魔法陣が発動した。

 魔力が術式に従って、透明なロープのようなものでアフロを絡め取っていく。


「逃げるチャンスです!! 〝渇いた道〟が壊されたときに、敵を拘束するようにしておいたんです!!」

「そ、そんな……壊されて……」

「そうですよ!! もう壊されて打つ手無しです、ここにいる意味もなくなったので逃げますよ!!」


 呆然とするスパルタクスの手を引くようにして、全員はその場から離れようとした。

 アフロもただ見守っているわけではない。

 魔法陣ごと大地を引き抜き、近くにあった建造物を投げ飛ばしてきたのだ。


「うわ!? マジかよ!?」




 それから必死に逃げ続け、何とか街の外に出ることができた。

 さすがにアフロも魔法陣付きの大地を引きずりながらは長距離移動できなかったらしい。

 砂ぼこりで汚れたトラキアは額から流れる汗を拭いつつ、ようやく一息吐いていた。


「あのアフロって奴……ムチャクチャだぜ……。スパルタクスの旦那よりもパワーが強いだなんて……」

「さすがにアレだけの特化したパワー相手だと、アタシやトラキアじゃ足手まといになるわね……」

「ごめん……〝渇いた道〟壊された……。ローズ様の期待を裏切った……」


 獣人三人は意気消沈していた。

 それに対してミディは妙に平然としていた。


「あー、実はアレは……」

「ちょっと待ってください。そこからはこちらが説明いたします」


 いつの間にかヒョッコリと現れた褐色で白髪の少女。


「お主は何者じゃ……?」

「ツァラストと申します。そちらのもう一つの目的である、護衛対象です」

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こちら、コミカライズ版です!

漫画:フミキチ先生
原作:タック


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