コミカライズ記念幕間1
それはいつものようにノアクルが、ローズの座学から逃げているときだった。
「ん? なんか珍しい物が流れ着いてるな」
海上都市ノアの端っこの部分に、見たことがない物が漂流していたのだ。
頑丈そうな金属の箱だが、ひしゃげていて開けることができない。
表面には何か古代文字が書かれているようだ。
「なんて書いてあるんだ、これ。やたら格好良いデザインだけど……」
「これは古代文字で〝ゼノン〟と書いてあるのぉ」
「うお、いつの間にいたんだ。アスピ」
アスピが覗き込んできていることに気が付いていなかった。
驚きながらも、そういえばアスピは古代文明に詳しかったと思い出す。
「それで〝ゼノン〟ってなんだ?」
「なんじゃったかのぉ……。さすがに昔過ぎると忘れてることが多いのじゃ……」
「それじゃあ、さっそく【リサイクル】だな!」
「決断が早い……。まぁ、危険なものではなかった気はするがのぉ」
古代技術で作られた箱は元の姿を取り戻していく。
どうやら金属製の軍用ハードケースのようなものらしい。
中を開けてみると、そこには――。
「水浸しになった本か……?」
「このままでは読めないのじゃ」
「【リサイクル】で何とかなるか……?」
勢い余って紙の原料に戻さないように注意しつつ、うまく読める形に調整をしていく。
その過程で水分も分離させる。
時間を巻き戻したかのように、カラフルな表紙の珍しい本ができた。
「随分と綺麗で迫力のある絵だな。画集か?」
「ほう……これは漫画本じゃな」
「漫画本?」
「古代文明にあった漫画という文化が収められた重要文化財じゃよ」
「へぇ……。それじゃあ、この横にある堅い板は……」
「たぶん【リサイクル】したら、漫画が読める端末になりそうじゃな」
なるほどと思いながら、その漫画という本を手に取ってめくってみる。
綺麗で迫力のある絵が並んでいるのだが、古代文字だったり、絵が分断されて描かれていたりしてよくわからない。
「読み方があるんじゃよ。大体はこっちのコマから、こっちのコマへ読んでいって、そして次のページへ……」
「なるほど。古代文字はわからないが、もうすでに面白いな」
「うーむ……。ワシが翻訳してやってもよいが、読み聞かせというのも……」
「確かにアスピの声で、この可愛い人物絵が喋るとなるときついな……」
「キツいとはなんじゃ!! 頑張れば美少女ボイスもいけるぞい!」
そんなやり取りをしていると、ひとりの人物が近付いてきた。
「あ、あの、ちょっと良いですか?」
「お前は確か……マリレーン島で乗ってきたミキチか?」
「はい、名前を覚えてくださっていたんですね。ファ・ミキチです」
話しかけてきた三十代男性――ファ・ミキチは非常に興奮していた。
種族は人間で中肉中背、頭にバンダナを巻いているのが特徴だ。
彼は海上都市ノアの生活にもすぐ慣れて、仕事も早くて丁寧なので良く覚えている。
「それ漫画ですよね!?」
「あ、ああ」
「すごい!! こんな完璧な形で現存してるのは珍しい!! ああ、今日は生まれてこの方、最高の日だ……。しかも伝説のゼノンだなんて……」
ミキチのあまりの食い付きっぷりに気圧されてしまう。
「ず、随分と詳しいんだな……」
「はい! 漫画趣味がこうじて研究だけでなく、自分でも模写してしまうくらいですから!! 特にバトル物が好きなんですよ!!」
「そ、そうなのか」
「ああ、なんて美しい絵なんだ……今なら死ねる……」
ついアスピにボソッと耳打ちしてしまう。
「何かヤバい奴が来たぞ……」
「ワシはどこぞのゴミ好きで慣れているからのぉ」
「コイツと同レベルの奴がいるのか……世の中広いな……」
そんなやり取りをしていると、ミキチがズイッと顔を近づけてきた。
「うおっ!?」
「ぜひ、この素晴らしい漫画を海上都市ノアに布教したいです!!」
「い、いや、でも古代文字は読めないしな……」
