九十一話 刺客
「なるほど……つまり火山の力を使い、ヴィンダーボルト一世は魔物を倒したと。ですが、この下が大火山だったなんて話、初めて聞きました」
もちろん、俺もそれは分かっている。
だけど、エイリスが知らなかったように、この国でその事実を知る者は少ない。
農民の俺が知ってましたは不自然だ。
ユリアはこくりと頷く。
「ええ。だけど、かつてこの下が火山であったことを示す東の国々の本が、この図書館にも少数あるわ。とはいっても、ここ数百年の本では、東西のものどっちでも言及されてないけどね」
そこまで調べているのか。
賢帝関連の文献だけを読んでたと思っていたが、そうでもないようだ。
「まあ、『ルディスの従魔のその後』を読んでたら、見つけた事なんだけどね」
「な、なるほど……」
やはり、賢帝関連だったか……
しかし、従魔の本でこの火山のことも言及されていたとは。
ユリアは逆に、俺にこんなことを訊ねてきた。
「……ルディス。あなた、この国って何かおかしいと思わないかしら?」
「え? ……そ、そんなこと」
ユリアはともかく、貴族が集まるような場所で、王国の悪口なんて言えるわけがない。
しかも、急に貴族風の服の者達が十人程、この階層に上ってきた。
なおさら、言葉には気を付けなければいけない。
俺は小声でこう返した。
「五百年前まで未開の地に、急にこの強力な国が出来た……」
「ええ。そしてそれ以前に、人間の国はない。いたのは魔物。そして千年前東からやってきたルディスの従魔達……」
そもそも、最下層にいる魔物達はベルタから分かるように帝国語を用い、帝国の文化を受け継いでいる。
そしてヴィンダーボルトは、彼らに帝国の総督と名乗って、【隷従】の効果のある魔法具を身に付けされ、無理やりに仕事をさせていた。
「私はね。ヴィンダーボルトは、この王国を建国する時……ルディスの従魔を利用したんじゃないかって思ってるの」
火山の溶岩を操り、この王都のような高い城壁や巨大な地下都市を築いた……
こんなことをできるのは、高度な技術と強力な魔法を使える者でなければ難しい。
そして俺の従魔達であれば、それが可能であったであろう……
「……確かに賢帝の従魔ともなれば、火山を操るのも、あの高い城壁を造るのもできそうな話ですね」
「そう。というか、それしかありえないわ。そもそも東の国々ですら、ここまでの都市はない。この王都で使われている大きな石材は、大陸中でも帝国の遺物でしか見られないわ」
ユリアは自説が間違いないと、うんうんと頷いた。
「だから、王都の地下には賢帝の従魔に関する秘密もあるはずなの。少なくとも、帝国との繋がりを示す何かがあるはず……それもあって、私も最下層への興味があったわ」
「そうでしたか……」
少し怖くもあるぐらい、ユリアの洞察力は優れていた。
彼女の推察は、すでに半分以上間違っていないことが俺には分かる。
最下層には、帝国との繋がりがあるのだから。
「中には、ヴィンダーボルトが使っていた秘密の通路の話もあったわね……ちょっと待って、確かあの棚に」
ユリアがそう言って、一歩歩み始めた時、先程この階段まで上がってきた者達の視線が一斉に動いた。
こいつら……まさか。
俺はルーンと顔をあわせ、互いに小さく頷く。
皆、貴族風の服を着てはいるが、動きが貴族のそれではなく無粋な感じ。
とても、茶を嗜んだり、本を読み慣れているような者たちではなかった。
そして彼らの胸元には、様々な属性の魔力を感じた。
時代が変わっても、こういった者達の雰囲気は変わらないな……
……こいつらは刺客だ。
そしてユリアと俺達の距離が五歩ほど離れた時、彼らは行動を始めるのであった。




