盗品の行方
「なんだ!貴様らは!ギャ~~~」
「投降して来たものだけ捕らえよ!あとは切り捨てろ!」
さすがは兄貴、一切の躊躇が無い。
地下に下りるとかなり広い空間が広がっており、盗賊はざっと60人くらいで内獣人は半分強という感じだった。
とりあえず、兄貴の初撃のエアーカッターが決まり、前に居た20人くらいは無効化出来たようだ。しかし、敵も兄貴の魔法を見るとすぐにアンチマジックエリアの魔道具を発動させた。ここからは魔法無しの戦いになる。
「オルト、東側の三分の一を足止めしろ!」
「無茶苦茶、言うなよ!」
「できるはずだ!5分頑張るだけだ!行け!」
「ったく、人使いが荒いぜ!」
俺は攻撃はダメな弱虫ということになってるが、防御というか逃げ回るのは上手いのだ。
というのも、攻撃チートを隠している分、殴らせないと訓練は終わらない。訓練をいかに痛くないように終わらせるかを考えながら、出来上がったのが、俺は逃げ回るのだけは上手いというあまり褒められない特技だ。
それを兄貴は今回、時間稼ぎに使うという訳だ。
「メタット団長、いいの?オルトだけで?」
「なんだ?エレンは知らないのか?避けたり、逃げたり、時間稼ぎならオルトは得意だぞ!まあ、信じて自分の敵を倒しに行け!」
「わかったわ!オルト、頑張ってね!すぐに助けに行くから」
「ありがとう、エレン姉」
「隊長よ隊長!」
「そうだった、隊長!」
「なんだ?お前一人で俺達の相手をするのか?」
「ハハハ、まあ、そうなるみたいだね!」
「舐めやがって!さっさとコイツを殺して、逃げるぞ!」
俺は必死で敵の攻撃を集めつつも、攻撃を避け続けた。
「ちょこまかと!この野郎!」
そして5分が過ぎた頃、
「お待たせ!」
「ギャ~~!」
「遅いよ~!」
「まあ、ケガしてなさそうだし、間に合ったでいいでしょ!」
そう言うとエレン姉は俺の受け持っていた敵を殲滅し始めた。
「おい、ベムス、逃げるぜ!」
「おう、こっちだ!」
首領と思われる奴と魔法使いが奥に走り出した。
アンチマジックエリアを作り出した魔道具のところだ。
俺が何をするんだろう?と警戒していると、魔法使いが詠唱を始めた。
「あれは、転移魔法!だけど、今はアンチマジックエリアだから、魔法は使えないんじゃ、」
「あ!」
っと思ったが、遅かった。首領と魔法使い、そして幹部らしき右頬に傷のある男の3人は転移魔法で逃亡した。
あとに残った者達は大半は殺し、数人を捕らえた。
しかし、盗品はどこかに持ち去った後で何も見つからなかった。
◇
結局、今回の事件は、捕らえた者の証言かららあらかじめ、ターゲットにしていた大二つの商会に、1年も前から潜入組が入っており、こいつらが、盗賊団を引き込んだというのだ。
最初の商会を襲う際には、周囲の目撃者を極力出さないため、眠り薬を焚火の煙として発生させて魔法使いが風魔法で各家に送り込んだらしい。
ジャスミンを隠したのが誰かは、まだ謎のままだが、ジャスミンが喋れるようになれば判明するだろう。
そして二件目の商会だが、こちら俺が焚火を探っていることに幹部の一人が気づき、もしかすると、眠り薬のからくりがバレたと気づき、それなら、連夜での犯行は無いと考えるだろうと急遽、襲うことにしたらしい。犯行は潜入組が家の中で眠り薬を香に混ぜて発生させ、全員が寝静まったところに盗賊団を呼び込み、皆殺しにして、あとはゆっくりと財産を盗み出したということだ。
つまり、俺達は盗賊団の大半は捕らえるか殲滅したが、肝心の首領と幹部を取り逃がし、その奪われた物も取り返せなかった。ということになる。
なので、今はエレン姉の御機嫌がすこぶる悪いのだ。
「もう、腹が立つわね~!」
「でも、エレン姉、本当に盗んだお金や財宝は別の場所に運ばれたのかな~?」
「なんですって?オルトは盗んだ物はまだあのアジトにあると言うの?」
「うん、絶対とは言えないけど・・・一旦、バラバラに運ばれた盗品をわざわざアジトに持って来たんだよ!あのアジトにはまだ秘密があると思わない?」
「確かにそうね!となると、今は騎士団でアジトの見張りをしているけど、私達が居なくなると奴らは戻ってくるわね!」
「誰も居なくなったアジトの見張りに何日も騎士団を充てられないから、3日の間にオルトは盗品を見つけること!いいわね!」
「本当にあるかは・・・」
「うるさい、絶対に見つけなさい」
「でも・・・」
「でももヘチマもない。あなたはしばらく、騎士団に来なくていいから、3日はアジトに毎日通いなさい。」
「もしも、見つからなかったら?」
「その時は、当分、一人でアジトの見張りをしてもらうから、そのつもりで!」
「それは、酷いよ!エレン姉」
◇
そんな訳で、俺は今、アジトの地下を探索中である。
あるはずなんだよな~
俺はとりあえずで地下の壁に向かって鑑定魔法をかけた。
何も反応無しだった。反応無し?反応無し!
どういうことだ!
そう、反応無しというのはおかしいのだ。
俺の鑑定魔法はチートなので反応無しという結果は無い。
つまり、鑑定結果は壁なら壁の材質、厚さなどが表示されるはずなのだ。
それが反応無しということは、この壁には魔法を弾くか何かの仕掛けが施されているということになる。
俺は壁を端からじっくり見て行った。
すると俺は焦げている部分があるのを見つけた。
一見、昨日の戦闘で壁にファイヤーアローでも当たったような小さな焦げだ。
俺はその部分にファイヤーボールを当てた。しかし、何も起こらない。そこで俺は焦げの大きさを考えて、ファイヤーアローを発動させた。すると、魔法陣が現れ、しばらくすると魔法陣のあった場所に穴が空き中にレバーがあるのが見える。
俺はレバーを引いてみた。ガコーン壁に扉が現れた。
扉には鍵はかかっておらず、扉を開くと盗品らしき物と金が山のように積まれていた。
俺は外に出て扉を閉めるとレバーを元に戻した。
すると、魔法陣が現れ、さっきと逆の動きで扉を隠した。
この仕掛けはファイヤーアローが使える魔法使いが居ないと開けられない訳か!
さてと、ここまで分かれば、もう一度、自分以外の人にやらせればいいわけだ。
俺は魔法は鑑定以外は使えないことになっているので、エレン姉のところに行って魔法使いを借りて来るという手間をかけないといけない。
まあ、面倒だが、スローライフのためだから仕方がない。
こうして、俺はエレン姉に報告し、盗品を取り戻すことに成功した。
あとは、盗品を回収にやって来る幹部達を捕まえる作戦を考えるだけとなった。