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棄てられ王子の最強イカダ国家 ~お前はゴミだと追放されたので、無駄スキル【リサイクル】を使ってゴミ扱いされたモノたちで海上都市を築きます~  作者: タック
第九章 幸せの街ガンダー

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ノアクルVS鬼牙

「マジか……」


 ご馳走様をしたあとに真相を聞かされ、何というかその言葉しか出ない。


「マジか……」

「マジでさぁ」


 たとえそれが超巨大なサソリの肉だったとしても、数分前に食べていた美味しさは変わらない。

 ただ、エビだと思って食っていたのが、『実は超巨大サソリでした』とネタばらしされたらショックが大きいことは理解してほしいところだ。


「マジか……」

「マジであります」


 母上の思い出の料理はもしかしてエビではなく、サソリのアヒージョだったのだろうか。

 いや、きっと普通のエビだったに違いない。

 記憶の中の料理にかなり近かったが、エビのはずだ。

 あの母上がそんなワイルドな材料を使っているはずが……。


「ダイギンジョー殿、その鉄鍋サソリの毒袋は捨てないのでありますか?」

「この毒は少し特殊で、調理……いえ、調合するとケットシー用の珍しい薬膳料理になるんでさぁ」

「さ、サソリ……あまり現実を突き付けるな……」

「へぇ~、あの鉄鍋サソリの毒が薬になるでありますか~」


 ノアクルの主張は完全にスルーされていた。

 このモヤモヤをどこへぶつければいいのだろうか。

 そんなのは決まっている。


「エビだと思っていたものがサソリだったなんて……許せん……許せんぞ……鬼牙!!」

「オデ!?」


 ノアクルたちは、鬼牙に堂々と近付いて戦闘の宣言を告げた。


「よくわからんだど……。だけど、オメェらがパワーぜんかいになったところで、オデはつよいど!」

「食事のことだけに、俺は今猛烈に腹の虫が治まらん……。朝飯前で決めさせてもらうぞ」

「ゴミ王子、何でいちいち上手いことを言ったでありますか?」

「…………行くぞ、鬼牙!!」


 ステラのツッコミは聞かなかったことにした。


「ナヨッとしているオメェあいてに、ムダに腹を減らしたくねぇべ。さんにんでいっきにかかってくるだど~」

「今回はまだ俺だけ何もしてないからな。食ってばかりのデブ相手には俺一人で充分だ」

「な、なめたくちを……その舌もタン塩にしてやるどぉ!!」


 鬼牙はその巨体のたるんだ腹に力を込めると、一瞬で腹が引っ込んでシックスパックの筋肉が現れた。

 二刀流を構える丸太のように太い腕も、ビキビキと音を立てるかのように力こぶが出来上がっていく。

 その脂肪だらけのデブだと思われていたものは、恐ろしいまでの筋肉を隠していたのだ。

 スキルを使わなくても恐ろしい存在だとすぐにわかる。

 だが――ノアクルはもっと恐ろしいトレジャンとも戦っている。

 目の前の鬼牙が小さく見えて仕方がない。


「五秒で倒せそうだな、お前」

「あぁん!?」


 鬼牙が挑発に乗って激昂した瞬間、ノアクルは周囲の乾燥した石や砂をスキル【リサイクル】を使って爆散させた。


「くっ、まえとおなじえんまくだど!? にげるのか!?」


 周囲が煙に覆われ、何も見えない状態になった。

 しかし、以前とは違う。

 鬼牙は何かが近付いてくる音と気配、魔力を感じ取っていた。


「とったどぉー!!」


 鬼牙の見た目からは想像できない素早さを乗せた二刀流攻撃。

 煙の中のノアクルは回避行動をせず、避けることはできないように見えた。

 そのまま二本の刃がノアクルのいる位置に到達し――。

 ガキンッ、と不思議な音がした。


「は……?」

「丁度良いゴミが落ちてたんでな、鎧にしてみた」


 ブワッと剣圧で煙が晴れた中から、鉄鍋サソリの甲殻を鎧として身に纏っているノアクルが立っていた。

 元々分厚く硬い甲殻だが、弱点である関節部などは多重構造にして隙間を極力なくしている。

 同時に耐衝撃として鎧内部にオリーブオイルを混ぜた特殊な砂のクッションを詰めていて、『片栗粉を急に握ると固まる』で有名なダイラタンシー現象も利用している。


「ま、まえのちっこい鉄板焼きとはちがっ――」

「本当に食べ物関係の語彙だけはあるな」


 鬼牙は攻撃を大きく弾かれ、隙が出来ていた。

 ノアクルはその一瞬を逃さず、拳に力を込める。


「我が省エネの一撃を受けよ――〝簡略式(エコ)・|完璧を切り拓く輝きのノアズアーク〟!」


 これは全力で放つとその後に動けなくなってしまう〝完璧を切り拓く手〟を弱めて、使ったあとにあまり影響が無いようにした省エネ版だ。

 しかし、意外にも死者の島での経験を経て威力が強まっていたらしい。


「ぐほぉぉぉぉぉぉぉおおおおッ!?」


 鬼牙はオモチャのボールのように吹き飛んだ。

 遠くの岩山に激突して、斜め方向に弾んで、どこかへ遠くへ消えてしまった。


「しまった……やり過ぎたな……。これでは話を聞くこともできない」

「ノアクルの旦那は相変わらずでさぁ……」

「す、すごいであります……。これならきっと、ランドフォルを倒して妹のツァラストと、アルケイン王国を救うことも……」


 やりすぎてしまったことは後悔しても仕方がない、そう割り切ることにした。

 気持ちもリサイクルだ。


「さてと、白髭だか、ラスボスのランドフォルだかを拝みに幸せの街ガンダーに向かうぞ」

「そうでありますな、それこそが目的でありました!! レッツゴーであります!!」

「……その前に」


 ノアクルはピタッと立ち止まった。

 そして不快そうな表情をした。


「ゴミを全身鎧にするのは良いと思ったのだが、オリーブオイルを浸した粒子の細かい砂を耐衝撃材にしたのは間違いだったな……。すんげぇベタベタして着心地が最悪だ……」


 鉄鍋サソリの鎧を脱ぐと、中からヌトォッとしたノアクルが出てきた。


「う~わっ……」

「こりゃひでぇ……」


 ステラとダイギンジョーのドン引きの表情をしていて、ノアクルは自分が今どんな状態になっているのか察したのであった。


 ※なお、今回使用したオリーブオイルは不純物だけスキルで分離して、あとで美味しく頂きました。

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漫画:フミキチ先生
原作:タック


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