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八十六話 目利き

12月2日、本作コミカライズ版第4話1部が、マンガUP様で更新されています!

 俺達は二十八階の奥まで調査し、地図を作成し終え、地上へ向かう。


 文字通りのお宝が眠っていた場所を漁っている間に王子は帰ったようで、その後会うことはなかった。


 地図と併せてギルドに提出する報告書には、特に特記することのない古びた倉庫と記した。

 宝の眠る隠し部屋を報告すれば、中身はすべてお上のものとなってしまうからだ。


 もちろん自分達で宝を独占するつもりはない。

 地下都市で見つかったものなのだから、地下都市で貧しい暮らしを送っている人々に還元したいのだ。

 どのような方法でやるかは、考える必要が有りそうだが……


 そんなこんなで、ギルドの受付嬢に報告書と地図を提出する。


「……ふむふむ、特に変わった場所はないようですね。では、こちら報酬です!」

 

 報告書と地図に簡単に目を通した受付嬢だが、特に不思議がることもなく、報酬の二十デルが入った麻袋を俺に手渡した。


 受付嬢は更に続ける。


「そういえばルディスさん達の昇格の話ですが、明日にはシルバーランクのバッジをお渡しできそうです! もう少し、お待ちくださいね」

「ありがとうございます。でも、まだ冒険者になりたてなのに本当にいいのでしょうか?」

「いえいえ、ルディスさん達は仕事が早いですし! シルバーからゴールドの昇格もきっとすぐですよ!」

「それはさすがに……いえ、そうなれるようにがんばりますね」

「はい! これからも頑張ってください!」


 俺は受付からルーン達のいる方へ振り返る。

 すると、そこにはエイリスとカッセルもいて、色々と話し込んでいた。


 どうやらこの二人も仕事を終えた後らしい。


 俺は足早に彼らのもとに向かう。


 エイリスはいつもの明るい調子で声を掛けてきた。 


「ルディス、お疲れ! 今帰ってきたんだって?」

「ええ。おかげさまで、このとおり報酬も頂いてきました!」


 俺は報酬の入ったエイリスに袋を見せる。


「うんうん。よかったよかった。何か皆で美味しいものでも食べなさいな」

「ありがとうございます! それでなんですが、その……」


 言葉に詰まる俺の代わりに、ルーンが言う。


「もしよかったら、お二人も一緒にこれからご飯なんてどうでしょうか?! このお金を使って!」

「お、いいわね! でも、せっかくの報酬なのにいいの?」

「それはまあルディス様が頑張られたので……ギルドの外で色々とお話ししますよ!」


 ルーンはエイリスに、暗に価値のある物を手に入れたと伝えた。

 現に俺はエイリスのためにそれなりの値打ちのあるものを用意してある。


 だが、そういった価値のあるものを見つけた場合は、ギルドに報告しなければならない。

 なので、ここではちょっと話せないのだ。


「というと、何かあったのね。 ……いいわ。料理がおいしい酒場を知ってるから、とにかくそこに向かいましょ!」


 エイリスの声に、賛成とルーンも手を挙げて応じる。

 ネールとマリナもその声に同調し、俺達はギルドの外へ出た。


 早速、その道中でエイリスが俺に訊ねる。


「で、何か見つかったの? 最初入り口を見つけた冒険者の話だと、宝はないんじゃないかってことだったけど」

「ええ。食糧庫みたいな場所で最初は俺達もそう思いました。でも、一応箱を一つずつくまなく探したんですよ。そしたら……」


 俺は胸ポケットから、手に収まるほどの白い球体を取り出す。

 

 エイリスはそれを不思議そうな顔で見た。


「……それ、岩?」

「はい。多分何か宝石なんじゃないかと思いまして」

「うーん……見た事あるようなないような……大理石にしては模様がないし」


 頭を悩ますエイリス。


 だが、見た事があるかもしれないというのは本当だろう。

 実際、宝石商と取引することがあれば、見た事のあるものだ。

 

