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九十八話 途切れた先へ

「ミュリス。よく眠れましたか?」

「はっ」


 まだ未明、宿の中でそんな声が響いた。


 ベッドから声の方向に振り向くと、そこには狼のような頭を持った者が、スライムのルーンに跪いている。


 この茶色いローブの者は、ミュリスという名の女性のコボルトだ。


 昨日は【透明化】で見えなかったが、現在は魔法を解いているため、彼女の顔が分かる。


 やせ過ぎた体に、茶色い毛……身のこなしが軽そうというよりは、心配になるぐらい病弱に見える。


 目もうつろで感情を顔に出してないことから、彼女がリュアックからどういう扱いを受けていたのかが窺えた。


 早速彼女には、リュアックの監視を頼むことにした。


 だが、この体の様子だ。俺は数日の休息を命じたのだが……


「……本当によろしいのですか? コボルトは人間ほどではないですが、疲労も感じます。今日は休んでも」


 他の従魔には厳しいルーンだが、このミュリスにはそう声を掛けた。


「いえ。待機は不要です。私に仕事を」


 ミュリスにとっては、仕事をしてない時は”待機”の時間というわけか。


 普段なら褒めたたえるルーンも、いつになく不安そうな顔だ。


 リュアック程度を監視するのは、彼女には容易いだろう。


 しかし、前も言ったが魔法の道具を持ってないとも限らない。

 それを考えると、この様子で働かせるのはな……


「……分かった。ミュリス、お前に仕事を与えよう」


 ミュリスは俺の方に振り向き、颯爽と跪いた。


「なんなりと」

「本日はこの部屋での睡眠を命じる。もし、俺達以外にこの部屋を訊ねる者がいれば、すぐに報せよ」

「報せる、だけでよろしいのですか?」

「ああ、遠方から従魔を呼び寄せているからな。敵とも限らない」

「かしこまりました。……ですが、睡眠は仕事なのですか?」

「俺の従魔である限りはな」

「承知……いたしました」


 ミュリスは少し困惑しながらも、頭を下げた。


 本当は気晴らしに街でも歩かせたいが……


 それにはいくらか工夫が必要だろう。

 彼女のローブにはフードが付いているので、それで顔は隠せるが、やはり怪しまれてしまう。

 俺かルーンがいれば、人間に見えるよう、魔法でなんとかできるとは思うが……


「……ともかく、今日はゆっくりしているんだ。食事はあらかじめ用意しておくから」

「はっ、かしこまりました」


 こうして俺達は、ミュリスを休ませて、地下都市へと向かうことになった。


 王都市街を歩く中、ネールが俺に訊ねる。


「ねえ、ルディス様。その、十八階ってのは、結構時間かかりそうなんですか?」


 その問いに、ルーンが答える。


「昨日、地図を見せたじゃないですか? ルディス君がユリア殿下からもらったのを」

「見ましたけどぉ……なんだかうねうねしてて、正直意味不明でした!」


 苦笑いするネールに、俺は言う。


「まあ、昔の地図ということもあって分かりづらかったからな。ともかく二十階までは楽だろう。だがその下、十八階までの道は慎重に進もう」


 俺の声にルーン、ネール、マリナは頷いた。


 見えないが、【透明化】したベルタも一緒だ。


 いつも通る地下都市の大階段は、二十階まで下りた場所で途絶えている。

 

 実際に俺も降りるのは初めてであったが、壁を見て違和感を覚えた。


 マリナも同じことを気が付いたようで、


「ここの壁……他の場所と比べると、岩が小さいですね」

「マリナも気が付きましたか。ここは明かに他の場所と比べ、岩が小さい」


 ルーンが頷くと、俺も言う。


「石材自体の色も違う。新しいし、粗悪なものだな」

「つまり、誰かが二十階から下を塞いだってことです?」


 ネールは俺にそう訊ねた。


「ああ。誰かは……まあ、だいたい見当は付くがな」


 ヴィンダーボルト……彼か王族でなければ、こんなことはしないだろう。


「これぐらいなぶっ壊して進めそうですけどね」

「こら、ネール。誰かに聞かれていたら、どうするのです!」


 ルーンが怒るも、周辺に人の気配はない。

 

 地下都市の住民も冒険者も、ここにはあまりやってこないのだろう。


 この感じなら、魔法で突き破ることもできそうだが……

 即座に修復することも容易い。


 しかしそれなりに分厚い壁のため、一か所を崩した途端に崩落しないとも限らない。

 それを抑え……音や振動を考えると、面倒だな。

 

「とにかく、ここは最初の予定通り、十八階を目指すとしよう。入り口は……右だな」


 俺達は二十階にある小さな通路を進んでいく。


 特に何もない、ただの岩の通路……最初はそう思っていた。

 だが、しばらくすると、散乱した白骨が見えるようになった。


 ……地下都市の住民のものだろうか。いや、倒されたスケルトンのものか。

 

 この前のスケルトンのトラップは、【不死者召喚】の魔法が宿された石柱……その中にある魔鉱石によるものだった。


 【不死者召喚】は死骸を利用してアンデッドを作成するのではなく、異界から召喚するものだ。


 数々の冒険者がここを通り、召喚されたスケルトンを倒したのかもしれないな。


 魔力の反応のある石柱がいくらか遠方に見える。ここでもスケルトンのトラップが生きているようだ。


 以前魔鉱石を回収したが、調べても誰がその魔法を設定したかは不明であった。


 恐らくはヴィンダーボルトが何者かに作らせたのだろうが……それほどの魔法を誰がどこで?


 誰が召喚したかも分からない……装備の良いスケルトン……


 以前ユリアを護衛している時に見かけた、”軍団”と呼ばれる不死者の集団が俺の頭によぎった。


 ”軍団”の指導者と、ヴィンダーボルト……なにか関係があるのかもしれないな。


 俺はそんなことを考えながら、いつの間にか前方に現れたスケルトンに気が付く。


 十体ほどはいるだろうか。


「マリナ、ネール! やりますよ!」

「はい!」

「了解!」

 

 しかし、俺が手を下す前に、ルーン達が武器でスケルトンをなぎ倒していった。


 皆、魔法を使うのは控えている。

 

 当然、この程度のスケルトンは、ルーン達の相手にもならない。


 俺が足を止める必要もないぐらい早く、スケルトンは倒された。


「私が一番倒した! ねえ、ルディス様、褒めて!」


 ネールがそんなことをいうが、すぐにルーンに裾を引っ張られる。


「まだまだ来ますよ、ネール。ルディス様の歩みを止めないよう、私達で露払いするのです」

「はーい……って、さっきより増えてる?」

「何体いようが同じことです! さあ、やりましょう!」

「了解! 私が一番倒しますよ!」


 ルーン達は、俺の進む先に現れるスケルトンをどんどんと蹴散らしていくのであった。

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