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棄てられ王子の最強イカダ国家 ~お前はゴミだと追放されたので、無駄スキル【リサイクル】を使ってゴミ扱いされたモノたちで海上都市を築きます~  作者: タック
第八章 世界が終わる七日間

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ゴールデンリンクスと王国軍の邂逅

「アルヴァさん、お久しぶりです」

「おぉ、ノアクル殿下! 我が娘が馬鹿をやって、囚われていたラストベガぶりですな!」

「……お父様、そのことはお忘れになって……」


 貴賓室に集まったのはノアクル、アルヴァ宰相、ローズ、それと護衛として呼ばれたステラだ。

 ステラにとってノアクル以外は本物のVIPなので、ガチガチに固まって緊張している。

 他の三人は気にせず話を進めていく。


「それより殿下は海に落ちたあと、どうなさっていたのですか? 死んだとは思いませんでしたが……」

「砂浜に打ち上げられたところ、綺麗なシュレドに助けられて、ステラと一緒になって砦に行けと言われて鎧でドリブルして、引っぱたかれて起きて現在、だ」

「えーっと……仰っていることがよくわからないので、あとでステラさんに伺いますわ……」


 ダメな方向でローズからの厚い信頼を得ていると感じる。

 話を向けられたステラはビクッとしたあと、敬礼のポーズをしながら返事をした。


「ハッ!! 了解でありますローズ様!! あとで報告書にまとめておくであります!!」

「おぉ、人望あるな、ローズ」

「このゴ……ではなく、ノアクル様。こちらのローズ様は、敬愛するアルヴァ宰相閣下のご令嬢であり、小さいながらも才色兼備を持ち合わせ、下々の者にも優しいという聖女の如き尊き御方でありますよ……! 貴方とは違うであります!」


 ステラが真面目な顔でそんなことを言うから噴き出してしまった。


「このローズが優しいだと!? わはは、俺は普段から引っ付かれて、死ぬほど厳しく当たられているぞ! 何かの間違いだろう?」


 なぜかその場がシーンと静まりかえってしまった。

 アルヴァはニヤニヤして、ステラは「あっ」と言い、ローズは気まずそうに俯いてしまっている。


「ん? どうしたんだ? 何かおかしなことでも言ってしまったか?」


 こほん、とローズが大きな咳払いで話を遮ってきた。


「――殿下。あのあとゴールデン・リンクスがどうなったか気になりませんか?」

「気にはなるな。でも、お前が無事だし、悲しんでいないところを見るとみんな大丈夫だとは思うが。それでなんでさっき――」

「素直に聞かないと座学の時間を増やしますわ、殿下」

「……ほらな?」


 本性はこういう奴だと言わんばかりに、やれやれと両手でジェスチャーをした。

 これ以上、何かを言うと座学を増やされて、ゴミで楽しむ時間がなくなるので素直に聞くことにした。


「シープ・ビューティーを名乗る者のスキルを受け、眠気でまともに対処できないところを攻められて窮地に陥りましたわ」

「俺もそれで海に落ちたな」

「ま、まぁそれは殿下がわたくしを身を挺して庇ったからで……ごにょごにょ」

「何か言ったか?」

「いえ、何も。殿下が海に落ちたあとは何とか持ちこたえましたが、それも時間の問題と思われました。しかし、王都の方で爆発、それと同時に王国の海軍が救援に駆け付けてきました。そこでジウスドラ王子が撤退」

「随分とタイミングが良いな」

「お父様が王国軍を指揮して(おこな)ったそうですわ」


 アルヴァ宰相をジッと見るも、その表情は鉄面皮を崩さない。

 何か怪しい気がするのだが、問い詰めて話してくれるような人ではない。


「そこでアルケイン王国の現状を聞き、お父様から指示を受けて、皆さんは戦力不足の各地へ向かってもらったのですわ」

「ローズはこの砦にやってきていたというわけか」

「さすがに他の方のように強くないと身に染みたので、お父様の補佐を……。それで次の日、すぐに殿下がやってきてビックリですわ」

「ん? 次の日?」


 違和感を覚えた。

 たしか、浜辺で目が覚めてから一日は経っていないはずだ。


「もしかして俺、浜辺で一日気絶してたのか……」

「たぶん、そういうことかと」

「道理でローズの移動が早いわけだ……。そう考えたら腹が減ってきたな……一日以上、何も食ってないことになるぞ……」

「ダスト兵でゴミ遊びするのが楽しくて忘れていたのでは? むしろわたくしのことすら忘れていらしたのかもしれませんわね」


 綺麗なシュレドのインパクトから始まってしまったので、割と否定が出来ない。


「い、いや、悪かった。だから、まず先に何か食べ物――」

「本当に反省してます?」

「してる、ゴミに誓って」

「何とも言えない誓い方ですが……まぁいいでしょう。すでに食事の準備を進めさせていたので、こちらへ。食べたら入浴をして、すぐお休みになってください。話の続きはまた明日ですわ」


 まだ怒っているらしいローズは部屋の外へ歩いて行ってしまい、後ろにいるアルヴァ宰相がコソッと伝えてきた。


「ノアクル殿下、不器用な娘で申し訳なく……。本当はノアクル殿下が生きていると知って大喜びして、もてなすために食事や湯の用意、体調を心配してゆっくり寝てもらうために一番良いベッドまで準備していて……」

