いつぶりかの再会
「久しぶりね、海人君」
「……ごめん、無視しても良いか?」
「駄目に決まってるでしょ?」
くすくすっと、悪魔染みた笑みを浮かべるこの女の名は、桜。
クラスが違ったのを良いことに、なるべく会うまいと今まで上手いこと避けて来たのだが……。
購買行くだけだしと、気を抜いていた。
まさか、このタイミングで再会することになるなんて、思いもしなかった。
「その子……確か、乃愛ちゃんだったかしら?」
「……そうだけど」
その乃愛はと言えば、僕の背中にぴったりとくっ付いて、ただただ桜をにらみ付けていた。
「あなたが私と付き合っている事を知っていたはずなのに、いつもあなたに付きまとっていたわよね。馬鹿なの?それとも性格に難があるのかしら?」
「乃愛はそんなんじゃない」
僕は桜を威嚇するように睨み付けた。
僕を欺いただけならまだしも、大切な友人まで馬鹿にする桜の様子を見て、段々と憎悪の感情が湧き出てきた。
もう僕は、本気で彼女のことが好きではないのだと知り、少し安心した。
「……ごめんなさい、そんなつもりじゃなかった」
「乃愛、お前が謝る必要はないぞ」
どこまでも心優しい乃愛は、こんな状況でも自分を犠牲にする。
そこが乃愛の良いところではあるのだけれども……今だけは、そんな彼女の姿は見たくなかった。
「大丈夫だから。お前は何も悪くないから」
「……うん」
僕のその言葉で、安心したのか、少しだけ表情が明るくなった。
「……はあ、付き合ってられないわね。頭の中にお花畑でも出来てるんじゃないの?」
「……」
段々と、桜が悪魔に見えてきた。
乃愛を見た後に桜を見てみると……だめ、見れない。
「お前が僕の事をどう思おうが構わないけど……もう二度と、僕や乃愛には関わらないでくれ」
これ以上、コイツのせいで、乃愛に嫌な思いをして欲しくない。
いつの間にか乃愛は、僕の中で大切な存在になっていたということだ。
「それは約束できないわよ」
「はぁ!?何で―――」
「別に、あなたに私を拒む権利なんてないでしょう?」
「いやあるだろ!!」
……この女、僕と付き合っていた時には、一体どれほど凶悪な本心を隠していたというのだろうか。
今こうやって話している限りだと、当時の彼女の面影は全くない。
「……もういいや。行くぞ、乃愛」
「……あ、うん」
呆然としていた乃愛の手を引っ張り、桜を横切るようにして、強引に突破した。
「……逃げられると思わないでよ?」
桜の不快な呟きを、僕は聞かなかったことにした。
◆◇◆◇
「……海人」
「ん?どうした」
「海人が別れたのは、乃愛のせい?」
僕は思わず、足を止めた。
許せなかった。
乃愛にこんな思いをさせた、あの女の事が。
「……ごめんなさい。……乃愛のせいで。……本当にごめんなさい」
今にも泣き出しそうな声で、乃愛は何度も謝罪の言葉を述べた。
そんな様子を見ていられず、僕はいてもたってもいられなくなり、乃愛を抱きしめた。
「か、海人!?」
「……大丈夫。大丈夫だから」
乃愛の過去を知っている僕だからこそ分かる。
彼女は、一度自分を責め始めたら、例えそれがどんな理由だったとしても、自分を責める事を止めないだろう。
だから……そういう時は、彼女が落ち着くまで側に居てあげると決めていた。
「……海人。嬉しいけど、恥ずかしい」
「……ごめん」
決意して早速、僕は乃愛から離れた。
学校だという事を、完全に忘れていた。
「……でも、ありがとう」
「……お、おう」
少し思っていたのとは違ったが、結果的に落ち着いてくれたので、良しとしよう。
「……海人」
「……今度はどうした?」
「格好良かったよ?」
「っ!」
それどころか、笑顔を見せてくれた。
しかしそれは、いつものものとは違っていて、凄く女の子らしい笑顔だった。
……そんな表情も出来るんですね。
僕は恥ずかしくなり、顔を逸らしてしまった。
大切な人が、何人も出来た。
だから、僕はもう逃げないと決めた。
二度と、芽依の時のような失敗を繰り返さないように。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。
投稿に時間がかかってしまい、申し訳ありません!
1話の彼女がようやく再登場したと言うことで、ここからが本編だといっても過言ではありません。
今後も気長に投稿していきますので、お付き合い頂けると幸いです!
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