捜査
2話目がアップされずに3話目が2話目として投稿されたため、差し込みで投稿しています。
俺はジャスミンを連れて、騎士団の食堂にやってきた。
騎士団では夜勤もあり、夜勤明けの団員や寮暮らしの団員のために朝昼晩と食堂でご飯が食べれるようになっているのだ。
まあ、量はたっぷり食べれるが、味はまあ・・・ね。
ジャスミンには、悪いが伯爵家の三男の俺にはお金はあまりない。
「おう、親父さん、朝飯を2人前頼む」
「オルトじゃないか!今日はまた、一段と遅い出勤だな。姐さんに怒られるんじゃないか?」
「親父さんも口が悪いな~!これでも一仕事終わらせて、エレン姉の指示で、ほらこの子にご飯を食べさせに来たんだぜ」
「そうか!で?その子は昨夜の盗賊団絡みか?」
「まあ、そうだ。他言無用だぜ!」
「わかった!ほい、朝飯2人前だ」
「ありがとう」
「・・・・・・」
「どうした?嬢ちゃん」
「親父さん、この子は・・・」
「すまねぇ!」親父さんは察してくれたようだ。
「さあ、ジャスミン、ご飯にしよう。お代わりも自由だからな!」
「・・・・・・・・・」
相変わらず、喋れないが、嬉しそうに食べ始めてくれたので一安心だ。
◇
朝ご飯を食べ終え、俺はジャスミンを連れて焚火跡に向かった。
焚火跡は4ヶ所あった。襲われた商会のある通りとその裏通りで商会の南側で道の両端にあった。おそらく焚火をして眠り薬を風上側から流したのだろう。
俺は焚火跡に鑑定魔法をかけた。
予想通りだった。4ヶ所全てから眠り薬の反応が出た。あとは鑑定魔法を使える者は少ないので、鑑定魔法の結果で眠り薬の証拠とはしにくいため、俺は焚火跡を漁り、眠り薬の残骸を探した。
よかった。見つかった。俺が黒焦げになった眠り薬の残骸を拾っているとジャスミンが脚にしがみついてきた。
「どうした?」
「・・・」
この反応は怯えてる!俺は周りを見渡した。
騎士団の俺が焚火跡を調べているからか、野次馬が十数人集まっていた。
ジャスミンはある一方向を見ている。
俺はしゃがんで、ジャスミンに小声で話しかけた。
「ジャスミン、犯人が居るんだな!そっちは見ないでお兄さんの方を見てから、居るならゆっくり頷いて」
ジャスミンはゆっくり頷いた。でも、震えているようで、繋いだ手から震えが伝わってくる。
俺がジャスミンが見ていた方を見ると右頬に傷のある男が、こちらを見ていた。
「オルト兄、今日は何をやってるんだ?」
「カイトか!」
カイトはスラムに住んでいる悪ガキで俺より2歳下の13歳で、俺は手間賃を渡して、たまに仕事を手伝わせている。
「オルト兄、その子は?まさかオルト兄の子か?」
「アホ、んなわけあるか!それより、ちょっと来い!」
俺はカイトをそばに呼び、先程の右頬に傷のある男を追わせることにした。
駄賃は銀貨3枚を手に握らせる。駄賃としてはかなり多い額だ。
これでカイトはこの尾行がかなり危険だということを気づいてくれる。
「サンキュー、オルト兄、それでどいつだ?」
俺は男に背を向け、小声で素早くカイトに右頬に傷のある男であることを伝えた。
カイトは了解っと言って反対方向に走り出す。
カイトは一旦、この野次馬達から離れ、傷の男を追ってくれるはずだ。
俺は4ヶ所の焚火跡全てから眠り薬の残骸を探し出して回収し、騎士団の詰め所に戻った。
右頬に傷のある男は、俺が回収するところをずっと見ていた。当たりだろう。
あとはカイトからの連絡待ちだ。
◇
詰め所に戻るとエレン姉がやって来た。
「オルト、どうだった?」
