表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
タイム・ハート  作者: 早瀬春
第一章 縛られからの逃走
1/1

001「神隠し交差点」

全8章構成の予定。

テンポ重視で行きます。

大手のピザチェーン店で働いいている美空結ミソラユウは出来立てのピザを専用のトレーに入れ、欠伸をしつつ肌寒い外に出た。

5月に入り、温かな春風は通り過ぎたのにしては妙に肌寒い気がしてのか何故だか思い返す。牧根兄弟とはしゃいで遊んだ為、最近は金欠ぎみだと自覚した。



(今度会った時は覚えていろよ、チキショー)



豪華な贈り物と、滅多に食べられないであろう高級焼き肉、思い返して財布を開けると小銭しか見えない。事の発端は姉思いで他人にはシャイで怖い陽太ヒナタが、自分のお財布を忘れてきたのだ。


俺は陽太から説得させられた。後で返す、それは分かっていても。

高級焼き肉3人分、それを1人で全てをかけ持った大学2年生の結末は破産に近い。

寒い風が通り抜ける心の隙間は、そういう訳なのだ。


ッスと長い足でバイクに跨る様を見れば、凛々しく感じる。

丁度、スマホから通知の音が来たので手に取る。


今日の深夜、お前に渡せなかった分のお金返す...ね。

早くしろ、ここん所冷凍うどん3食キープで切り詰めてるんだぞ



天然のもじゃもじゃ頭を掻きむしる。



「一生裕福で楽な生活がしたい...」




空に吐いた言霊は、重力に逆らえず、戻ってきた。




「今日もしっかり稼ぎますか」






大都会という程ではないが、幾つかの路線が集まった最寄りの駅が一際明るいぐらいで、コンビニなどあるぐらい。この時間には車が少ない、昼に比べればだから良識ある人物よりも変な人物の方が多い。これは経験談だ。



ピザを目的地まで運ぶ際、後ろから爆音の音楽を流したワンボックスカーが寄ってきた。



「なぁ、兄ちゃん。ピザのバイトかぁ~、大変だな」

「そうっすね、ども...」



無視をすれば何が起こるか分からない、ここは当たらず触らずの回答で、バイクを発進した。

サイトミラーを見れば、まだ何か言いたげな顔で寄ってくる。



「お前のピザ買うわ。出来立てで美味そうだな~」

「えっ?ピザ...、これは出前のピザなんですよ、マジで」



売れない、そう主張して嫌にも邪魔という雰囲気を出している。

律儀に自分の食費を稼ぎ、友人の為に肩代わりした結果、金欠中は機嫌が悪い。

徐々に相手の方から半ば強引に寄せ、ぶつかりそうになった。


「あのこれ以上やると警察呼びますけど?」

「んーーーいい匂いだ。出来立てのピザは超いい匂いで食欲っつーのを掻き立てるな」

「いやぁ、ないものは無いんで。うちのピザ頼みたかったら出前とってください」

「なぁ、止まれよ兄ちゃんッ」


あーやだやだ、何でこう1人の人間に変なことって降り注ぐのかしらねぇ。

誰か、ヘルプ誰か。


ワンボックスカーは急加速で前に飛び入り、ブレーキをわざとかけた。

ただ結は颯爽と避け、走り抜けた。


事故起こす気か野郎!?まだついてくる気。

こうなりゃとことんってやつだな、ついてくるのか俺に?

笑うね!



「お前止まれよッ!?」

「恐喝してくる人に売るピザも、話す言葉もこれ以上は無いですけど?まだ話します?」



売り言葉に買い言葉。

こういう時は、関わっちゃダメだってお母さんに言われたのに。

調子乗った、後悔しかない。



ワンボックスカーの奴らは、大声で罵倒し、乱暴になった。

結は逃げる為に速度を上げ、自分の運転に全てをかけた。静寂の深夜の中、クラクションが鳴り響き、バイクと車の衝突すれすれの運転が続く。

後ろから聞こえる罵倒の声から一刻も早く遠ざかりたい、バイクは速度を上げた。時間にしては数分。



「あんたに売るピザはねぇーんだから。家に帰ってくれよッ!!!」


苛烈するカーチェイス。



(へへーん、こっちは高校生の時からバイク乗ってるんだからよ)

(...!?!?)



