海賊船、出航!
「必要な物資、積み込みを急ぐにゃー! お優雅なお貴族様のお観光じゃないから、今回は最低限でいいにゃ!」
『Aye-aye, cap'n!(がってん、船長!)』
「ちんたら動く奴は土好き野郎ですにゃ! ブーツで汚いケツを蹴り上げてやるにゃ! 覚悟しろにゃ!」
『Yarrrrrrrrrrrr!!!!』
ジーニャスが船長っぽく檄を飛ばして、海賊たちに指示している珍しい光景を見ている気がする。
ここは海上都市ノアのドックで、海賊船ゴールデン・リンクスがある場所だ。
どうしてこうなっているかと言うと――
「の、のぉノアクル……。本当に海賊船一隻でアルケイン王国に攻め込むつもりなんじゃな……?」
「ふっ、心配するなアスピ! なんとかなるだろう!」
「いやいやいや!?」
海上都市ノアの修理時間的に間に合わないとなって、ではどうやってアルケイン王国へ向かうか考えた。
その結果、単体で動けるゴールデン・リンクスに乗っていくことにしたのだ。
アスピには反対されたが、これしか手段が無いので仕方がない。
速力的には二日程度で到着するらしい。
ちなみにジーニャスが地上に召喚して置きっぱなしだったのだが、人力で運んで海まで戻した。
かなり苦労したらしいのでアレは禁止技となってしまった。
「さて、あとは誰が向かうかだが……」
亀の歩みだが、その場を逃げだそうとしていたアスピを捕まえた。
所狭しと木箱や袋が並んでいる隙間に逃げようとも、大体の行動パターンは先読みしている。
「まずは大地の加護でアスピが必要だな」
「わ、ワシ本体がいなくとも、先に大地の加護を与えておけば効果は出るんじゃが!?」
「お前がいた方が強力だろ。加護確定な」
「今回は猛烈に嫌な予感しかしないのじゃが~!?」
アスピの抗議はスルーした。
「それに船を動かす海賊たちと、指示するジーニャスもいなければ始まらないな」
『Yo-ho-ho!(ヨーホーホー!)』
海賊特有の笑い声をあげるジーニャスたちはノリノリらしい。
ジタバタしている亀と大違いだ。
「次に純粋に戦力が欲しいからスパルタクス、レティアリウス、トラキアだな」
スパルタクスとレティアリウスはコクリと頷いたのだが、トラキアは顔面蒼白になっていた。
「い、いやいや、兄弟! オレ様は戦力としてはそんなに強くはないぜ!?」
「対人能力なら口も含めて立ち回りが上手いだろう」
「そ、それでも他国の船を沈めちまうようなアルケイン王国相手はちょっと……」
「トラキア、僕と今から修業」
「そうね、お仕置きも兼ねて船の上で二日間みっちりとしごいてあげるわ」
「いぃぃいいい~~~~!?」
体格の良い獣人二人に左右からガッシリと掴まれて、トラキアは強制参加となった。
アスピが似たもの同士と言わんばかりに同情の目を向けているのが面白い。
「料理……だけじゃなくて、戦力としても期待できるダイギンジョーにも来て欲しいな」
「あっしは、お前さんが求めるのならどこにでも馳せ参じますぜ。それにフランシスとトレジャンのことも気になりまさぁ……」
ダイギンジョーは背負っている巨大な戦闘用包丁を取り出して、それを懐かしそうに眺めていた。
たぶん過去のフランシス海賊団のことを思い出しているのだろう。
「船の規模的に少数精鋭で行くのならあと1~2人だが……ローズ、お前はどうする?」
「わたくしは……」
一歩引いた位置で逡巡するローズは珍しい。
普段のローズなら戦闘能力的に遠慮して後方待機なのだが、今回の件は感情が揺れ動いてしまうような状況なのだ。
「ご、護身術くらいの魔術は使えます! ピュグさんに触媒となるカチューシャを直していただいたので! だから――」
アルケイン王国時代、ローズの魔術は見せてもらったことがある。
お世辞にも威力が高いとは言えない。
一般人相手なら通用するかもしれないが、戦闘を本職とするような相手には逆上させるだけで危険な部類だ。
「ローズ……」
「は、はい……やはりわたくしが殿下について行くのは無理ですよね……」
「俺が守ってやる、なるべく離れるな」
「……はい!」
ローズはなぜか頬を赤らめ、とても嬉しそうにしている。
「あとスパルタクスや、レティアリウス、ダイギンジョーも守ってくれるから離れるな」
「あ、はい」
ローズはなぜか真顔になってしまった。
わけがわからない。
「オレ様も頼ってくれていいぜ!!」
「トラキアさんは……。レティアリウスさんから近付かない方がいいと言われたので……」
因果応報というやつだろう。
ガックリと肩を落とすトラキアは放っておこう。
「さて、ピュグなど残りのメンバーは海上都市ノアに残って、修理を担当してもらう」
「わかったですます! 必ず修理を間に合わせて、ノアクルさん様と合流するですます!」
「ふはは! さすがに修理が十日の予定では物理的に間に合わないだろう! だが、その心意気は良し!」
「あ、そうだ。これをお持ちくださいですます」
「なんだこれは?」
「秘密兵器ですます」
ピュグから渡されたのは、黒い金属が編み込まれたベストやベルトが一体となった不思議な物だ。
やたらとポケットがついていて、何かそこに入っているらしい。
「ノアクル様ー! 出港準備が整いましたにゃー!!」
「どうやら説明している時間はなさそうなので、このメモを船内で読んでくださいですます」
「わかった、ありがとう。ピュグ。有効利用させてもらう」
手を振る居残り組と、急いで船に乗り込む出航組。
海上都市ノアに固定されていたゴールデン・リンクスが解き放たれ、大海原を進んでいくのであった。





