王国軍見習い女騎士
この国はもう終わりだ――そう口々にしていた国民たち。
しかし、それでも諦めない者たちがいた。
それが王国軍だ。
上層部は腐敗しきっていたが、実際に現場で働くような人間は違った。
国民を守りたいという気持ちで入隊した初心を忘れていなかった。
今、反乱軍のような立場になってしまった王国軍だが、サルファン村にダスト兵が向かっているとの知らせを受けて急行しているのだ。
「急げ、見習い!! 東のサルファン村は弱り切った村人だらけだ!! ダスト兵に襲われたら一瞬で皆殺しにされちまう!!」
「は、はい! 了解であります!!」
王国軍とは名ばかりで、たった二人しか助けによこせない状況だ。
疲労でやつれている中年の隊長と、頼りなさそうな見習い女騎士だ。
見習い女騎士は年齢が16歳くらいで、長い黒髪に褐色の肌、翡翠色の眼をしていてこの国では珍しい部類に見えた。
二人の装備はボロボロ、馬も飼い葉不足で動けなくなって途中で置いてきた。
彼らが息を切らしながら走り続けると、サルファン村の目と鼻の先にダスト兵がやってきていた。
「ま、間に合ったであります!」
「油断するなよ、ここからが本番だ」
隊長は大きく飛んで、ダスト兵の背中を切りつけた。
「ははっ! 卑怯とは言うまいな!」
ダスト兵は前のめりに倒れたのだが、すぐに立ち上がってきた。
傷らしい傷も残っていない。
「くそっ! 卑怯者め!!」
「隊長が言ってるでありますよ!!」
遅れてきた見習い女騎士も剣を抜いて構える。
一見頼りないのだが、その構えは様になっていた。
「ダスト兵は倒せない! 村人たちが逃げる時間を稼ぐぞ!」
「了解であります!」
王国軍の二人は『攻撃こそ防御!』とばかりにダスト兵を斬りつけていく。
喋ることのないダスト兵は伽藍堂の目で無感情に見てくるだけだった。
まるで何の意味も無いと言ってきているようだ。
ノーガードの利点をいかしてか、隊長が斬りかかるところにカウンター気味にダスト兵の剣が入る。
「ぐはっ!?」
隊長が着込んでいた胴鎧は強引に斬り裂かれ、血が流れ出していた。
「隊長!?」
「戦ってる最中に気を散らすな!!」
見習い女騎士はハッとした。
すでにダスト兵は剣を振り上げていたのだ。
今からでは回避は不可能、剣でガードすれば何とかなると思った。
「えっ?」
剣が砕ける音というのを初めて聞いた。
昔は新品の剣がいくらでも手に入った弊害か、王国軍の剣はろくにメンテナンスもされていないし、新たな剣も補充されないので壊れかけの剣が多いのだ。
小さなヒビが入っていても、それを使うしかない。
幸か不幸か、ギリギリでダスト兵の剣は切っ先が鼻先を掠めただけで済んだ。
しかし、ショックで腰を抜かして動けない。
再び振り上げられたダスト兵の剣。
その一撃で死ぬのだろうと覚悟した。
「ま、待ちなさぁ~い!!」
遠くから男の大声が聞こえてきたのだ。
見習い女騎士はホッとした。
「援軍……助かっ――ゲェッ!? シュレド大臣でありますか!?」
そこには王国でも有名なシュレド大臣が、なぜか貧相な格好でフライパンを持って走ってきているのだ。
しかも走る速度は中途半端に遅く、ダスト兵の攻撃には間に合わない。
見習い女騎士は思った。
こんな中途半端に気になる展開で死ぬのは嫌だと。
「せめて双子の妹に誇れるような死に様がよかったでありますー!!」
「死に様なんて誇らない方がいいぞ」
シュレド大臣とは別の声が聞こえた。
その瞬間、飛んできた黒い何かが弾けて、ダスト兵の片腕が吹き飛んでいたのだ。
唖然としながらも、その声の方を見ると遠くにいたのは――。
「ご、ゴミ王子がなんで生きて……!?」
「ゴミ王子か。久々に聞くが……良い言葉だな!!」
全裸のノアクルがドヤ顔をしていた。