プロ級とまではいかないが運転に自信がある俺は振り切った。

あの時、夢中になっていた。


__ギュッ!



爽快に車を追い越し、目の前は交差点の直前。



(やばっ...!!!)



目の前に人が、反射的にブレーキをかけたが間に合いそうにない。

奇妙な浮遊を感じつつ、瞳孔が開き、驚愕で凍り付いた人の顔から眼をそらすことが出来ない。数秒の時間は、頭から出た冷や汗がゆっくりと流れおちるのをスローモーションに、ゆっくりと自分の体が浮き上がる。


突如、目の前で人がいなくなった。

瞬きの隙間なく、一瞬で消えた。



「消えッ___!?」



無意識に俺はブレーキを強くひき、バイクは前傾に、尻から持ち上がるように空中へと体が放り出された。バイクは地面に擦り付けるように倒れ、後ろにいる車に乗った奴らの顔すらよく見える、そして偶々交差点の電子掲示板に目が入った。



_____時間が少し進み、そして戻った。






そのまま道路の真ん中に放り込まれてしまった幸い、自分の体を見渡してみたが無傷。事故に起こった場合も考えていたので服装などもしっかりしていたからだ。


ギィーーー!ガンッ!!!


ピザを運んだバイクは近くの歩道に滑り込み、ぶつかった。



「ひ、人は大丈夫、大丈夫ですか!?」



あれ、いない

どこだ

交差点のどこかに吹き飛ばされたか!?




ボロボロに壊れたバイクの近くを見まわし、交差点に振り返ってみても誰もいなかった。

俺が轢いた人は、交差点の方から少し離れた所を歩いている。

ちょ、ちょっと待ってくれ。



「おい、あんた。待ってくれ!」



サラリーマンの恰好をした女性は何食わぬ顔で「えぇ?」と言った。


いやいや、えぇとかいう場合じゃなくて、怪我は大丈夫なのか。

見た感じ、怪我はなさそうだな。

もしかして何かのスポーツ経験者の人だったのか、何はともあれ助かった。

本当に良かった...。



「大丈夫だったんですか?」



結はこういう時は警察に呼ぶべきだと、素早くスマホから110番をかけ始めた。


怪我はしてなくて良かったけど、チキショー!

バイクはほぼ全損、バイト先にも連絡し...



「事故ですか、大変ですね」

「はぁッ?何言ったんだあんた、ここんところの頭でもぶつけたか?」


(見せてみ...)


手を彼女に近づけようと動かした時、背筋が凍り付いた。

仮面のように動かない顔、人間とは違う魚のような死んだ目で俺を見ていた。

生気がなく、結の顔は引き攣った。



そのまま何も言えなかった。

言葉が出なかった、ただスマホの音が鼓膜に響き渡るのみ、あの人の背中をただ無心で見続けていただけだった。


「帰りますので」







俺は交差点に立ち、あの時変わった電子掲示板を見ている。



(悪いおばあちゃん、危ないことした。多分、守ってくれたんだよな)



その後、俺は警察を呼びバイト先に連絡して事情を説明した。車で追いかけてきた奴らはあの後逃げることはせず、今警察に事情聴取を受けて嘘偽りなく答えている。

どうやらこの手の問題の常習犯で泣かされた被害者も多いようで、警察からの重圧が凄い。



どうやら全面的にはあいつらが悪いってことで収まりそうだな。

た、助かった...色々と、このままバイク代も全額俺もちとかだったら、やばかった。

うどん3食から、もやし3食生活に変わる。


想像すると嫌な気分になった。


(そんなことにならないで本当ッに良かった、あ~良かったッッッ!!!)


スマホからの着信が鳴る。

待ち受けには時刻が常に表示され、変わらない速度で動いている筈のものをマジマジと見る。

あの時の現象が脳裏に浮かんだ。



「もしもし?」



嫌な気分が残る。

俺には父と母がいる。普通の一般家庭に生まれて、普通に学校に行って今は大学生二年生だ。

子供の頃に多少いじめられ、色々訳あって親友と呼べるような友人に出会えた。

誰にでも何か心の中に、あまり話したくないこととかあると思う。

ここは小学生の時に色々お世話になった、おばあちゃんが亡くなった交差点だった。

絶対になりたくないと思った事故をおこした本人の俺が、奇妙な怪奇現象に巻き込まれた。












目覚まし時計が狭い1LDKの部屋に鳴り響く。

美空結の頭に大音量で鳴り響くそれは、二日酔いに非常にこたえたらしく、唸り声が漏れる。机とソファが大部分を占めるこの部屋には、あちらこちら酒が入った缶が幾つも散らばっている。


