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ゴミ流しの刑

というわけで新連載です。

しばらくは毎日投稿の予定です。

「〝完璧〟とは何だと思う?」

「はっ、ノアクル・ズィーガ・アルケイン殿下! それはこのアルケイン王国のことです!」


 殿下と呼ばれ慣れていない金髪碧眼の青年――ノアクルはウンザリしたような顔をして、ガラクタ置き場までやってきている親衛隊の隊長へ言った。


「ご苦労様。こんなところまでやってきて俺を呼びに来たこともだが、この国のことを〝完璧〟と言い切るお熱い忠誠心にも……だ」


 隊長の後ろにいる兵士たちがヒソヒソと話をしているのが聞こえる。


「何でオレたち、こんな街外れのガラクタ置き場まで来てるんだ?」

「そりゃアルケイン王国の第一王子様を呼びにだろ」

「そうじゃなくて、なんでその殿下がこんなガラクタ置き場に……」

「お前、知らないのかよ。殿下はちょっとお可哀想な趣味をしていてな……」


 普通なら一国の王子に向かってこんな失礼な話が聞こえたら処刑されそうなものだが、ノアクルは気にしない。

 ガラクタ置き場から拾ったものを組み合わせて、いつものようにヘンテコな発明品を作りだしていた。

 それを見せながら、隊長へ誇らしげに言う。


「この国の者は〝完璧〟を求めるが故に、気に入らないモノをゴミとしてすぐに捨ててしまう。資源溢れる大国だからこその〝完璧〟というものだ」

「はい、新しいものをいくらでも作れますから」

「〝完璧〟を求めるのは当然だ。しかし、このゴミのように一見使えないように見えたり、欠点があったりしても、それをどうにかして良く出来たら……俺はそちらを〝完璧〟と称したいね」


 ノアクルのゴミから作りだした発明品を見て、隊長は質問をした。


「殿下……それは……?」

「おぉ、よくぞ聞いてくれた! これは捨てられていたヘルメットと(ほうき)を組み合わせた物だ!」

「は? それはいったい何に使うので……?」

「見てろよ……視線を向けるだけで、なんと掃除ができてしまうという優れものだ!」


 箒付きヘルメットの発明品を被ったノアクルが首を振る。

 すると目線の高さにある、砂ぼこりで汚れたガラクタがすぐに綺麗になった。


「どうだ、この素晴らし……ゴホッゴホッ! 失敗した! 顔面に砂ぼこりが直撃するな! まぁいい、失敗は成功のもとだ!」


 兵士たちはそれを見て、またいつものかと落胆したり、嘲笑ったりしていた。


「変人だな」

「国を体現するような完璧さを持つ弟のジウスドラ殿下とは大違いだ」

「まったくだ。呪われたスキル持ちで、頭がおかしくなったと国民全員から笑われているしな……」

「でも、それもたぶん今日で……」


 どういうことだ? とノアクルは疑問に思ったが、次の隊長の言葉で何となく察した。


「シュレド大臣と国民が裁判広場でお待ちです」




 ***




 裁判広場――それは以前、魔女裁判などの悪しき風習を行っていた忌まわしい場所である。

 現在は国家に仇なす大罪人などを裁くときに、国民に公開しながら判決を下す政治的パフォーマンスの場となっている。

 その石造りの不気味な広場で、ノアクルは両手をロープで縛られ、無様な姿で立っていた。


「ノアクル・ズィーガ・アルケイン、貴方をゴミ流し刑で追放することに決定しましたよ」


 身なりをきちんと整えている、余裕タップリのシュレド大臣がそう言った。

 四十代の若さで大臣になったエリートイケメンなので、女性の観衆たちがキャーキャーと黄色い声をあげている。


「ちょっと待て、いきなりの仕打ちすぎてわけがわからないぞ!? どうして俺が……」


 対して、ノアクルが喋ると国民たちは大ブーイングだ。

 ゴミを嫌う国民性から、よくない印象を持たれているらしい。


「どうして? 決まっているでしょう。貴方が呪われた子――スキル【リサイクル】を授かって産まれたからですよ。不吉の象徴である貴方が、今まで第一王子だという理由で生かされてきた方が不思議だ」


