その憂鬱な日に彼女たちは…凜編(1)
朝起きた瞬間に理解した。
今日の気分、最悪だ。
だるいからサボりたい、とかそんなふざけた理由じゃなくて、今日だから駄目なんだ。
今日学校に行くと、壊れてしまうかもしれない。
今日授業を受けると、物事に対するやる気を失ってしまうかもしれない。
今日いつも通りの生活を送ってしまうと、何か大切な物を失ってしまうかもしれない。
……よし、休もう。
そう決意して、再度布団の中に潜ろうとしたのだが……。
こんこんっ、とドアをノックする音が聞こえてきた。
「どうぞ」
僕がそう言ってから、ドアを開けて部屋の中に入ってきたのは、妹の朱里だった。
「……お兄ちゃん」
「……ういっす、朱里」
朱里は、少し引っ込み思案なところがあるのだが、お兄ちゃんのいうことをちゃんと聞いてくれる、とっても良い子ちゃんなんだ。
そうだ!そんな朱里に、お兄ちゃんが今日学校を休むことを連絡してもらおう!
朱里には負担を掛けてしまうことになるけど、優秀な僕の妹の事だ。きっと成し遂げてくれるだろう。
「朱里。ひとつ、お兄ちゃんから頼みたいことがあるんだが、聞いてくれるか?」
「?……お兄ちゃんの頼みなら、なんでも聞くよ。でもその前にね?」
「うん、何だ?」
「凜さん、来てるよ?」
ばったーん。
「お、お兄ちゃんっ?!」
勢い余って、ベッドから転がり落ちてしまった。
「はぁ?!なんであいつがここに来るなんて事になったんだよ!」
「うーん……幼なじみだから?」
「ここしばらく来てなかっただろうが!」
確か最後に来たのは、高校に入る前だ。
何故このタイミングで……。
「もうかれこれ10分は待たせてる。……早く言ってあげた方が良いよ?」
「……はぁ。しゃーない、分かったよ」
あろう事か妹を利用して学校を休もうとした罰が当たったのかもしれない。
……ごめんな?朱里。
玄関のドアから顔だけ出してみると、美少女がそこに居た。
だからここにいるのは少々場違いだと思う。
「あっ、海人君!」
「おう、凜。せっかく来てもらったところ悪いんだけどさ、今日は学校休むことにしたんだよ。本当にごめんな?」
「えっと……それは、さぼるって事ですか?」
「……いや、違うぞ?僕は確かな自分の信念を持っているんだ。心の中で、今日は学校に行ってはいけないと呼び掛けられていたんだ」
「さぼりですよね?」
「……はい、すみません」
……僕が悪かったので、そうやって無言の圧を放つのやめてくれません?
「……じゃあ、準備するんで少々お待ちを」
「あっ、そのことなんですけどね?海人君」
「ん?」
凜は、急に顔を赤らめてからもじもじとし出し、何ともキュートな上目遣いをしてきた。
「今日、お弁当二つ作ってきたから……もしまだ準備してないんだったら、お一つどうでしょうか」
「……頂きます」
「ほんとにっ?」
凜は、よかった~、と安堵の息をついた。
……いやね、そんな言われ方したら、そりゃあ断れないってもんよ。
まぁ、親が二人とも家にいないから、いつもはコンビニ弁当だし、たまにはそういうのもありだろう。
取りあえず、凜にはもうしばらく玄関で待ってもらった。
要するに、僕はなる早で準備しなければならない。
「あ、あの、お兄ちゃん」
「ん?どうした朱里」
話しかけてきた朱里は、何かを言いたそうな顔をしている。
きっと言いにくいことなんだろう。
「朱里、ゆっくりでいいぞ?」
「う、うん」
僕はいいお兄ちゃんをやれているだろうか。
少しでも朱里にそう思ってもらえたら、嬉しいな。
「……あ、あのね?お父さんもお母さんもいつも忙しくて、お兄ちゃんにばっかり負担掛けさせちゃってるから」
「……そんなのお前が気にすることじゃないって」
僕はとてもいい妹を持ったようだ。
その喜びに乾杯。
「だからね?私、お弁当を作ってみたの」
「……ん?」
「……よかったら持って行ってほしいな」
たった一つ分かったことがある。
このまま話を続けると、色々と重なって色々とまずいことになるということがな。
「……ち、ちょっと考えさせて?朱里」
「あ……やっぱり、迷惑だよね。勝手なことしてごめんなさい。後片付けはちゃんとするから」
「すっげー嬉しい!お兄ちゃんはこんな妹を持って幸せだなー!」
「……ほ、本当に?」
「もちろん!お兄ちゃん、妹に嘘つかない」
「そ、そっか……ふふっ」
……良かった。妹に笑顔が戻ってきた。
「……後で感想聞かせてね?お兄ちゃん」
「も、もちろんだとも」
それから朱里は、上機嫌で学校の準備をし始めた。
なんか色々、タイミング悪くない……?
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