君だけは特別ルール(2)
「海人は、ここの席」
「おう」
教室についてから、僕は乃愛に言われるがまま、席についた。
辺りを見渡すと、まだ全然認識のない人も何人か見受けられた。
「あれ、海人君?随分とお久しぶりじゃないですか?」
「おう、凛か。久しぶりだな」
真っ先に話しかけてきたのは、立花 凛という人物だ。
乃愛同様、去年同じクラスだった女の子なのだが、実は小学校時代からの幼なじみである。
しかし、この場にいるということは、
「凜、お前もここのクラスなのか?」
「ふふふっ、ええそうですよ。また1年、よろしくお願いしますね?」
「ん、よろしく」
凜の特徴をあげるとすれば、まるでいいところのお嬢様なんじゃないかと思わせるその丁寧な口調、対応が魅力的な女の子だ。
まぁ、本当にいいところのお嬢様なんだけどね。
そして何より、かなりの美少女なため、男子からの人気も結構ある。
いってしまえば、うーん……。
男の夢?て感じだろうか。
「ところで、ここ数日、学校にいらしていなかったのはどうしてですか?」
「……あぁ、それね」
やはり、凜もそこが気になるところだろう。
まぁ乃愛同様、周りに言いふらすような奴ではないので、本当のことを話すとしよう。
「先月な、桜に振られたんだ」
「―――え」
凜は、僕が桜と付き合っていることを知っていたので、そのまま伝えることにした。
「振られた、というのは要するに、もう彼氏彼女の関係ではなくなったということですか?」
「……あの、あんまり深掘りしないでもらえます?」
なんだろう、女子って皆、似たような事をする性質でもあるんだろうか。
「……ということは、私にも可能性があるということですか」
「え、なんて?」
あまりにも小さな声だったので、聞き取ることが出来なかった。
「なんでもありません。それで、海人君はまだ天野さんに未練があるのですか?」
「海人に未練なんてものはない。これからは乃愛だけを信用して生きていく」
「……乃愛ちゃん」
いつの間にか、乃愛が僕の元まで来ていたみたいだ。
僕たちの会話を、聞いていたらしい。
「乃愛ちゃんだけを信用って…え?どういうことですか?」
「ああいや、乃愛は僕を気遣ってそう提案してくれたんだよ」
「……そうなんですか?乃愛ちゃん」
「少し違う。乃愛は、自分がそうしたかったから言った」
なんだよその台詞。滅茶苦茶格好いいじゃないか。
格好いいんだけどさ……そういうのって普通、男である僕の台詞じゃないですかね。
「だからって、乃愛ちゃん1人というのは……!」
「問題ない。乃愛1人でも十分支えられる。部外者は引っ込んでいて欲しい」
「な……っ!」
……え、何この空気。
2人の視線がぶつかって、まるでバチバチッと火花をまき散らしているように見えた。
そんな空気を打開するかのようなチャイムが、タイミングよく学校中に鳴り響いた。
おそらく、ホームルーム前のチャイムだろう。
僕たち2年生も、入学式に参加するためにこれから体育館へと移動しなくてはならない。
「海人、困ったことがあれば、乃愛にいつでも言って」
「……お、おう」
そう言い残し、乃愛は自分の席へと戻っていった。
「海人君」
「おう、なんだ?」
しかし、凜はまだ言いたいことがあるのか、戻ろうとしない。
「乃愛ちゃんだけですか?」
「え?」
「信用しているのは、乃愛ちゃんだけかと聞いているのです」
「……?」
……どういうことだ?まるで話が見えてこない。こんな話をしたところで、一体なんの意味があるというのだろうか。
「……にぶい」
「……え」
……悪かったな。昔から人の心を読み取るのは苦手なんだ。
「……ああもう!分かりました。言いますよ、言えばいいんでしょ?」
なんかもう、半分投げやりな感じで言い放った。
「私も信用してください」
「―――へ」
予想の斜め上をいく解答がとんできた。
だって、普通そんなこと気にするか?
「私が困っているとき、助けてくれたのはいつだってあなたでした。だから今度は私の手であなたを助けてあげたいんです。」
「……凜」
「前向きに検討して下さいね?」
そこでようやく、凜も自分の席へと戻っていった。
まぁ、あんなことを言われてしまえば、世界中の9割方の男どもは、意識せざるを得ないだろう。
もちろん俺も、例に漏れなくその1人だ。
めちゃくちゃドキドキする!
……おっしゃ。
特別ルール追加しよーっと。
僕は、もう誰も信用しないで生きていく事を決めた。(乃愛と凜を除く)
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