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オルフェオと魔剣の出会い

 ジェラルドが騎士団に入団して数ヶ月が経つ。入団してすぐは慣れない環境に余計な力が入っていたのか、訓練や自己練習、または勤務後は疲れでくたくたになり、やることだけやって自室に戻っては死んだように眠る日々が続いた。しかし、今ではそういった都市の生活にも慣れてきたようだ。最近では任務後に買い物をしたり、同僚と酒場に行くことも増えた。

 今日は武器屋に寄ることにした。もう自分の相棒は青く光る槍に決まっているから買う気はないのだが、今日は何故だかどうしても武器屋に行きたくなった。ジェラルドが足を止めたその武器屋は小さな屋台だった。質の良さそうなものは見やすく並べられているが、特に変哲のない剣は筒状の入れ物にまとめて入れられている。ジェラルドはそのまとめられている剣の中の一つに釘漬けになった。サッと手に取ってみると、厳つい顔つきの店主が眉をひそめる。


「あんちゃん、それだけはやめとけ。それは呪いの剣だ」


 呪いの剣と言われると、さびれていたり黒のイメージを持っていたが、その剣は透き通ったような銀色からキラリと淡い緑色が反射する不思議な剣で、柄にも刃にも風を連想させる模様が彫刻されているようなとても美しいものだった。


「見た目がいいから高値で買い取ったんだが、値段を下げても何をしても売れなくてな。……だからやけになって捨てようとしたことがあったんだが……次の日になったら元の場所に帰ってきていた。なにかの間違えだと思って立て続けに捨てたんだが……」


「ふーん」


 厳つい顔して案外いい人だ。そんなに怯えた顔をするなら黙って売ってしまえば良かったのに。

 ジェラルドはそんなことを思いながらその剣を筒の中に戻そうとした。店主は我に返ったかのようにハッとし、ジェラルドの両肩をがっしり掴んだ。


「待て、あんちゃん。その剣、あんちゃんから手に取ったよな?」


「は、はあ」


「だったら、これは運命だ。今までこの剣を手に取ろうとする客すらいなかったんだよ。タダでやるから、な? 持ってってくれ」


 店主はこのとおりと頭を下げる。圧に押されたジェラルドはつい仰け反ってしまう。


「えー、でも、俺は剣じゃなくて槍……あ」


 ふと親友の顔が思い浮かんだ。実力は十分にあるのに、それを無駄にしている奴のことだ。奴は騎士団に入らないどころか、剣を握らせるにもひと苦労させられる。

 ふふふふ、とジェラルドは不敵な笑みを浮かべる。


「分かった。この剣くれ!」


「まじか、あんちゃん! 勇者だなお前!!」


 ジェラルドの両肩をバンバンと激しく叩き、店主は満面の笑みを浮かべている。ジェラルドは次の休日がとても楽しみになった。


―――――


「……なに? その顔。気持ち悪い」


 にまぁっと笑みを浮かべているジェラルドを、オルフェオはげっそりとした表情を浮かべながら見る。


「ふっふっふっ、田舎者のオルフェオくんのために沢山お土産を買ってきたのだよ」


「いい予感がしないのはオレだけかな?」


 まず、バンっと音を立てて分厚い本を差し出す。表紙には『騎士団入団試験 筆記試験過去問』と書かれてあり、それを声に出して読み上げたオルフェオはあからさまに嫌そうな顔を見せた。


「また金のムダ遣いを」


呆れるようにオルフェオは本を見下ろし、ため息をつく。


「そんなことはない! オルフェは騎士団に入るべきだ!」


「何回断れば君は分かってくれるの?」


 オルフェオの質問を気にせず、次!とまた音を立てて出されたものは、数ヶ月間の騎士団の活躍が書かれてある雑誌束。こんな田舎の村にもスペード国の誇りである騎士団の活躍が書かれているこの雑誌は入荷される。しかし、入荷されたときにはすでに時期が大幅に遅れている。それにもかかわらず、時期が遅れたその雑誌をジェラルドは幼いから読むことが大好きだった。


「ホントに飽きないねえ、ジェド。君の活躍について書かれているの?」


 オルフェオは先ほどよりは興味を持って、パラパラとページをめくる。もちろん、入って数ヶ月のジェラルドのことなんて書かれているはずもないのだが、あえて言わないことにした。