 スキルとは、この世界で一部の者が得られる特殊なものである。

 ノアクルは唯一無二とされる不思議なスキル【リサイクル】を授かったのだが、それはアルケイン王国で不吉の象徴として名前だけ伝わっていたものだった。

 ゆえに幼少期から『呪われた子』『不吉の象徴』『無駄スキル持ち』と影ながら蔑称で呼ばれていたのだ。


「なっ!? 言いつけを守って一回も今までスキルを使ってないだろう!?」

「それがどうかしましたか? そんなことは当たり前でしょう? 処刑の理由は、貴方がゴミを大事に扱うという異常行動を取り続けたからですよ」

「ゴミゴミっていうけどなぁ、まだ使える物を捨てまくる方がどうかしているぞ!」

「ここは無限に資源が湧いてくる、豊かで完璧な国です。それを冒涜するようなゴミを大事にするという行為は許されざるものですよ?」

「い、意味がわからない! 嫌われはしても、たったそれだけの理由で――」


 シュレド大臣はスッと顔を寄せてきて、ノアクルにしか聞こえない声で呟いた。


「ようするにお前はゴミで……ジャマだから消えて頂くのですよ」

「シュレド、貴様ぁ!!」


 ニコニコと笑顔の大臣は一歩下がり、ノアクルの弟であるジウスドラが登場した。

 彼は何も言わずに、冷酷な視線で見下してきている。

 それを代弁するかのようにシュレド大臣が話す。


「クックック……。本当はギロチンで斬首でもいいと思ったのですが、第二王子――いえ、もうすぐ第一王子になられる貴方の弟であるジウスドラ殿下がねぇ……」

「ああ。兄上には苦しんで死んでもらう。棄てられ王子として、それに相応しいゴミだらけの領土を与え、そこに追放してやろう」

「ジウス、お前……!?」

「では、ご機嫌よう。兄上、お達者で……」




 ノアクルは海岸まで移動させられ、小さなイカダの上に縛り上げられていた。

 そして、ゴミ流しの刑として海へ流された。

 一応、バカバカしい表向きの口実としては処刑というよりも追放らしい。

 イカダと、この辺の海域を領土として与えると民衆の前で公言していた。

 もっとも、海の上のイカダで縛られて生きられるはずもないので、すぐにノアクルが死亡して領土も返還されるということだろう。

 民衆は大笑いだった。

 道化の大会であれば優勝者だろう。

 イカダに揺られながら、そんなことを苦々しく思い出していた。


「領土……土もないのに領土か……。領海か? ああ、くそ。もうちょっと勉強でもしておけばよかった……ははは……」


 見渡す限りの海、もう陸地は見えない。

 ロープで縛られていては、どう足掻いても死しかない状況で現実逃避をするしかない。


「……チクショウ! アルケイン王国なんて滅んじまえ!」


 だだっ広い海にノアクルの罵声だけが響き渡る。


「クソッ! クソッ! ……死ぬのか、俺」


 一通り悪態を吐いたあと、気が付いたらもう陸は見えない。

 後戻り出来ない死の実感が湧いてくる。

 そもそも、運良く陸に流れ着いても、アルケイン王国が敵なのだから見つかって再びゴミ流しの系にされるだけだろう。

 どうしようもない。


「どっちにしろ、このまま死ぬんだろうなぁ……」


 頭がおかしくなりそうなので、自ら呟いて気を保つ。

 ジリジリと照りつける太陽が身体を焼くようだ。

 自然と喉が渇いてくる。


「何か飲まないと……高級なワインとかじゃなくていいから……水を……」


 イカダの上には何もない。

 あるのは辺り一面の、目眩がするような大海原だけだ。

 ギラギラと太陽が反射していて、なんとも落ち着かない。

 それでも何か行動しなければという衝動が湧く。

 ノアクルは身体を器用に動かして、物は試しと海水を一口飲んでみた。


「うっ、知識では知っていたが、これで喉の渇きを癒やすのは無理そうだな……」


 すぐにペッと吐き出すも、海特有のニオイとしょっぱさが口の中に残って喉の渇きを加速させた。

 その間にも太陽の輝きが降り注いで、汗が水分を奪っていく。

 このままだと脱水症状で死を待つだけだろう。

 たった一人が国と戦えるわけもないし、意地汚く生き延びることもできない。

 もう諦めて楽になってもいいだろう。


「このままゴミ扱いされて死ぬのか……。それも面白いか……?」


 いや、面白くはない――と心が反論した。

 ゴミはゴミなりの矜持があるのだ。

 それを信じるノアクルが、自身で矜持を示さずしてなんとするか。


「そうだ、俺はまだ生きている。それなら――俺のように使えるゴミ(・・・・・)は大切にしてやらないとな……!」


 渇いた唇で笑みを浮かべてしまう。

 ひび割れていて少し痛い。


「どうせ死ぬのなら、禁じられていたスキル【リサイクル】を使ってから死ぬか……」


 正直、どんなスキルかもわからない。

 この世界では一部の人間が生まれつきスキルを持っているのだが、大体は前例があるスキルで調べられるのだ。

 しかし、このスキル【リサイクル】というのは不自然なほどに情報が欠落していて、不吉だということしか聞いたことがない。


「リサイクルって名前的に、物に使う感じか……? それなら……」


 まずは手を縛っている縄に意識を集中させて、スキルを発動させてみることにした。

 一時期、魔術を習っていたこともあるので、発動のさせ方は何となく似たようなものだろうと試す。

 ちなみに魔術は身につかなかった。


「スキル【リサイクル】……!」


 フッと手首の圧迫感がなくなった。


「えっ?」


 よく見ると、信じられないことに――縄が植物の繊維に戻っていた。

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漫画:フミキチ先生
原作:タック


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