ディーロランド王国の伝令
主要なメンバーが海上都市ノアの艦橋に集まっていた。
スパルタクスとダイギンジョーも水着だが、そこは気にしないでおこう。
「ノアクル様、可及的速やかにお伝えしたいことがあって、参上仕りましてございます!!」
「たしか見た顔だな……。ディーロランド王国の牢屋で助けに来てくれた兵か? そんなに畏まった話し方をしないでいいぞ」
「ははっ!」
ヴァンダイクが言うには、彼は船で外からやってきたらしい。
「この島は魔術による通信も届かず、直接向かうしかなく……ノアクル様と面識がある私が選ばれました!」
「ディロスリヴの奴の気配が消えて、周囲の大渦もなくなったから来ることができたのか」
「でぃ、ディロスリヴの奴……?」
つい神聖な海神サマを呼び捨てにしてしまったが、実際に会って面倒くさい性格の奴だったから仕方がない。
もうちょっとフレンドリーだったら違っただろうに。
「気にするな。……して、何があったのか説明してくれ」
「ははっ! 本日、魔術通信によってアルケイン王から宣言がされました!」
「ふんっ、息子にすら顔を見せない父上が珍しいな」
「内容は『七日後に世界を滅ぼす』というものでした……」
「何かの間違いではないのか? さすがにあの父上でも、そこまで馬鹿なマネはしないだろう。それに実質的に国を動かしている大臣などが止めるはずだ。聡明なジウスも……いや、待てよ」
少し前のことを思い出していた。
トレジャンを連れ去ったムルは、アルケイン王国の旗艦である戦艦エデンに乗ったのだ。
戦艦エデンを駆っていたのはジウスドラの可能性が高い。
「何をしようとしているんだ……ジウス……。それにアルケイン王国に何が起こっている……」
「わたくしやノアクル様が離れて以来、アルケイン王国からの情報が少なすぎて把握できませんわ……」
ローズがこう言うのなら、現状のアルケイン王国がわかる人間はいないだろう。
あれから結構な時間が経ったが、国内がどうなっているかわからない。
「アルケイン王国……。トレジャンが連れ去られ、お父さんがいるかもしれない場所……」
ジーニャスがポツリと呟いた。
色々と思うところがあるのだろう。
「さて、どうしたものか。……そもそもの話、ただの与太話かもしれない。頭のおかしくなった父上が、独断で発言したという可能性もあるだろう?」
「それがこちらに向かっている最中に、とある報告がきたのです」
「とある報告?」
何か嫌な予感しかしない。
「アルケイン王国へ確認のために向かった他国の船が、撃沈されたとのことです」
「おいおい、本気かよ。国際問題も気にしないってのか」
そうなると冗談ではなく、七日後に世界を滅ぼそうとしているのだろう。
実際に滅ぼせるかはともかく、ろくなことを考えていないのは確かだ。
「だが、堕落した大臣連中はともかく、さすがに宰相であるアルヴァさんが止めに入るだろう」
「そ、それがないということは……」
発言したことを『しまった』と思った。
疑問は答えへと帰結してしてしまう。
それが頭の良いローズなら尚更だ。
「お父様が止められない状況……まさか……もう……」
「い、いや、ローズ。まだそうと決まったわけじゃないだろう?」
「宰相の娘です。覚悟は……できておりましたわ……」
場の空気が一気に重くなってしまった。
スパルタクスなんかは、意味がわからなくても表情から察してアワアワしてしまっている。
「ああ、もう面倒くさいな。ローズ、我慢せずに確かめに行きたいと言え」
「で、ですが……他国の船が攻撃されるような危険な状態で……」
「俺は別に父親であるアルケイン王の野郎なんて気にしてないが、アルヴァさんには小さい頃からお世話になってるからな。他の奴らの意見はどうだ?」
かなり大きな情勢が絡んでいるかもしれないので、数瞬の間があった。
最初に口を開いたのはジーニャスだ。
「わ、私は……お父さん……いえ、海賊王フランシスの安否を海賊団の船長として確かめたいです! ……にゃ!」
一瞬、語尾を忘れていたようだ。
次に意見を言ってきたのはアスピだ。
「ホッホッホ、それにムルもアルケイン王国にいる可能性が高いしのぉ」
「たしかにジウスとの関係も訊きたいところだな。スパルタクスはどうする?」
そう言って視線を向けると、無駄に力強い返事が返ってきた。
「僕、馬鹿だから分からない! だけど、ローズ様が悲しそうな顔をしてるのは嫌だ!」
「同感だ。ピュグはどうだ?」
ドワーフの少女はいつもと変わらないテンションで言い放つ。
「採掘した闇鉱石で装備を作っているので、ぜひ実地テストをしたいですます!」
「――だ、そうだ。ローズ、お前が我慢しようとしても無視して行ってやる。無駄な抵抗は諦めろ」
「で、殿下……みんな……」
泣いてしまったローズの涙を拭ってやると、大きな声で宣言した。
「これより海上都市ノアは、アルケイン王国へ向かう! 出航の準備だ!」
『おー!!』
全員の心が一致した、気持ちの良い声が船内に響き渡る。
いや、一人だけツッコミを入れるのを待っていたようだ。
「だから、まだエンジンが修理できてないってんだ!! バカヤロウ共が!!」
「あ……」
全員の視線がヴァンダイクに向いて固まってしまった。
次話から二日に一回の投稿予定です。