「最後に、じゃじゃーん!!」


「……え、なに?」


 オルフェオに押し付けたのはあの剣だった。やはり見た目が美しいためオルフェオも目を奪われているようだ。


「お前の剣だ、オルフェ」


「オレの、剣?」


 オルフェオが言葉を発した瞬間に淡い緑の光が剣から発した。その光は辺りを白くするほど強く、オルフェオもジェラルドも驚いて目を瞑ってしまう。しかし、それは一瞬のことでその後は何も起きる様子は見られなかった。


「……なに、今の」


「さあ」


 二人は呆然とその不思議な剣を見つめることしか出来なかった。


―――――


 翌日、ジェラルドはいつも通り特訓から逃げたオルフェオを探して、思いつくところを歩いていた。見つからずため息をついて、顔を上げると探していたオルフェオが全力疾走でこちらに走ってくる。


「ジェド!!」


「オルフェ! 探してたんだぞ? いつもいつも特訓から逃げんなって言って……」


「あの剣はなんだ?!」


 ジェラルドの言葉を切って、オルフェオは迫る。長距離を走ってきたのか、いつも飄々としているオルフェオが息切れして取り乱している様子は正直新鮮で面白かった。


「あの剣? ……あ」


「ひっ!」


 ジェラルドは首を傾けてオルフェオの後方を見る。オルフェオも振り向いて後ろを見ると、そこには例の剣が家の壁に立てかけられていた。


「なーんだ、持ち歩いてんじゃん」


ジェラルドがオルフェオを茶化すように見る。


「違う!! あれ、オレが行くとこ行くとこに何故か既にあるんだよ! さっきなんか、山に投げ捨ててきたのに」


「お前、親友からの土産を……」


「不気味なんだよ!! ホント、何あれ?!」


オルフェオは顔を青くし切羽詰まった様子で剣を指すが、ジェラルドはそれに笑顔を返した。


「呪いの剣だってさ」


「……は?」


 ジェラルドの満面の笑みとオルフェオの拍子抜けしたような絶望したような表情は対称的だった。



―――――



「ジェド、なんてことをしてくれたんだ」


 オルフェオたちはいつもの溜まり場の森の中に移動した。オルフェオのこれまでにない深いため息がもれた。あぐらをかいて膝を肘置きにし、顔を手で覆う。


「大丈夫だって! ただ剣がついてくるだけだから」


 自信満々に言ってくるジェラルドを少し顔を上げて疑いの目で見る。いやな予感しかしないが、つい口を開く。


「それは何を根拠に行ってるのかな?」


「勘」


 いやな予感が当たった。ジェラルドの答えにオルフェオはまた深いため息をつく。次は両手で顔を押さえる。


「なーんでわざわざ呪いの剣って分かってるのに持ってくるかな? 普通の剣にしてよね」


「だってオルフェ、お前普通の剣だと使わないじゃん。その剣はお前と相性いいと思わないか?」


「相性最っ悪だよ」


何をどうみたら相性がいいと思えるのか、オルフェオには全く分からなかった。


「まあまあ、特訓も木刀じゃなくて真剣でやりたいと思ってたしさ、使ってみろよ。少し癖があるけど、そこまで気にすることなかったし、オルフェなら使いこなせるさ」


相変わらずの笑顔で肩を叩いてくるジェラルドに何かを言いたげに見る。


「ジェドが使えばいいじゃん」


「俺の相棒はこいつだからさ」


 ジェラルドは槍を地面に突き刺して、ニッと笑って見せた。相棒ねぇとオルフェオは呪いの剣に視線を向ける。不気味ではあるが、どこか惹かれるところがあるのは確かだった。


(まあ、常に持ち歩いてたら普通の剣か……)


 こうなってしまえば、もうポジティブに考えていくしかなかった。

 皮肉にも、オルフェオと呪いの剣との相性はとても良く、とても使いやすかった。今までジェラルドにはボロ負けが多かったのに、少し追い込む程度になっていった。この剣を使うとなんだか体が軽い。それに他に不気味なことが起きることもなく、剣の見た目がいいためファッションにもなるし、持っていてもいいかと思えるようにもなった。

まあ、ジェラルドはこれを使って鍛えてほしいという意味でくれたことを思うと、一日数時間は一人で特訓するようにもなった。騎士団に入るつもりはさらさらないが。


 この不思議な剣が風の魔剣ということに気づくのは、オルフェオの村が魔物の襲撃に遭うときとなる。




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