「当たりだ!」
俺はそう言い、エレン姉に証拠になる眠り薬の残骸を渡した。
残骸は成分分析すれば眠り薬の残骸だとわかるので、証拠力としても高い。
まあ、眠り薬を焚火に入れたからといって、盗賊団が使ったとは言えないのだが・・・
ただ、今回の場合は右頬に傷のある男が引っ掛かったので、かなりラッキーだ。
「それから、エレン隊長、盗賊団らしき奴が見つかったから、カイトに尾行させている。」
「御手柄じゃない、オルト!」
「まあ、俺が見つけたんじゃなくて、ジャスミンが怯えていたから、気づいたんだよな!」
「ジャスミンちゃん、御手柄よ!」
「・・・・・・」
相変わらず、ジャスミンは喋れないが、ニッコリ微笑んでくれた。
「それで、エレン姉じゃなくて、隊長、カイトの駄賃なんだが・・・」
「かなり危険だから、はずんだんでしょ?」
「まあ」そう言って俺は指を3本突き出した。
「ちょっと渡しすぎな気もするけど、今度の盗賊団は53人も殺害して逃げた奴らだから、いいでしょう。」
そう言ってエレン姉は俺に銀貨3枚をくれた。
◇
その夜、俺はジャスミンを風呂に入れ、着替えさせて晩御飯までくつろいでいると執事のセバスが来客を告げてきた。
「カイト、どうだった?」
「オルト兄、あれは昨日の盗賊団なのか?」
「たぶんな!」
「あの男は北側にある廃教会の地下に入って行った。しばらく、見ていたが、かなりの人数が廃教会に入って行ったぜ!」
「そうか、カイト、お前は念のため身を隠せ!」
「わかった」
そう言うとカイトは帰って行った。
◇
俺は晩御飯を食べ、ジャスミンを寝かしつけると、エレン姉の屋敷へ向かった。
屋敷に着くと俺は執事のガーデンに言った。
「エレン姉は帰ってるか?」
「これはオルト様、こんな時間にどうされましたか?」
「緊急事態だと伝えてくれ!盗賊の件だと言えばわかる。」
「畏まりました。オルト様は応接でお待ち下さい。お茶の用意をさせます。」
「お茶より、エレン姉を早く頼むな」
「はい」
俺は勝手知ったる他人の家というか、この屋敷にはよく来るので、誰に咎められることもなく、応接に入る。
ソファーに腰掛けると、すぐに紅茶が運ばれてきた。
俺が紅茶を飲もうとカップを持ち上げたところに
ガチャ
「オルト!カイトからの情報はどうだった?」
「まあ、落ち着いて!エレン姉。当たりだったよ!カイトの見立てだと奴らは30人以上の盗賊団で北の廃教会の地下に入って行ったらしい。」
「30人以上か~どうする?」
「俺に聞かれても・・・決めるのは隊長のエレン姉でしょ!」
そこに副隊長がやって来た。執事のガーデンが気をきかせて呼びに行かせたらしい。
ミナト=バンクウェル子爵は副隊長である。30歳で子供が二人いる。昔からエレン姉のお目つけ役で、その縁で今も副隊長をやっているのだ。
「エレン隊長、盗賊団のことで何かわかったと聞いたのですが・・・」
「うん、アジトらしき場所がわかったの」
「それでは、踏み込みますか?」
「それが、調査に行った者の話では30人以上の大盗賊団らしいのよ」
「それでは、今から緊急召集をかけても30人集まればいい方ですから、今から緊急召集をかけて、明日は全員集合としてはいかがでしょうか?」
「そうね!それで行きましょう!明日は7時に詰め所集合で」
「わかりました。それで集合をかけます。」
そう言うと副隊長は急いで出て行った。
大丈夫かな?俺は何となく嫌な予感はしたが、この予感を無視してしまった。
これがあの大惨事に繋がるとは・・・