見習い女騎士と二人旅
ノアクルは、ゴミだらけの街道をステラと共に進んでいた。
本当は馬があれば速いのだが、村にいた馬はすでに王国軍に渡してしまったあとらしい。
なので、ステラと会話しながら徒歩の最中だ。
「へぇ~、シュレド大臣とそんな戦いがあったでありますか~」
「普通に死んだかと思っていたが、まさか生きていたとはな……。しぶとすぎる奴だ」
「それであの村にいたというわけでありますな」
「俺も驚いた。記憶喪失になって、ライトという名前で村人をやっていたという……」
「で、ありますかぁ~」
ステラはかなり馴れ馴れしく喋りかけてきているが、それはそうしてくれと頼んでおいたからだ。
二人旅になるのに、さっきの隊長のように堅苦しくされると面倒くさい。
むしろどんどんゴミ王子と言って欲しいくらいだ。
「けど、なんで村人は王国軍に通報しなかったでありますか? シュレド大臣といえば、パルプタを跡形もなく破壊した大悪党であります」
「ま、まぁ壊れた物は仕方が無いじゃないか」
「シュレド大臣を庇うのでありますか? 意外と優しいでありますな……」
パルプタは今、スキル【リサイクル】で海上都市ノアの一部になっているとは言えなかった。
よく考えなくてもアレ自体はアルケイン王国の物だし、しかし海に沈むくらいならもらってしまっても……というのも王国軍にぶん殴られてもおかしくない。
やはり黙っておくという結果になる。
そして勢いで誤魔化すことにした。
「それはともかくぅッッ!!!!」
「ぴゃっ!? おっきい!!」
「なぜシュレド大臣のことを知っていたのに隠していたか。出発直前に村人から聞くことができた」
「み、耳がキーンとしてるんで五秒待つであります……」
「ふはは!! すまんな、軟弱者!」
「ご、ゴミ王子……」
煽るとゴミ王子と言ってくれるので、これからも適度に煽ろうと思う。
「五秒経ったか? 経ったな、話すぞ」
「……我が道を行きすぎであります」
「漂流者として砂浜に倒れていたシュレドを発見したとき、村人達は大騒ぎだったそうだ。すでにアルケイン王国での失態や、パルプタの非道な行動は伝わってたからな」
「やっぱり、なんで……」
「ところが記憶喪失で、自分の名前すら覚えていない状態だ。村人としては、下手に刺激を与えて記憶を蘇らせたら何をされるかわかったもんじゃないとなった」
「まぁ、あのシュレド大臣でありますからな~……」
騎士見習いにまでバカにされているシュレドに同情した。
「そこで知らないフリを通してやり過ごそうとしたわけだ。こんな寂れた村なんてすぐ離れてくれるだろうと思ってな」
「たしかに腐敗した貴族があの環境で過ごせるとは思わないであります」
「ところが、記憶が無くなったシュレドは死ぬほど善良な人間に生まれ変わっていた。あのシュレドがだぞ……」
「そ、そういえばステラのことも助けようとしてくれていたし、隊長も運んでくれたでありますな……」
「良い奴過ぎて、すっかりと村の仲間となって庇うまでしたという。内心〝綺麗なシュレド〟と呼んでいたが、その通りだったらしいな」
「情が湧いた……というやつでありますな。はぁ~……今ならその気持ち、痛いほどわかるでありますよ」
「ほう、何か心覚えがあるのか?」
ステラはジッとこちらを見つめてきたあと、ビシッと指差してきた。
「そこの貴方でありますよ!!」
「命令だ、ゴミ王子と呼べ」
「……そこのゴミ王子でありますよ」
「うむ、よろしい」
「このように性格はゴミでも、ステラと隊長を助けてくれましたし、噂とは違う人間だなぁ~……と。まぁ許せないところはありますが……」
「許せないところ? そういえば、妹が俺のせいでどうのとか言ってたか?」
「そうであります。聞きたければ聞かせてやるであります、ステラとツァラストの姉妹物語を!」
「いや、別に聞きたいわけじゃないが……」
「ツァラストの話を聞きたくないと!? そんなことはありえないだろう!!」
ステラが鬼気迫る形相で言ってきて、さすがに驚いてしまった。
「ステラの可愛い可愛い可愛い妹の話だぞ!! 世界一愛していて美しい存在!! それを聞きたくないだと!! おかしいだろ、おい!! 地球上でそんな人間存在しないだろう!!」
それまでの見習い騎士の頼りなさはなくなり、この前見た本物の鬼より恐ろしい感じになっている。
「お前、口調まで変わってるぞ……」
「お姉ちゃんだから!!」
「そ、そうなのか……」
「ツァラストのお姉ちゃんとして存在するとき、ステラは最強であらねばならんのだ!!」
「……なんか俺の周りの女、癖の強い奴が多すぎないか」
「何か言ったか??」
「いえ、何も」
コイツは聞くまで引き下がらないと心が理解してしまった。
「可愛い妹のステラはなぁ……。お前がいなくなったせいで、代わりにランドフォルの奴に連れ去られ……。しかも敵側に寝返ったジウスドラ王子の許嫁で手込めにされ……!!」
「俺の代わりに連れ去られ? しかもジウスドラの許嫁で手込め……?」
情報量が多すぎて理解が追いつかない。
詳しく聞こうとしたのだが――。
「話はあとだ」
音と気配がした方向にいたのはダスト兵だった。
新装備のジャケットに入っているどのゴミを使おうか考えていると、ステラが猪突猛進していった。
「お、おい」
「お姉ちゃんは世界で一番強いんだああああぁぁぁッ!!」
「この状態なら本気を発揮するタイプのヤバい女か……?」
少し期待したのだが、どうやらそれは間違いのようだ。
「ギャンッ!?」
犬の鳴き声のようなものを発しながら、素手のダスト兵に殴り飛ばされていた。
「……す、スキル【リサイクル】」
ノアクルは呆れながらも助けに入ることにした。
ダスト兵の首に石を投げつけ、首輪のように変化させてから急激に締め付けさせた。
それを取り外そうとしたが無駄で、首をバギンッとねじ切った。
ダスト兵は倒れて動かなくなった。
「えーっと、大丈夫か?」
「きゅ~……」
どうやら意識を失っているが無事らしい。
さすが見習い騎士だけあって頑丈だ。
「……仕方ない、おぶっていくか」
そう思ったのだが、金属鎧の装備が重そうで嫌になった。
かと言ってこの場に置いていくわけにもいかない。
「……スキル【リサイクル】」
ステラの鎧を対象として発動した。
結構ボロボロだったしゴミと判定しても問題はあるまい。
「よし、これで軽くなったな」
何か裸同然の薄着になっているが気にしない。
想像以上の隠れ巨乳が背中で潰れそうだが気にしないし、おぶっていれば他者からそんなに見えないだろう。
それと鎧を置いていくと怒られると思ったので、ボール状に固めて蹴って運ぶことにした。
「よし! これで問題ないだろう! 球技は結構得意だったしな! ドリブルドリブル!」
なお、このあとメチャクチャ怒られた。