「……お父様。聞こえてますわよ」

「おっと、怖い……! 妻譲りの圧をかけるようになってきたか!!」


 そういえばこの家族は、夫が宰相という偉い立場でも、パワーバランスは女性陣が強かったなと思い出した。

 こちらとしては腹が減って死にそうなので、早くしてくれと思うばかりだ。




 ステラに食堂のような場所に案内されたのだが、そこにあったのは――


「ふむ……」


 一種類の野菜クズが少量しか入っていない粗末なスープと、硬い黒パンだ。

 海上都市ノアの豊かな食事と比べて、あまりに質素だ。

 ダイギンジョーが作ってくれた海賊風ディナーが懐かしい。

 おっと、いけない。表情に出てしまったようだ。

 護衛としてつけられていたステラが申し訳なさそうにしている。


「最近のアルケイン王国は食糧事情も乏しく……。アルヴァ宰相閣下でさえ、このような食事をしているのであります」

「元々、ゴミ問題で食糧にまで影響が及んでいても、無限に物資が供給されていれば気にしない者が多かったからな……」

「で、ですが、量だけはかき集めてきたので腹は膨れるであります!」

「そうだな。ゴミと同じで無駄にすることはできん。いただきます」


 硬い黒パンは、想像通りに持っただけでゴツゴツとした岩のような硬さが伝わってくる。

 これは水分を極限まで飛ばして長持ちさせるためだ。

 かじり付いてみると歯が欠けそうになるが、強引に噛みきる。

 数日前にみんなで食べた上質な柔らかい白パンが懐かしい。


「うぐぐ……」


 口の中の水分をすべて奪われてしまったので、今度はスープに手を伸ばす。

 味は微かに塩が入っていて、謎の野菜は筋張っていて硬く、スープに青臭さを移してしまっている。

 青虫の体液と言われてもおかしくないレベルだが、水分の補給としては仕方がないのだろう。

 口が裂けてもおいしいとは言えない食事だ。

 そのとき、背後からグゥ~というお腹の鳴る音が聞こえてきた。


「……」


 ステラの方を見ると、無言で赤面しながら顔を逸らしてしまった。


「よく考えると、VIP待遇の俺がこの食事なら、普通の奴らはこれ以下の質か、もしくはほとんど食ってないってことになるな……」

「き、気にせず!! 東の国のコトワザにも『騎士は食わねど高楊枝』というのが!!」

「騎士じゃなくて、ブシじゃなかったか? たしかニンジャとかサムライ的なジョブだろ、それ」

「細かいことはともかく、そういう心意気ということであります!!」

「心意気じゃ腹は膨れないだろ、バカヤロウが」


 ノアクルは呆れながら、黒パンの一つをステラの口に押し込んでやった。


「むぐっ」

「野菜スープも……と思ったが、こっちは間接キスになってしまうな。他人とそんなことをしたら責任を取らねばならん……。あとでローズかアルヴァさん辺りに渡すか」


 なぜかステラが悔しそうにしているのが見えた。


「あ、アルケイン王国の貴族なら、もっと強欲で……!!」

「俺は、俺だ。ゴミ以外にはあまり興味がない」


 まだ腹は減っているが倒れるほどではなくなったので、他の兵たちにもパンを分けてやることにした。




 今度は大浴場に案内された。

 石造りになっていて、砦にしてはかなり大きさもある。

 十人くらいは入れるだろうか。

 しかも男湯と女湯が別れているというしっかりとした作りだ。

 だが――


「……湯が張ってないな」

「水源も汚染されているものが多く、大量に水を使えないのであります……」

「なんでその状態で俺をここに連れて来たんだ?」

「ローズ様のご命令で……連れてくれば何とかなると仰っていたのであります……」


 その言葉でピンときた、きてしまった。


「……もしかしてだが、汚染された水というのはどこかに溜めて大量に保管してあるんじゃないか?」

「よくわかったでありますな。ローズ様の指示で事前に用意しておいたであります。あの量の汚染水が綺麗な水だったら、当分は助かるどころか、久しぶりにお風呂にも入れるのでありますが……」

「わかった。ひとっ風呂浴びる前に一仕事してやる。ステラだけでなく、ローズやアルヴァさんも風呂に入りたいだろうしな」

「一仕事……?」


 ステラに案内されると、汚染水が入った樽が大量に置かれた場所へと辿り着いた。

 ご丁寧に蓋を外していて、何をさせたいのかが丸わかりだ。


「まったく、これだけ働くとなると風呂が気持ちよくなりそうだな。スキル【リサイクル】」

「えっ!? 水が光って……!?」


 汚染水から、余計なものを取り除いて綺麗な水へと【リサイクル】した。

 念のために飲んでみたが、味的に平気そうだ。

 腹も痛くならない。


「な、何をしているでありますか!? それを飲むと危険であります!!」

「こういうことは慣れている」

「な、慣れているって……いったい……」

「ほれ、飲んでみろ」


 ステラは警戒しながらも、恐る恐る水を飲んでみた。


「へ、変な味も臭いもしない、美味しい水であります!!」

「ゴミ流しの刑にされたあと、色々あってこういう水の浄化には慣れているんだ」

「美味しい……綺麗な水をこんなにたくさん飲めるなんて……!!」


 こちらの話を聞いていないのか、ステラはゴクゴクと喉を鳴らしながら水を飲んでいる。

 まるで砂漠でオアシスを見つけたときのようなリアクションだ。

 いや、実際に汚染水に悩まされた土地だと、それくらい水は貴重なものなのだろうか。


「あっ、いっぱい飲んでしまったであります……。アルヴァ宰相閣下や、他の人たちも飲みたいはずなのに……」

「心配するな、ここにある汚染水は全部綺麗な水にしてやる」


 大量の樽があるので一苦労だが、ここまで喜んでくれるのならやりがいがある。

 これまでの疲労から少しフラつきながらも、汗を拭いつつ浄化作業を進めていく。

 それを心配そうに見ていたステラは、ノアクルに聞こえないように呟いた。


「ありがとうであります」

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