その憂鬱な日に彼女たちは…凜編(2)
急いで準備しよう、なんて思っておきながら、かえっていつも以上に時間のかかる結果となってしまった。
結局、かれこれ20分は凜を待たせてしまったのではないだろうか。
「すまん凜!遅くなっちまった」
「いえ。……何かトラブルでもあったんですか?」
「ん?!……いやー、別に?」
「ふーん……そうですか」
これ以上拗れるのはごめんだ。適当に誤魔化しておけばいいだろう。
……取りあえず、今日の昼は腹を壊す覚悟でいよう。
「そういえば凜。なんで急に、家に来ようなんて考えに至ったんだ?」
「そ、それは……まあ、せっかく同じクラスになったんですし、これを機にまたこうやって一緒に登校出来たら楽しいだろうなぁ、と思いまして」
「……そうか」
実際、凜とこういう風に並んで学校に行くのは、1年ぶりだ。
高校1年の時は、まるっきりそういうことがなくなっていた。
「これから……」
「ん?」
「これから、また少しずつ、あの頃の関係性を戻していきたいって思ってるんです」
「……凜」
喧嘩をしたわけではないし、関係性が崩れるような何かがあったわけでもない。
ただ、疎遠にはなっていた。
その1番の原因は、芽依との一件以来、僕が生活習慣や、考え方そのものを変えてしまったことにある。
あの頃は酷かった。
芽依に遭わないようにするために、極力人の目を避けるような行動をしていた。
必然的に、凜との絡みも少なくなっていった。
いつの日からか、凜が朝、うちに来るのを止めた事を朱里から聞かされた。
そりゃあそうだろう。
来たとしても、そこに僕はいないのだから。
桜に裏切られて人間不信になったなんて言ったが、実はその前から既に、ほとんど人と関わっていなかったりする。
芽依を傷付けないようにと避けていた件にしても、端から見れば、逃げたということになるのだろうか。
まぁ、結果的に逃がしてはくれなかったんだけど。
「凜……ごめん」
「……どうしたんですか、急に」
「いや、僕が中途半端な事しちゃったから」
「あの頃は色々と大変でしたし、いいですよもう。それに、海人君の良さは、私が誰よりも理解しているつもりですよ?」
にこっ、と優しい笑顔を向けてくれた。
良い幼なじみを持ったと思う。
これから、どれだけかかるか分からないけど、少しずつでも恩返しが出来ればいいな。
「ところで海人君。この様子を乃愛さんと芽依さんが見たら、どんな反応をするでしょうねっ?」
「……え、どういうこと?」
「……やっぱり気付いてなかったんですか」
「いやなにが」
「……可哀想な私達」
「だから何が?!」
◇◆◇◆
どこに行っても異物扱い。
元々、親の仕事の関係上、お嬢様のように育てられてきたのだから、仕方の無いことだとは思っています。
それでも、独りぼっちは嫌でした。
差別されるのも、嫌でした。
いつの日か、私は家に閉じこもるようになってしまいました。
だって、外に出てもどうせ、誰にも受け入れてもらえないのですから。
でも、たったひとりだけ。
海人君だけは、私に寄り添ってくれました。
私を同等の人間として、扱ってくれました。
結果、私は外に出ることにしました。
海人君と一緒に、外の世界を見ていきたいと思ったから。
あなたは私を救ってくれたのですから。
私はあなたに、恩返しをするべきですよねっ?
次回は久々に乃愛ちゃん登場です!
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