お洒落とステータス
第一章~お洒落~
ある朝、突然姉が切り出した。
「私、あの人と結婚するの。」
「ええっ、本気?」
と私は叫んでしまった。
彼氏は農家の長男だ。お洒落と買い物にしか興味のない姉が、畑にいる姿なんて想像もできなかった。
ところがダイニングテーブルにはもうすでに二人の署名押印済みの婚姻届が置いてあった。それを見た僕は思わず飲みかけのコーヒー牛乳をぷっとあろうことか、その婚姻届に吐き出してしまった。
「あ、やべ…」と思いつつも、これは「しめた!」とも思った。なぜなら姉は昔から熱しやすく冷めやすい性格だからだ。次に新しい婚姻届を書く頃にはきっと姉の気持ちはもう
変わっているだろう。これは彼女の三日坊主的な内面を証明するいい機会だ。
「あらら…まあいいわ」
「ほら、やっぱりなぁ、そんなもんだよな」と安心していると、姉は鞄から大量の書類を取り出し、天を仰ぎ、投げた。それはまるで、宝くじに大当たりした人が喜んで札束をまき散らような光景だった。
その婚姻届はよーく見ると一枚一枚柄が違い、とても色とりどり。そして、その量は姉に聞くと、なんと365枚。姉の誕生日から毎日欠かさずプロポーズをし続けたらしいのだが…
第二章~ステータス~
「朝のニュースです。最近では婚姻届を肌身離さず、身に着けるのが女性の間で流行っています。渋谷は今日も婚姻届一色です!今回のファッションはお洒落でもありますが、それと同時に自分のステータスを見せびらかす事ができるそうです。インスタグラムなどのSNSでいいねを貰えば貰うほど人気だと言い張れるような物でしょうか。ですがその仕組みを巡って悪質行為が急増しているようです。自分のステータスを上げたいが為に、地位の低い男性に無理やり婚姻届を書かせるような女性が増えているとのことです。くぐれもこのような悪質な詐欺手口には引っかからないようにしましょう。」