海が舞台なのにまだなかった水着回
「輝く太陽、白い砂浜、青い海……うーん、平和だなぁ」
ノアクルはビーチチェアに背を深く預けながら、パラソルの日陰にいた。
ここは死者の島――という物騒な名前だが、場所によってはプライベートビーチのようになっていた。
無人島なので誰もいない中、このように楽しめるのは贅沢なことなのではないだろうか。
「……というか平和すぎて暇だな」
「まぁ、オレたちにはやることがないですからねぇ」
隣にいたトラキアが海の方から目を離さず、上の空で応えてきた。
「というか、何もやらせてもらえない……」
現在、海上都市ノアは大魔導エンジンである二基の〝ゴッドスレイヤー〟が大破してしまって動けない状態だ。
スキル【リサイクル】である程度直したのだが、それでも高度な作りとなっていて丁寧な補修と調整をしないと再稼働は出来ない。
十日ほどはかかる見通しだ。
その待っている間に死者の島にあった豊富な地下資源を採掘しているのだが、手伝おうとすると『戦闘に参加した方たちのお手を煩わせるわけにはいかない』と断られてしまったのだ。
実際、そちらは海上都市ノアで普段の別の営みをしている者が、臨時で採掘作業員として割り当てられたりしていて、人員は間に合っているようだ。
ローズから臨時ボーナスも出るらしい。
トレジャン海賊団も、たぶん連れ去られた船長を追ってどこかへ行ってしまったし、本当に戦闘班は何もすることがない。
敢えて言うなら休むことが仕事だろうか。
「はぁ……暇だ……。ゴミが恋しい」
「ここは無人島だから、ゴミの一つもありゃしませんもんねぇ」
「ゴミだらけだったアルケイン王国が懐かしい。アイラブゴミ」
トラキアが呆れた表情で見てきた。
「いやいや、兄弟。目の前に広がるパラダイスを見ろよ……!」
指差してきた方には、水着の女性陣がキャッキャと海で遊んでいるだけだ。
「アレがどうかしたのか」
「かぁ~っ! わかってねぇなぁ! まずはジーニャス! 普段は海賊服のコートを着込んでいるせいか、ギャップで水着になった姿はたまらんもんがあるぜ!? 胸のサイズはまだまだだが、意外と布面積が少ないビキニで攻めてきてますぜ!!」
「モフモフタイプ獣人のお前が興奮しすぎだ……」
言われたのでジーニャスの方を見てみたが、解説されたままなので特筆すべき点は無い。
目が合ってしまい、恥ずかしそうにされたくらいだろうか。
たぶん異性から水着を見られることを嫌うのだろう。
気を遣って見ないようにしておこう。
「お次はローズ様! ワンピースタイプの水着に、アクセントで薔薇の花! 浮き輪に乗って可愛さと可憐さが同居する奇跡! 普段は見せない無邪気に遊ぶ女児笑顔も満点でさぁ!!」
「お前、ここが無人島じゃなかったら衛兵に捕まってるぞ……」
とは言え、ローズも息抜きが出来ているのなら幸いなことだ。
浮き輪と女児水着のことをネタにしてやりたいが、下手に機嫌を損ねると座学が溜まっていることを思い出されてしまう。
ここは楽しく遊んでいてもらおう。
「さて、ここで来ました海上都市ノアの美女レースの新進気鋭、ピュグ・アーマードワーフ!! 下半身はパレオで隠れていますが、何せ超ナイスバディ……!! 眼帯ビキニの胸が溢れんばかりです!! 昨今はセクシーさは悪とされていますが、やっぱりオレ様は大きいおっぱいが好きだー!!」
「……ヴァンダイクに聞かれたらハンマーで頭をかち割られるぞ」
たしかに胸のサイズが他の女性陣と比べて大きいので、着る物が大変そうだと思ってしまった。
この前は水着もスキル【リサイクル】で作ってやろうとしたのだが、なぜか大慌てで断られてしまった。
きっと自分で作って水中用装備の検証でもしたかったのだろう。
「最後はレティアリウスの姉御だぁー!! その凜々しい長身のお姿に、なぜか可愛らしいフリルの水着を着ている……!! いい歳して内に秘めたる女児感!! これもギャップがたまらねぇー!! 水に濡れた毛並みもセクシーすぎて、これはもう全獣人の雄共が強制的に繁殖期の興奮状態になっちまうぜぇー!!」
「俺は獣人のことはあまりよく知らないが、物凄いセクハラ発言では?」
レティアリウスの方に視線を向けると、気が付いたのか流し目で笑顔を見せられた。
たしかに人間視点で見ても、普遍的な美を感じてしまう。
それはそれとして、獣人の雄たちが興奮するとパワーが有り余って手が付けられなくなるので、それとなくレティアリウスに注意をしておこう。
「はぁ~……。ここにムルちゃんがいればなぁ……」
「ん? ムルはいつも水着みたいなものだろう。何が楽しいんだ?」
「ばっきゃろう、兄弟!! 普段着ているビキニっぽいものと、海での水着は別腹だろうがよぉ!! 想像してみろよ!! あのムルが色んな水着を着ている姿を!!」
「う……む?」
ビキニ、ワンピース、パレオ、チューブトップ、フリル、ワンショルダー、紐ビキニ。
言われたとおり想像してみたが、着ている物が違うな、くらいの感想となった。
むしろ見た目的に寒そうなときもあるので、着込んだ姿を想像したいくらいだ。
「ノアクル様、そんなに騒いでどうしたんですかにゃ?」
騒ぎを聞きつけて女性陣がやってきてしまった。
なぜかこちらの身体をチラチラ見ているような視線を感じるが気のせいだろう。
ただのブーメランパンツだ。
「も、もしかして私ちゃんたちの水着をエッチな目で見ていた……ですますか!?」
「なぜちょっと嬉しそうなのだ。騒いでいたのはトラキアで、俺は早くゴミをイジりたいと思っていた」
「……まぁ殿下ならそう言うかと」
ローズの落胆に、ジーニャスとピュグも頷いて同意していた。
ゴミの大事さがわかってもらえて非常に嬉しい。
「それはそれとしてトラキア、あとで稽古に付き合ってもらうわよ」
そう言って笑顔を見せてきたレティアリウスに対して、トラキアは大はしゃぎだ。
「えっ、オレをご指名で!! 喜んで!! 水着だと嬉し――」
「全部聞こえてたからサンドバッグとしてね」
「……」
さよならトラキア。
お前のことは忘れる。
「お、おいテメェら!! 大変なことが起きやがったぞ!!」
そんなとき、海上都市ノアに残っていたはずのヴァンダイクが大慌てでやってきた。
「どうしたんだ?」
「アルケイン王国が世界に向けて、七日後に世界を滅ぼすと宣言しやがった!!」
「……は?」





