アスピたちの苦労していた話
「や、止めろツァラスト!! こんなゴミ王子を愛してはいけない!!」
ステラが代わりにツァラストを引き剥がしてくれた。
なぜかステラの方が顔を赤面させているのは不思議だが。
「アルヴァさんもいらっしゃるのね、ご機嫌麗しゅう。愛してま――」
「お父様には、お母様がいるのでダメですわー!!」
ローズが全力ブロックをしていた。
アルヴァの表情は引きつっているという珍しいシチュだ。
たぶん、これで浮気とされたらあとが怖いからだろう。
「す、ステラ……お前の妹はもしかして、誰にでもああ言っているのか?」
「ツァラストは誰に対しても愛を与えてしまう、聖母のような存在なのであります!」
「聖母が助走を付けて殴ってくるぞ……。ステラと一緒で変な奴だな……」
「ステラはまとも枠でありますよ!! ゴミ王子には言われたくないであります!!」
どうやらかなりアクが強い双子のようだ。
アスピたちが疲れているのは、もしかして――チラッと見ると察したらしいトラキアがうめき声のようなもので言ってきた。
「一緒だった間中、ずっとあんな感じでアタックしてきて……でも、オレ様が手を出すとジウスドラ王子の許嫁に手を出したことになってヤベェから……それで生殺しで……うぅ……つれぇよ兄弟……」
「トラキア以外は手を出そうとすら思わなかったけどねぇ……」
レティアリウスが心底呆れた表情をしているので、一行の空気は最悪だったのだろう。
そっとしておいてやりたい気もするが、今は聞かなければならないことがある。
「ローズが言ってた内通者って、ツァラストのことでいいんだよな?」
「はい、その通りです。ツァラストの愛するノアクルさん」
どうやらステラと一緒で、自分のことは名前で呼んでいるらしい。
双子だからそういうところも似ているのだろう。
髪の色と体型は大きく異なるが。
具体的に言うと姉のステラが黒髪巨乳で、妹のツァラストが白髪貧乳だ。
「先に聞いておきたいことがあるんだが……」
「なんでしょうか?」
「その愛してるって言葉の意味は、友情としての愛でいいんだよな……? 許嫁のジウスもいるし」
周囲の視線が『聞くのはそこかよ』とツッコミを入れたそうである。
「はいでもあり、いいえでもあります。友情としての愛、異性としての愛、親が子を見守るときの愛、存在してくれるだけで感謝の愛……すべてが含まれています」
「……ジウスはそれでいいのか?」
「はい、自由にしろと仰ってくれました」
「れ、恋愛方面は知らなかったが、アイツは意外と寛大なんだな……」
家族のそういう方面はあまり知りたくなかった気がする。
許嫁が浮気性……を越えて無差別に愛をバラ撒く人間でもオッケーということだ。
恋愛に疎いノアクルなのだが、すごい関係の二人だなと思ってしまった。
「えーっと、そのツァラストと、アスピたちがなぜ一緒にいるんだ? たしか、どこかの街に偵察に向かったんだろう?」
「そうじゃのぉ、順序的にまずはそこから話すとするかのぉ。少し長くなるから、茶とまでは言わんが綺麗な水でもくれるとありがたいわい。ノアクルがいれば作れるじゃろう」
「ガンダーの街の土産で茶葉もあったな、それでも飲みながら話すか」
***
――アスピの視点となると、ノアクルがゴールデンリンクスから落ちて行方不明になったところまで遡る。
ジーニャスと同じように、現れたアルケイン王国海軍などに助けられ、いったんこの砦に集まったのだ。
そこでアルヴァとローズからある場所を偵察してほしいという頼みを受けることになった。
指定された場所は王都からほど近い街――アタノールであった。
現地で何をするのかは、案内役が教えてくれるらしい。
別の偵察に向かったジーニャスと違って、ポンコツなメンバーはいなかったので無事に街に到着した。
「大きな街じゃのぉ……寂れておるが」
ガンダーの街よりも大規模な武具工房があり、それを中心に様々な建物がある。
しかし、人はおらず稼働していない。
いるのは物乞いや、ヨロヨロと歩く老人、警戒中のダスト兵くらいだろうか。
砦で聞いてはいたが、物資不足のせいで活気がなくなっているように見える。
過去にノアクルが語っていたアルケイン王国はもっと物資が潤沢で、常に物が無限とも言えるくらいに溢れていて、ゴミ問題も気にしないようなところだった。
今はゴミすら取り合いになるが、その再利用方法などは即席でできるわけもなく、結局物資不足に陥っているのだろう。
目の前で子供がゴミを取り合い、勝者側も使い道がわからず再び捨てる。
「うへ~、まるでスラム街だなぁ。まだオレ様たちがいた地下闘技場の方がマシだったかもしれねぇぜ~」
「でも、アタシから見たら、ノアクルを追い出してこの結果なら人間たちの自業自得よ」
「ボク、難しいことわからない……けど、子供が悲しむの良くない」
アスピは街を観察し、それを肩に乗せているトラキアは旅慣れているのか達観、横を歩くレティアリウスは興味なさげで、前で敵を警戒し続けているスパルタクスは嘆いている。
「我が海軍がアルケイン王国を取り戻した暁には、ここも平和にすることを約束しようではないか!!」
それと――今回の案内役が眉をキリッとさせながらハキハキとしすぎる口調で喋っていた。
「おいおい、案内役さん。ダスト兵もいるんだから声が大きいって……」
トラキアが慌てて止めに入る。
「たしかミディじゃったか」
「ハッハッハ! そう、僕はミディ・オクラ! 海軍学校の首席卒業さ!」
悪びれもせずふんぞり返っている案内役――ミディ・オクラ。
アスピは、彼の以前のエピソードを思い出していた。
「たしか海軍学校の島でジーニャスに派手にやられていた奴じゃったな。次席だったような……?」
うっすらと記憶に残るだけの影の薄い存在だが、それは本人の前では言わないようにした。
「ジーニャスがいなくなったから、もう僕が首席だ!! まぁ、すぐに追い越す予定だったけどな!」
「ポジティブじゃのぉ……」
ジーニャスとミディの海戦は見ていたが、それなりにジーニャスに食い付いていたので優秀なことは確かだろう。
むしろ陸のジーニャスのポンコツ具合を考えれば、平均的な優秀さではミディに軍配が揚がるかもしれない。
「それで、そろそろこのアタノールという街に来た理由を教えてくれんかのぉ」
「大きな声では言えないが!! 王都へ移動するための秘密のルートを準備中だ!! その進捗具合の確認が目的の一つだ!! 直接の確認じゃないと誰かに知られる可能性で安心できないからな!!」
「声、大きすぎるんじゃが……」
アスピたちは不安しかなかった。





