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九十五話 秘密

「あったわ。これよ」


 ユリアは本棚から本を一冊出すと、それを持って席に着いた。


 俺がそれの近くで立っていると、ユリアは視線をこちらに向けてきた。

 向かいの席に座れ、ということだろう。


「失礼します」


 俺は頭を下げ、ユリアの向かい側に座った。


 ユリアは本をめくりながら、ちょっと不満そうな顔になる。


「私たちってまだそんな仲?」

「い、いえ、そんなつもりじゃ」

「……本当にお堅いわね。ロストンならお構いなしに座ってくるわよ?」

「ロストンさんは殿下にずっとつき従っておられますし……俺はただの冒険者ですからね」

「ただの冒険者、ね……」


 少し疑うようにユリアは呟いた。


 このユリアとはそれなりの時間を共に過ごしてきた。

 

 今さっき暗殺者達を撃退したのもそうだが、俺はユリアにとって”ただの”冒険者ではなくなっているのかもしれない。

 明らかに腕がある。そう思われているのは確かだ。


 信頼してくれるのは嬉しいが、あまり実力を露にするとな……まあ、今はそんなことは言ってられないが。


「ここの記述よ……地下都市にはヴィンダーボルトがつくった、秘密の通路がある。その場所は……」


 俺はユリアの指が差す文字を読む。


「赤き宝石がちりばめられた山の壁画……隠し扉の場所のようですね」

「ええ。これだけ聞けば、この王都の下が大火山であることとなにか関連性があるようにも思えるわ」

「たしかに……いずれにせよ、この扉の先が最下層に向かうための秘密の通路である可能性が高いと」


 ヴィンダーボルトがつくった秘密の通路か……しかし、そんな場所をつくるとしたら。


「殿下。すでに殿下であれば調べてるかもしれませんが……」

「王宮内にこういう場所はないかってことね。宮殿内、それに王家の地下墓地を見てもそんな壁画は見当たらなかったわ。何気なく父上の部屋を見た時もあったけど、そんな場所は皆無」

「そんな場所はないか、あるいは陛下が知らないだけか。国王陛下が秘密にされている可能性もありますね。初代からの言いつけで、それを使わないようされているのかもしれない」

「あの父上がそんな力に飛びつかないわけないわ。もともと大陸東部の国々と比べて、我が国は人も少ない。知っていれば即座に使うでしょう」


 王宮内ではないか。

 とすると、やはり地下都市のどこかか……


 でも、人が出入りできるような場所にそんな場所はつくらないはずだ。

 しかも自身がわざわざあんな薄暗い場所を通って、最下層まで下りるだろうか。


 ユリアや王族が気が付いていないだけで、宮殿のどこかに扉がある可能性もある。

 または、ヴィンダーボルトが死ぬ直前に隠したか。


 だが、隠す理由か……その通路の存在を宮殿内にしても、地下都市にしても何故、ヴィンダーボルトは子孫に公にしなかったのか。


 もっといえば何故それだけの力を、子孫に伝えなかったのだろう?

 

 後継者と上手くいってなかった? 

 いや、違うな……


 自身の王統を守るため、表向きにしてはいけなかったんだ。

 最下層に魔物がいて、彼らがこの王国の建国の功労者であることを。


 ヴィンダーボルトが帝国の総督を名乗ったことが今伝わってないことからも分かるように、ヴィンダーボルトは最下層の魔物の存在を皆に隠しているのは確実。

 

 つまりその力……最下層の魔物の存在が露わになることは、この王国を脅かすことになると理解したのだろう。


「確かに我が国の現状、そのような戦力を遊ばせるのはおかしい……他に、何か手掛かりはありませんか?」

「この通路に入るためには、ヴィンダーボルトの血を引く者である必要がある。ってことぐらいかしらね」

「なるほど……では、殿下であれば開けられると」

「そうなるわね……」


 【施錠】の魔法……解くには、血縁者が必要か。

 俺ならば解除できると思うが、ユリアがいれば確実に通れるようになるだろう。


「私の推測なら、ヴィンダーボルトは宮殿の地下にきっとその通路を造るはず。だけど、何らかの理由……不都合があって、その通路を隠した」

「ですが、その推測ですと宮殿のどこかを掘らなければ、通路は見つからない……」


 そんなことは現実的じゃない。

 王族の目がある中、そんなことをするのは非常に困難だ。しかも、それが建物の下であれば、破壊しなければいけない。

 人通りの少ない場所ならやれるかもしれないが……


 俺が頭を悩ませていると、ユリアが言った。


「ええ。でも、よく考えてみれば単純よ。宮殿から秘密の通路が真下に伸びているとしたら」

「途中から入れば、わざわざ入り口から入る必要もない……そういうわけですね」

「ええ。だから、地下都市の中で、宮殿の真下に当たる部分。階層を探すの。落盤を考えれば、そこの階層に非常用の出入り口を設けていてもおかしくない」


 なかなか鋭いな……そんな階層があるかどうかは別として。


 真下に近い部分なら、力づくで掘るのも手だ。

 俺の魔法なら、それぐらいはできる。


「分かりました……王宮の真下から伸ばした線と交わる階層を見つけてみましょう」

「私も協力するわ。王宮に地図があるから。前言った護衛の報酬もあるし、続きは王宮でしましょう」


 俺はユリアの警護も兼ねて、宮殿へ向かうことになるのであった。

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