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棄てられ王子の最強イカダ国家 ~お前はゴミだと追放されたので、無駄スキル【リサイクル】を使ってゴミ扱いされたモノたちで海上都市を築きます~  作者: タック
第九章 幸せの街ガンダー

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死は幸せの味

「さぁ、お話をしましょう」


 ジュエリンとドロシーが屋敷の外へ出て行ったあと、トレジャンとキリィは互いの顔を見ていた。

 トレジャンは深い怒りを携えた表情。

 一方のキリィは菩薩の如く慈愛に満ちた笑顔。


「次はコイツとお話させてやるよ」


 左手の古代兵器――義手で瓦礫の破片をメキメキと握り、破砕して見せつけた。

 この義手は烽宝砲の発射装置としてだけではなく、大型モンスターのような物理的パワーも出せる。

 さらに身につけている宝のバフによって魔力的な強化もされている。

 まともに打撃を喰らえば、キリィはひとたまりもないだろう。

 だが、キリィは笑顔のままだ。


「懐かしいですねぇ。まだ貴方が小さかった頃、その片腕を切り落とした記憶は大変鮮明に残っています。貴方のご家族は全員殺傷できたのに、一人だけ仲間外れにしてしまって申し訳なく思います。群れからはぐれた子犬一匹のように寂しかったでしょう、辛かったでしょうに」


 トレジャンは無言で眉根にシワを寄せた。

 その三白眼でどんな心境か痛いほどに伝わってくる。

 積年の恨みをぶつけるかのように、弾かれた砲弾の如くキリィへ向かう。


「ああ、ジニコさん。貴方と一緒に助けて頂きましたね。本当に感謝しています。あそこで私が死んでいたら、今はなかったでしょう。ご家族を殺すことも、その義手が装着されることも――」

「チッ!」


 拳が防がれた。

 正確には、キリィの顔面に到達する前に避けられた。


(急に白髭が速くなった? いや、アイツに近付いた瞬間、まるで水の中を殴っているようだった……)


 不自然な空気の抵抗を感じたのだ。

 それによって拳のスピードが遅くなり、キリィが簡単に避けてしまった。


「――貴方が復讐のために海賊になることも、私を探すために敢えて黒髭を名乗ることも、フランシスさんと出会うことも、そして――ジニコさんを失うこともなかったでしょうねぇ」