 これは真珠。それも南方に生息するスチールシェルという貝の魔物が生み出す大きな真珠だ。

 デルで考えると……これ一つで、千デルの価値で帝国では取引されていた。


 スチールシェル自体も大型なので、生息数も少ない。

 だから今でも、この真珠は希少なもののはず。


「とりあえず、これをエイリスさんに渡そうと思って。ごめんなさい……あまり、価値のありそうなものじゃなくて」

「ううん、気持ちだけでも嬉しいし、これでも十デルぐらいにはなるはずよ。ありがとう」


 エイリスは笑って、俺から真珠を受け取ってくれた。


「……あ。あそこに馴染みの商人がいるわね。東部出身の宝石商……彼なら宝石に詳しいし、地下都市のものでも買い取ってくれるわ。鑑定してもらいましょ」


 エイリスはルーン達に先に酒場を案内するようカッセルに伝える。

 そして俺と共に、店先で馬車から積み荷を降ろす身なりのいい男の元へと向かう。

 

「どう、儲かってる?」

「おお、エイリス。いやあ、それが最近は商売あがったりでね……戦争続きで東部から良い宝石が入ってこないんだ」

「お、それならちょうどいいのがあるわよ。これなんだけど」

「うん? おいおい、エイリス。これは宝石じゃなくて大理石……いや、なんだこれ」


 商人は虫眼鏡を取り出し、白い球体をまじまじと見る。


「この輝きは真珠……でも、こんな大きな真珠は……いや、あの絶滅したとされるスチールシェルの真珠だとしたら……」


 商人の話だと、スチールシェルは絶滅したとされているようだ。

 海中深くにまだ生きているかもしれないが、少なくとも人間が見える範囲ではいなくなったのだろう。


 とすると、俺が考えている以上に希少なものなのかもしれないな……


 商人は首を振って、自問自答するように続けた。


「いや、東部でも、王族が持っているか持ってないかの代物だ! そんなものがこんな場所に……でも、これは」

「それで、これがそのスチールシェルの真珠だったとしたら、いくらなの?」

「い、一万デル……いや、買い手によってはもっとつけるかもしれない」


 商人は改めて虫眼鏡で真珠を鑑定する。

 そして間違いないと言わんばかりに、深く頷いた。


 俺は「一万デル?!」と驚く。

 実際、そこまでになっているとは俺も思わなかった。

 絶滅した魔物が生み出すものと考えれば妥当だとは思うが。


 エイリスもエイリスで、こんなものにそんな価値があるのかと疑うような目で真珠を見ていた。


 商人は生唾を飲むようにごくりと喉を動かすと、エイリスにすがる。


「エイリス、お願いだ! これを扱うことは宝石商として最高の箔がつく! これを売ったお金は全部渡すから、俺に売らせてくれないか?!」

「い、いいけど……そんなに価値のあるものなの、これ?」


 真珠をお手玉のように一度上げてみるエイリス。


 それを見た商人は生きた心地がしないような顔で声を荒げた。


「お、落としたらどうするんだ?! もう手に入らないものなんだぞ!」

「ふむふむ。その様子だと本当に価値があるみたいね……まあ、任せても良いけど、そこまで言うならさすがに前金は」

「もちろん払う! 払うとも! とりあえず五千デルでどうだ?!」

「ご、五千デル?! ま、前金よ? いや、あんたがいいって言うならいいけど……」

「よし、交渉成立だ!」


 そう言って、商人は店の奥から巨大な麻袋をそそくさと持ってきた。


「ほら、これでどうだ?!」

「ほ、本当にいいの?」

「ああ、持っていってくれ! 当然、売れたら残りも払うから! 更に五千デル……いやもっと高値で売って見せるさ!」

「そ、そう……じゃ、これ」

「ありがとう! ああ、まさかこれをうちで扱える日が来るとは! こうしておれん! 護衛も雇わなければ!」


 商人は鼻歌交じりに店の奥に戻っていく。


 俺とエイリスは思わず口をぽかんとさせるのであった。

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