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恋と当然

作者: 伊月アオ

私はいつのまにか、彼を目で追うようになっていた。


彼は学校では、誰とも関わろうとせず常に一人でいた。彼はいつも寝ていたり、寝たふりをしていた。授業が終わるとすぐさま帰ってしまう。だから、私は彼がどんな人間なのか知らなかった。否、知ろうとしていなかった。


高校2年生になった夏、私、桃山凛は彼に恋をしていた。彼、暗堂優弥に。


高校2年生になった当初、暗堂優弥への印象は、地味な性格、外見の冴えない人という印象だった。だから、彼に恋をするなんて微塵も考えていなかったし、思ってもいなかった。私は恋をするなんて時間の無駄だと思っていた。何のためにあのような無駄な時間を過ごさなければいけないのか。そのように思っていた。恋をするくらいなら勉学に励み学年トップを維持し続けることの方が大事だと思っていたからだ。


ある日の帰宅時に偶然、彼と同じ電車に乗り合わせた。ふと見てみると彼がおばあさんに席を譲っていた。それも笑顔で。そのときは『実は優しい人なんだな』としか思わなかった。


また別の日の帰宅時、彼はいた。重そうな荷物を持ったおじいさんが階段を上っていた。さらに気づいた彼は回れ右をしてすぐさま駆け寄り

「大丈夫ですか?待ちますよ。」

と笑顔でおじいさんが荷物を運ぶのを手伝っていた。私はたまたま手伝っているのを見ただけだろうと思っていた。


しかし違っていた。いつ見かけても彼は困っている人を笑顔で助けていた。もし私だったら毎回助けてはいなかったと思う。気づかなかったと済ませるだけだったと思う。なのに彼はどんな人も困っていたら助けいた。私はそれを当然と思い見ていた。困っている人を見つけたら助ける。当然だと思っていた行為でも自分自身では簡単にはできない。その行為を恥ずかしいと思ってしまう自分がいる。でしゃばっているんじゃないか?と思われたり、するのではないか。などと考えてしまう。でもその行為を彼は率先して笑顔で行っていた。そこで彼への認識は変わった。だれか他の人がやるだろう、と誰しもが思う中、率先して行うことが、かっこよく見え、自分が情けなくなった。モヤモヤした気持ちでいっぱいになった。その日以降、私は彼を自然と目で追っていた。


学校ではやる気がなさそうな顔していたり、寝ていたりするのに、困っている人がいたら笑顔で助ける。そんな彼にドキドキしていた。この感情を恋だと気づくには時間がかかった。


ある日私は、このドキドキした感情のことを家族に相談した。家族はなんだかニヤニヤしていた。意味がわからなかった。どうしてニヤニヤしているのか。私はイライラしてきた。何もわからないから相談しているのにずっとニヤニヤされて何も教えてもらえなかったことに。そのイライラに気づいたのか、やっと教えてくれた。それが恋だと...


私は意味がわからなかった。恋とは無縁だったはずの私が何故、恋という感情を抱いているのか。こういう時どうしたらいいのか。恋とわかっても私はドキドキしたまま何もすることができずにいた。


恋という感情に気づいたから、より彼を目で追うようになった。彼の仕草1つ1つにドキドキしながら。でも私は声をかけることはできなかった。困っている人を助けるという行為を恥ずかしく思っていた自分が声をかけてもいいのかを考えると、自分が虚しくなりかけるべきではないと思ってしまう。友達にも相談したが、意味がなく結局、悪い方向に自己解決してしまう。私は彼が好き。だけど自分では不釣り合いだと思う。だから声をかけれない。かけることができない。


そのまま年月が経ち高校を卒業してしまった。最後まで声をかけることができず、このモヤモヤした気持ちを抱えたまま。高校を卒業し2度と会うことができなくなってしまった。自分が勇気を出して1歩踏み出すことができなかったから。私は泣いた。一晩中泣いた。このまま泣いていたら私は1歩も踏み出すことができない。だから私は前に進む。この失敗、後悔を糧にして、自分自身を誇れるような人間になるために。私の初恋は叶わなかったが、自分が恥ずかしくない人間に成長するための1歩としてこれからを歩んでいけるようにしてくれた彼に感謝をして、毎日の1歩1歩を踏みしめて歩んでいく。



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