「黙れ……!」


 二撃目も同じように回避された。

 どうやらジュエリンの宝石のような使い捨ての防御などではなく、スキルなどによる永続的な効果らしい。

 非常に厄介だ。

 キリィは無傷で笑顔のまま、攻撃の隙を突いて斧を振るってきた。

 命中。


「くっ!?」

「ありがとう! 私を助けてくださり、ありがとう! という感謝の念しかありません。貴方のお優しい選択が、この白髭キリィ・カウントを生み出してくださったのですから」


 ボトリと落ちるトレジャンの生身の右腕。


「これが私から出来るせめてものお礼……あのときやり残したことです。心残りと共にすべて斬り落としてしまいましょう」

「なんだよ、テメェ……。錆びた斧でも一発で斬れるじゃねぇか……」

「はい。魔力で強化すれば切れ味くらいこの通りです。本来なら素の状態で何度も味わって頂きたいのですが……そこだけは残念でなりません」


 つまり、普段の殺人鬼スタイルはワザと手を緩めて愉しんでいたのだ。

 悪趣味極まりない。

 トレジャンは、死と再生の海神ディロスリブから与えられたスキル【リジェネレイト】を使って右腕に黒い霧を発生させた。

 瞬時に右腕が再生しているのを見て、キリィは感嘆の声を上げる。


「わお、素晴らしいです。何度も切り離して、幸せな気分になれそうです」

「その前にテメェの首をねじ切ってやるよ」


 そこからは血みどろの戦いだった。

 殴り、避けられ、斬られ、再生し、発射し、無傷、斬られ、再生。

 血液、血飛沫、返り血、血痕、血染め、血まみれ、血溜まり。

 その血なまぐさい凄惨な戦いだが、一瞬にして何事も無かった状態に戻ってしまう。


「私は嬉しいのですが、なぜ貴方がここまでの執念を持って挑んできてくれるのかが不思議でなりません」

「一つは復讐ってやつかもな……。目の前で家族やアイツを殺されたんだ……殺し返すのが筋ってもんだろう」

「なるほど、復讐とはそのように強い感情を伴うものなのですね。二つ目をお聞きしても?」

「過去への決別だ……。オレとジニコが救っちまったテメェによって、これ以上地獄を広げさせないようにな……」

「ジニコさんは殺してしまったので、トレジャン君がやるしかないということですね。なるほど、なるほど。もしかして、三つ目もありますか?」


 トレジャンは、まだ動けないジーニャスの方をチラリと見た。


「さぁな」

「そうですか、どうやら私はトレジャン君に酷いことをしてしまっていたようだ。心から謝罪をしましょう。本当に申し訳ない」


 キリィは頭を下げていた。


「心から、か。テメェはその心が最初から壊れてるから意味ねぇだろ?」

「おや、そうなのですか?」


 頭を上げたキリィは笑顔のままだ。


「だから、テメェ――白髭キリィカウントは生きていちゃいけねぇ人間だろうがよ」

「それで殺されてしまうというのですね、納得です。この私にもわかるように説明して頂けるとは感謝の念に堪えません。ですが――」


 キリィは腰に下げていた三本の筒の内、一本を手に取った。


「納得はしましたが、人は幸せになる権利があります。私はまだまだ殺傷欲を満たして幸せになりたいので、トレジャン君を殺すしかありません」

「はっ、どうやってオレを殺すってんだ。どんな傷でも――」

「ああ、悲しい……人はこうやって争いというものが起きてしまうのですね……」


 パンッ、という乾いた音がした。

 それはキリィが構えた筒からしたものだった。


「な……、傷が回復しねぇ……だと……!? それどころかスキル自体が発動しねぇ!?」

「〝ザ・ワールド・ラストガンズ〟」


 トレジャンの右肩は穴が空き、血が噴き出していた。

 たとえスキル【リジェネレイト】が発動しても、その怪我だけは治らない。

 まるで植え付けられた銃創の古い概念が、この新しい世界を否定しているかのようだ。


「銃」


 キリィは持っていた筒――銃を見せびらかすようにしてきた。


「というものをご存じですか? いえ、知らないでしょう。今ある魔大砲などと違い、実弾を発射する銃は古代文明時代よりも以前の武器だったらしいですから」


 銃身、トリガー、撃鉄、弾、ガンパウダー、L字型の姿をしたシンプルな構造。

 複雑な部品もなく、ライフリングもされていない。

 最初期の形。


「人殺しの象徴とされ、地球で一番恐れられた存在だったらしいです。ですが、知っての通り飛び道具など魔力を込めても途中で四散してしまい、魔力防御を打ち破れなくて廃れてしまっています。今だと動物相手に弓矢で狩猟をするくらいでしょうか」


 一般人ならともかく、戦闘を生業とする人間なら目に見えない魔力で身体強化しているのが当たり前だ。

 それを魔力強化していない武器で攻撃してもダメージが通らず、対抗策として魔力を込めた武器で相殺しつつダメージを与えるのだ。

 本当なら射程が長い飛び道具が有利なのだが、途中で魔力が四散してしまってはダメージを通すことができない。

 そのため基本的には魔力が四散しない近接攻撃、または飛び道具だと魔術や、魔力を術式で発射する船の設置型超重量級魔術杖(マジック・カルバリン)・魔大砲などが主流となっている。


「私は詳しい経緯は知らないのですが、きっと大昔に淘汰されてしまった飛び道具――それが銃なのでしょう。殺すための道具……淘汰されるべき存在……非常に親近感が湧きますね」


 そう言いながら、〝ザ・ワールド・ラストガンズ〟と呼ばれた銃を雑に投げ捨てた。


「この世界に残された銃は三丁。すべての銃の怨念とも呼べるものが、銃の神を降臨させました。そして、その弾丸は神の力を以て穿つのです」

「ご高説ありがとうよ。ようするに防げねぇ攻撃ってことだろう? だが、オレにとってはそんなに速い攻撃でもねぇし、追いかけてきもしねえ。避けちまえば良いだけだ」

「そうですね。意表を突く以外はあまり当たりません。ジニコさんのときも運良く命中しただけでした。ですが――」


 銃口が向けられた方向は、トレジャンではなく――


「ジーニャス!?」

「ご自分から当たりに来るのなら問題なく殺せるでしょう」


 トレジャンは必死の形相で、ジーニャスを抱き締めるような形で庇った。

 それはまるで父親が、娘を命がけで守るような姿だ。


「と、トレジャンのおじちゃん……私のことはいいから……」


 ジーニャスは弱い力で振り払おうとするも、トレジャンは離れない。

 無情にも〝ザ・ワールド・ラストガンズ〟の引き金が引かれ、弾丸が発射された。

 その弾丸は肉を抉り、心臓へと達した。

 しかし、それはトレジャンではない。


「おや、一発ムダにしましたか」


 間に入ってきたジュエリンに命中していたのだった。

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