最悪な日
突然こんな話をしてしまうのもなんだが、僕は今、幸せの真っ盛りにいる。
何故なら、僕には天野 桜という、世界一可愛い彼女がいるからだ。
今後、たとえなにが起きようと、僕は彼女一人を愛し続ける覚悟でいる。
僕は彼女の事を想いながら、軽い足取りで彼女の元へと向かった。
「海人、別れましょ」
「……へ?」
桜が何を言っているのか瞬時には理解することが出来ず、なんとも間抜けな声を出してしまった。
そこに桜が、再び追い打ちをかける。
「だからね。私達、別れた方がいいと思うの」
「……いや、なんでだよ」
いつもならずっと見つめていたいほど愛おしい桜が、今は信用することが出来ない。
……本当に桜か?偽物なんじゃないか?
現実逃避してしまいたくなるが、目の前にいるのはまごう事なき天野 桜本人だった。
「……はぁ。本当は素直に受け入れてくれるのが1番よかったんだけど」
「いやいやいや、急に別れ話なんて切り出されて、理由もなしに納得出来るわけないだろう!」
「もう好きじゃなくなったのよ、あなたのこと」
「……っ!」
まぁ、別れたい理由なんてそんなところだろうと、なんとなく予想はついていたのだが、いざ面と向かって言われると、相当きつい。
第一、僕は未だに納得できないでいる。
「……僕たち、お互いに永遠の愛を誓ったじゃないか」
「……はぁ。あなたのそういうところ、本当に嫌いだったのよね」
「……」
もう桜の言葉は何一つ、僕の頭には入って来なかった。
というのも、普段の彼女からは考えられないくらい、態度も、言葉遣いも、豹変してしまっているのだ。
「……分かった。この際だから、全て話してあげるね」
そう言うと、桜は文字通り「すべて」を話し始めた。
まず、桜には僕ではなく、他に好きな男がいるということ。
しかしその男には、すでに彼女がいたので、仕方なく、偶然、桜の好みの顔であった僕と気晴らしに付き合ったということ。
故に、そもそも僕に対しては恋愛感情も何もなかったということ。
仕舞いには、その男が彼女と別れたので、今ならいけるんじゃないか、という考えの元、僕に別れを切り出したこと。
「……」
僕は、その話を黙って聞いていることしか出来なかった。
全てを話し終えた桜は、まるで悪魔のような笑みを浮かべ、僕に言い放った。
「松葉君、私と別れてくれるよね?」
「……うん」
それ以外の解答はなかったと思う。そういう雰囲気を、彼女は作り出していた。
「ありがとう!松葉君」
桜はそれだけ言うと、惜しげもなくその場から立ち去っていった。
その場に取り残され、一人立ち尽くす僕。
案外、終わるときは一瞬なんだな。
僕は色々なことを考えた。
桜とは、昼食を一緒に食べたり、一緒に下校したり。デートに行ったときもあった。
思えば、桜と出会ってからの毎日は、楽しいことばかりだったように思う。
しかし、それは全て嘘だったということが今日分かった。
そう思うと、全てが信じられなくなってきた。
桜だけじゃない。他の皆もだ。
僕は、一人で生きていくことを決意した。
僕はまだ幸せなほうだ。
自分すらも信じられなくなった人間は、生きていくことすら出来ないのだから。
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