ジャスミン
王都で大量虐殺を伴う強盗殺人事件が発生した。生き残りは奴隷の少女一人。
そんな中、異世界転生したオルトは王都の第3騎士団治安維持隊の新入隊員として就職する。
上司は幼なじみの公爵令嬢、事件を解決するため、オルトは異世界転生した際のチートは鑑定のみしか使用せずに挑む。
オルトは事件解決できるのか。
タタタ、タタタ
「ま、待ちなさい!何も叱ったりしませんから・・・」
トテトテトテトテ・・・ドサッ
銀色の髪に大きな狐耳の少女は部屋から飛び出してきて倒れた。
「ほらっ!大丈夫?」
「・・・・・・・・・」
「あなたを怒る訳ではないのよ!」
「・・・・・・・・・」
少女は涙を浮かべるも声は発することは無かった。
◇
ガチャ
「おはよう」
「あ!オルト、あなたは、また遅刻!」
「エレン姉は酷いな~!目撃者探しをしていたんだよ」
「ふ~ん、まあ、そういうことにしておいてあげるわ。それより、隊ではその呼び方はダメって言ってるでしょ!」
「へ~い!それで、その子は?」
「まったく~!あなたは・・・まあ、いいわ!この子は今回の生き残りよ!盗賊はこの商会の者を皆殺しにしたつもりだったみたいだけど、この子は小さいから、釜戸の中に隠れていたみたいで助かったみたいなのよ」
「そうか、お嬢ちゃん!それより、コケてケガしてないか?」
「・・・・・・・・・」
「エレン隊長、この子は喋れないのか?」
「う~ん、それはまだ、わからないけど・・・何十人も、商会の人達が殺されている中を息を殺して隠れていたからねぇ・・・」
「一時的に喋れなくなっているってところか!それで、商会で他に生き残りは?」
「この子以外は見つかってない。今、調べてるけど既に50人以上の遺体が見つかってる」
「ふぇ~~!それは酷いな!」
「そうだ!お嬢ちゃん、逃げなくてもいいのよ。私達は第3騎士団で私は治安維持隊の隊長をしているエレン・・・」
◇
状況を説明すると・・・
俺はオルト=デザート、この国のデザート伯爵家の三男で第3騎士団の治安維持隊に今年から配属になった16歳だ。
そして、エレン=スチュワート18歳、スチュワート公爵家の次女で治安維持隊の隊長、つまり、俺の上司で幼なじみのお姉さんだ。
今日は王都の商会が盗賊団に襲われ皆殺しにあったとの知らせを受け、治安維持隊として調査をしているところだ。まあ、今日のところは寝坊して遅刻したんだが、近くの聞き込みを来るついでにちょっとして、言い訳をしたんだが、さすがに付き合いの長いエレン隊長にはバレバレみたいだった。
◇
「隊長、この子は奴隷か?」
「そうなの?鑑定したの?」
「というか、この子の右手の甲に奴隷紋が」
「本当だ。誰の奴隷かわかる?」
俺は鑑定魔法を使った。
俺は秘密にしているが、よくラノベであるチートな転生者だ。だけど、能力は隠している。
例え、エレン姉といえども能力は見せてない。ただ、あまりにも能力が無さすぎだと、伯爵家の三男でも食いっぱぐれる可能性があるので、鑑定魔法の能力は見せているのだ。
騎士団なら剣術ではないかって?ダメダメ、そんな能力があることが知られたら、それこそ、ラノベの主人公みたいに忙しい事件に巻き込まれそうだからね。
なので、俺は騎士団だけど、剣術はそこそこで、かわして逃げ回るのは上手いけど、弱虫騎士を演じている。ただ、さっきも言ったが、食いっぱぐれは困るので、レアスキルの鑑定魔法を公開しているのだ。鑑定魔法は物だけでなく、人のスキルやステータスを判別出来るので、元の世界の警察のような仕事もする騎士団では重宝されると言う訳だ。なので、魔法も全属性使えるけど、使えないと偽っている。
◇
俺は鑑定魔法の結果を伝えた。
「この子はジャスミンで5歳、主は殺されたみたいだな。主無しになっている。」
「そう、とりあえずは私の所で預かるとして・・・」
「いや、隊長、この子は俺が預かる。」
「はぁ!何を言ってるのよ!あなたは・・・」
「隊長こそ、何を言っている。お前の家は王族と親類で、この国の重鎮がたくさん居る家だぞ!普通でも、警備が大変なのに、この子が生き残りだと盗賊にバレたら、公爵家に盗賊団が押し寄せるかもしれないだろうが!これ以上警備を大袈裟には出来ないんだぞ。その点、うちなら、兄貴達が居るからな!」
俺の長兄は近衛騎士団の団長、次兄は第2騎士団の団長、ついでに親父様は軍務大臣だったりする。どこかの馬鹿カルト教団が警察庁長官を狙った例が前世ではあったが、普通は治安維持隊のトップを悪人は狙ったりしない。
「わかったわ、それでいい、この子はあなたが保護すること。それで、聞き込みをしたという、あなたの方の情報は?」
「全くダメ!ただ、少し変なんだよな」
「何が?」
「聞き込みに行ったこの近辺なんだが、昨夜はみんなぐっすり眠ってるんだよ」
「夜、ぐっすり眠るなんて普通じゃない!何が変なのよ?」
「今は、もう春というより夏に入ってきてるんだぞ!夜でも暑くて寝苦しかっりしないか?特に昨日は寝苦しかったぞ!なのに、この近辺の人だけは全員、ぐっすり眠ったって変だと思わないか?」
「確かに、変ね・・・何か眠り薬でも撒かれた?」
「いい線じゃないか!さすがは隊長だ!」
「からかわないの!」
「薬か~!それだ!隊長、そういえば、この近辺に不自然な焚火跡もあったんだ。この暑いのにだ!これも不自然な点。これに薬となると、盗賊団は焚火に眠り薬でも入れて、煙をこの一帯に流して眠らせて、犯行を目撃されないようにして押し入った」
「それよ!じゃあ、オルトは焚火跡を鑑定して眠り薬の痕跡を見つけて」
「了解、じゃあ、お嬢ちゃんはお兄さんと一緒に行こうか!」
「オルト、焚火を調べたら、ジャスミンちゃんに朝ご飯を食べさせてから、騎士団の詰め所ね」
「朝ご飯?」
「この子は朝から何も食べてないの!奴隷だし、ここの商会でどういう扱いを受けていたかもわかってないし・・・それに、ご飯食べると喋れるようになるかもしれないでしょ!」
「まあ、そう簡単じゃないとは思うけど、了解」
「私達は、遺体の回収ともう少し、ここの状況を調べたら詰め所に帰ります。」
そして、俺達は別れた。