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シャイルズ到着

 シャイルズに着いたのは既に夕方で、こんな時間に押しかけたら迷惑だから町の宿屋に一泊しようと提案したが、護衛に一蹴されてしまった。


 それなら仕事は瘴気の浄化なので、神殿にお世話になろうと提案したら、それはしぶしぶ受け入れてもらえた。


「そもそも宿代もちゃんと費用としてもらっているから、わざわざ神殿に行かなくてもいいんだけどね。神殿は手間がかからない、宿にはお金が落ちる、いいことずくめだと思うんだけど」

「私たちも、領主の館かそれに準ずるところに連れて行くように言われていますので。神殿は、準ずるところに値すると思われるので、今日は仕方なくお連れします。ですが依頼は領主から出ています。明日には必ず領主の館にお連れします」


 面倒くさいという言葉はぐっと飲みこんだ。


 神殿にも迷惑かとは思ったが、神殿は慈善事業も行っていて、簡素な宿と食事は誰にでも用意してくれる。


 温厚そうな神官長はむしろ、


「こちらに顔を出してくれて助かりました」


 とほっとしたような笑みを浮かべてくれた。勇者と聖女が着いてきたことには驚いていたが、さすが神官長、実質仕事をするのは私だとちゃんとわかってくれて、私を中心に話をしてくれた。


 もちろん、お気持ちとして高級な宿に宿泊するくらいのお布施は包んである。余った分は次の困った旅人に使われるだろう。


 夕食を共にしながら、シャイルズの瘴気の現状について話してくれた。


「魔王の復活は定期的です。魔王の発生前後数年は、瘴気が増加するのはわかっていることです。神殿もそれに合わせて、神官を確保していますから、大変と言ってもこなせないことはないのです。ですが時間はかかりますし、後回しにしたところはやはり被害も出ます。ところがそれに耐えきれなかったご領主が城に救援要請を出してしまわれて」


 神官長は正直だった。


「もともと王都の神官も多いわけではありません。派遣をそれほど期待はしていなかったでしょうから、お喜びにはなるでしょうが、さて」


 神官長は困ったようにレイとアヤカのほうを見た。


「勇者と聖女が同行していたと知ったら、浮かれてなにやら問題を起こしかねません」

「黙っていれば大丈夫ではないですか?」


 写真やテレビがあるわけでもないこの世界では、直接見たことがない限り目の前の人が勇者かどうかわかりはしないだろう。


「いえ、そういうわけにはいかないでしょうな」


 そう言って神官長が持ってきてもらったものを見ると、それは絵だった。それも精巧な奴だ。おそらく印刷されて出回っているのだろう。こういうものがあるとは知らなかった。


「勇者と聖女の絵姿です。こうしてご本人と比較して見ると、なかなかよく描けていますな」

「ほんとだ。これ、どこで売ってるんでしょう」


 当然、勇者のシリーズがあれば全部制覇する勢いで私は食いついた。


「コトネ姉さん、今はそんな場合じゃありませんよ」

「はっ、そうだった」


 アヤカに叱られたが、それはそれとして後でレイの絵姿を買ってこようと思う私であった。


「感心している場合じゃなかったですね。この絵姿を知っていて、名前がレイとアヤカでは間違えようがない。ということは、勇者と聖女が来てくれた町として、大きく宣伝したいだろうし」

「私はいやですよう」

「私もそういった社交は好まない」

「だよね」


 私はどうしようもなくてハワードのほうを眺めた。


「二人はハワードの部下なんだから、ハワードがなんとかすればいいんじゃない。勇者一行の剣士なんだし」

「俺がか?」


 他人ごとのような顔でもりもり夕食を食べていたハワードが何かにむせたような声を出したが、二人の責任者はそもそもハワードである。


「そもそも、はじめは私一人で行くはずだったんだし。神官長様、私は土地勘はないので、神殿からお手伝いを出してもらえませんか」

「言うまでもなく、こちらからそうお願いしようと思っていましたよ。神殿関係者には、おまけの聖女様は効率的に瘴気を祓うと評判でしてな」


 レイとアヤカが悲壮な顔をして私を見たが、おまけの聖女様と言われても私は別に傷つかないから大丈夫である。私が期待されている理由はこれだ。


「やはり、皆さん、瘴気を祓った後は筋肉痛に悩まされているんですね」

「そうなんですよ。特に神官も年齢を重ねると四十肩や腰痛に悩まされるものも多く、そもそも腕を上げるのも大変ですからな」

「お任せください。お手伝いの方にはやり方をしっかりとお教えしますので」

「ありがたいことです」


 おまけであっても私の聖女の力が神官の力でよかったと思う。このように、神殿の人は理解のある人が多くてやりやすいのである。だから神官の資格もすぐに取れたのだし。


「明日、ご領主に会った時の反応次第だけれど、仕事班と社交班に分かれることを覚悟しておいてね」


 三人はしぶしぶといった顔で頷いた。


「それが嫌なら、ハワードが頑張ってお忍びで通して」

「わかったよ」


 質素だが清潔な客室で一晩休んで、お迎えに来たご領主の館に行ったら、神官長の忠告通り、ご領主は勇者と聖女の来訪に大はしゃぎだった。


 もちろん、ただの神官である私の言うことなど頭から聞こうとしなかった。見かねたハワードが結局前に出てくれなかったら、いつまでも瘴気の浄化が始まらないところだった。


「お忍びゆえ、私も含め、立場は神官のコトネ殿の部下ということになる。そのように大騒ぎされると、そちらからのご依頼の瘴気の浄化が遅れるばかりだ。申し訳ないが、仕事をさせてほしい」


 とここまで言ってようやっと仕事の話が始まった。さすが勇者一行の剣士だと思ったのは内緒である。


 場所は町の南。深い森があり、そこに接する農家の被害が大きいとのこと。


「どうしても人が踏み込まないところは瘴気が見逃されがちで。それでも、森の入口のあたりの瘴気を浄化していただければ、後がとても楽になります」


 これはついてきてくれた神官が元気に言ってくれたことだ。ご領主はその実、具体的な被害も知らないのではないかという感じだった。


「巡回とかはしないんですか?」

「そこまで人手はありません。神殿も基本、民の申し出により神官を派遣しますので」


 モグラ叩きのように、問題が起こったところを次々とやっつけるので精一杯のようだ。それなら、依頼の仕事をさっさとこなして帰るしかない。


「ハワードは……」


 レイとアヤカは仕方がないと思っていたが、もうすぐ怒りだしそうな二人を一生懸命なだめているハワードを見ると、ついてきてくれとも言い難かった。


「では、私たちはお仕事に行ってきますか」

「はい」


 結局、シャイルズの神官と地元の護衛で仲良く出かけることになったよね。


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