「僕は古代文字を翻訳できるので、それをセリフのところに写植しましょう!!」
「しゃ、写植……? よくわからないが、海の上の娯楽が増えれば助かるが……」
「じゃあ、今からやります! 寝ずにやります!!」
「いや、睡眠は取った方が――」
「楽しみにしていてください!!」
ミキチはおかしなテンションで漫画を持って行ってしまったのであった。
***
次の日――。
「で、できましたよ……!! 全部!!」
「あの量の本を全部翻訳したのか……」
「ついでに端末の中に入っていた電子書籍も、アスピさんに協力してもらってすべてやっておきました!!」
「こわ……。趣味に夢中になりすぎだろ……」
「おま言うじゃ」
疲れ果てたアスピから何か言われた気がする。
そんなことはスルーして、さっそく漫画とやらを読んでみることにした。
「まぁ、頑張ってもらったところ悪いが、古代文明のものを見ても俺たちが面白いかは微妙なところだろうな。どれどれ……」
最初に渡されたのは、崩壊した古代文明の世界で戦う拳法男だった。
文化的なものはわからないが、一つ理解できたことがある。
「こ、この漢……とてつもなく強い……!! 指先一つでダウンだと!?」
「そうでしょう、そうでしょう! バトル漫画の金字塔と言われています!」
「この不思議な力は気功なのか……? 戦いの参考になるな……」
「次のオススメはこれです!」
出された漫画は、金属の筒を構えるハンサムな男だ。
「これは……小型の魔大砲使いか? それにしても何という魔大砲の扱いの上手さだ……」
「夜の街を守るヒーロー! 男の美学を感じますよ!」
「今度困ったら掲示板にXYZと書き込むか……」
「最後はこれです!」
筋骨隆々な逞しい男二人がにらみ合っている表紙だ。
「か、神々と戦う人間だと!? 何か親近感が持てるな……」
「個性豊かな神と英雄たちが、人類存亡をかけた終末戦争――つまり一対一勝負を闘っていくんですよ! 僕の一番のお気に入りです!」
「熱い……ひたすらに熱いな……。俺も選手……いや、観客としてでもその場にいたいくらいだ……」
古代文明の漫画、ここまで洗練された芸術があったのかと感心してしまう。
「ですが、悲しいことに古代文明は滅びてしまい、漫画という文化は消滅してしまったのです……。もう描ける人がいない……」
「確かに、これを普通の画家が描くのは難しそうだ。よほど漫画に精通しているものでなければ――」
そこでふと気が付いた。
漫画に精通している者が目の前にいるではないか。
「ミキチが新しい漫画を描けばいいんじゃないか?」
「え!?」
「これだけ詳しいし、模写もしているらしいじゃないか。それなら漫画を描く人として第一歩を踏み出すのも良いだろう」
「そうじゃのぉ、実際に横で見ていても見事なもんじゃった」
「そういうことで、これから海上都市ノアの漫画を描く人としての称号を与える。画家ならぬ……漫画家というところか? それじゃあ、ミキチ頼んだぞ」
「えぇ~!?」
ノアクルに強引に決められてしまったが、これからミキチの漫画家人生が始まるのであった。
というわけで最強イカダ国家がコミカライズされることになりました!
漫画を担当してくださるのはフミキチ先生です!
新人さんなのに総合的な漫画力が高い……!!
開始日は2月14日で、配信場所は漫画サイト『WEBゼノン編集部』となっております。
下の方にあるリンクからも飛べるようになっています。
それと、ちょっと際どいネタを幕間1に入れたのですが、コアミックス(ゼノン)さんとフミキチさんのチェック済みです。ありがとうございます!(修正される前提で書いたのにマジで全部通るとは思わなかった。寛容すぎる……!)
ちなみに次の幕間2(配信日当日に投稿予定)のムル***シーンのアイディアはフミキチさんから頂きました。
なかなかの性癖力を持っていると思うのでご期待下さい。
そして小説本編の続きも投稿予定です。