「誰かぁぁっぁぁっ、それ止めてくれっえ___」


小槌でガンガン叩かれてるみたいだ。

誰も、起きないですかそーですか。


金髪のヤンキーは静かに寝ている。

憎たらしく思って、その満足に寝ている顔を無償に蹴飛ばしたくなったが辞めた。

「仕方ねぇ~なぁ~」と言いつつ、ひどい寝ぐせの頭をポリポリと掻いた。


美空結はどれだけ食べても太らないし、筋トレしても肉がつきそうにない細長いスレンダーな体系。頭から伸びるワカメが群生している天然パーマ。透けるような小枝の指で、クモのような華奢な体。重力に極力逆らわない、自堕落そうな顔付。



時計をガンッと止めた。


「偉いよ~俺。めっちゃ偉い...。水のも...水っ.......」


そのままトイレへと駆け込んだ。





「おはよ、ユウちゃん。昨日は楽しかったわね」



丁度トイレから出てきた美空結は死んだような顔つきで出てくると、小悪魔のように微笑む女性が髪の毛をとかしていた。

鏡ごしに映る、琥珀色の目が一層キレイに輝いた。スレンダーな体を一枚の白いタオルに包み込み、肩からほんのり香る甘い茶髪。

牧根霞は既に朝のシャワーを済ませ、自分の美貌に時間をかける。



ふざけんな!俺は再々それ以上は飲めないっていったのに

限界超えて、昨日何があったんだ...覚えてない



「こら起きなさいヒナタ。そろそろ起きないと、朝食が作れないでしょ~?」

「あっ姉ちゃん、おはよぅ......」

「こ~らッ!そこ邪魔よ、どきなさ~い」



金髪のヤンキー陽太は、姉にそう言われると起き上がった。

元者の地毛が茶髪だったのだが、高校に入ってから金色に近いカラーに変え、堀が深い顔には一層似合った。腕から延びる血管が浮き出て、筋肉がついた逞しい体で、喉ぼとけから出るドスが聞いた低い声。



「今、トイレは空いてる?死にそう何だけど」

「さっさとしなさい、さっきユウちゃんが使い終わった後よ」



駆け足でトイレに向かう陽太を応援した。

トイレからは地獄にいる亡者の声が聞こえてくる、分かるぞ。経験済みだ。

さぞかし苦しいだろう、昨晩の一時の幸せを全て後悔へと変えるこれは悲しい運命だ。



あばよ陽太、今日はいつもよりもキツイぜ。

グットラック、あとで落ち合おう!






丸いテーブルに幾つかの料理が並び、三人は席に着いた。


朝ということで簡単なものしか作れないが、まあ仕方ない。

二日酔いの中良くやったよ、少しぐらい作ってくれても良かったんじゃないですかねぇ。

誠意か知らないけど、今日は俺のコップに野菜ジュース入ってる。優しみ...


「お前らせめて...、今日は忙しいっていったよなッ!!!」

「「いただきまーす!!!」」


「お前ら、悪びれもなくッ。いいか俺が作ったんだから、合図を仕切るのは勿論オレッ!!!」

「まぁまぁユウ、折角の温かい飯が冷めちゃうぜ?」

「あー美味しいユウちゃんの料理。何だかんだいって料理の彩が豊富よね~」



このやり取りを再々やってきたが、決着はつかない。

それを知っているので、結局の所俺が折れた。



「はぁ...いただきます」

「「いただきます」」



霞は幸せそうな顔で食事を噛みしめ、食事を運びながら、陽太はテレビをつけた。

二人のいつも変わらない様子を見て、アホらしくなって結は食事を始めた。


(...ニュース)


本日、日本が保存する時間測定器の誤差が発生しました。

それに伴い、日本国内の時計にも影響を与え、数秒の誤差が発生した模様です。

様々な時計に連動し、メーカー側は器具の故障ではないと発表しています。

近年、地球の磁場による影響でその様な事故が発生したと言われ。専門家たちの中で、多くの議論が反響を呼んでいます。

今年度でも複数回の誤差が確認され、その回数は数千にも及び、正確な数は観測できていないようです。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