八十二話 巨大倉庫の番人
俺達はエイリスから任された調査依頼のため、地下都市の二十八階へと来ていた。
複雑な道を通る以外は特に苦労することもなく、目的の最近発見された倉庫へと来れた。
俺はまず入り口で、ガーゴイルのベルタに訊ねる。
「どうだ、ベルタ? この場所は覚えがあるか?」
「いえ……僕はここに来たことはないですね。でも、ここ……最下層近くにある食糧庫と似た形をしています!」
ベルタの声を聞いて、ルーンがこう呟く。
「倉庫にしては、随分と大きいですね。今まで見た階層から考えると、二階分の高さはあるでしょうか?」
ルーンの言うように、この倉庫は非常に大きく、また広かった。
一本道ではあるが、ずっと奥までの伸びる通路は馬車が二台は通れそうな幅で、その側面を巨大な木の棚がそびえたつ。
何か期待しても良さそうな場所だが……
入り口付近に落ちた、立ち入り禁止の看板。
冒険者ギルドによって設置されたようだが、皆お構いなく侵入してるようだ。
「あー、この荒らされ方は……多分、誰か入った後でしょうね」
ネールは床に散乱する木箱や樽を見て、そう呟いた。
やけに埃が空中に舞っているし、すでに誰かに漁られた後なのは間違いない。
一応確認のため【探知】で通路を探ってみる。
すると、随分と奥の方に人間のような形の魔力の反応があった。
奥の方に、冒険者か地下都市の住民がいるのだろう。
「でも、中身は黒い物体ばかり……きゃっ!」
樽の中を覗いたマリナは、突然出てきたネズミに驚く。
やはり食糧が置かれていたのは間違いなさそうだ。
床に散乱してる箱や樽から出てるのは、干からびたような物体ばかり。
腐った食糧なのだろう。
「いずれにせよ、貴重品がありそうな雰囲気ではないな。ふむ……」
まいったな……
エイリスには何か値打ちのありそうなものを報酬の一部にすると言ってしまった。
だが、この感じではとても見つからないだろう。
「とにかく調査のためにも、もう少し奥を見てみようか……地図も作らないといけないしな」
俺達は棚に気になるようなものがないか目を凝らしながら、奥へ進むのであった。
一目でわかることは、随分と棚が空きだらけということ。
床に降ろされた箱や樽を戻したとしても、随分と余裕が残りそうだ。
箱や樽にはもれなく、”ヴェストブルク王の所有物”と書かれており、この倉庫が公的な物だったことを窺わせる。一つ気がかりなのが、文字が帝国のものであるということだ。単に、王国も昔帝国文字を使っていただけということかもしれないが。
さらに進むも、広がるのは同じ景色。
王や貴族が私的な財産を隠す場合、こんな広い場所には置かないだろうし、やはり放棄された食糧庫と考えるのが妥当だろう。
それでも何か使える物を探すため、俺達は奥へと歩みを進む。
ああ、何か適当な物をエイリスには渡すかな。いや、そもそも報酬を全額渡してもいいかもしれないが……うん?
その時、俺は通路の奥から魔力の反応を感じた。
元から感じた人間の魔力とは違い、突如大きな反応があったのだ。
そしてほぼ同時に、同じ方向から轟音が響く。
マリナが驚くように言う。
「……爆発?!」
「いや、あれは魔法だろう……急ぐぞ!」
俺はそう言って、問題の場所まで走る。
考えられるのは、ここを漁っていた人間を、何者かが襲ったということ。
それも突如現れた大きな魔力の反応は、形も大きさも人間のものではない。
奥では戦っているのか、雄叫びや岩が崩れるような音が響く。
人間から小さな魔力が大きな反応に向かっていることからも、人間達が武装した者たちであるのは間違いなさそうだ。
が、その人間の一人が、風に吹かれたように簡単に吹き飛ばされていく。
俺は死傷者を出させまいと、通路の奥へと届くよう回復魔法【治癒】を放つ。
何とか倒れた者達は一命を取り留めているようだが、次々と人間達は飛ばされていくのであった。
そうしてる間に、俺の目が戦闘の様子を捉えられる場所まで来れた。
大きな魔力の反応は、人間の三倍は有りそうな背丈を持つ巨大なゴーレムであった。
手にはこれまた人の背程の巨大な木製の棍棒が握られている。
そしてそれに相対するのは、重厚な黒い鎧に身を包む痩身の若い男。
彼以外の者達は皆、冒険者風の格好をしていたが、力なく床に横たわっている。
「ええい、役立たずどもめ!!」
一人で声を上げる男は、華美な盾を持ってはいるが、ゴーレムの攻撃は防げないと分かっているのか避ける一方だ。
何とか隙をついて、ゴーレムの腕を剣で突くも、全く通用していない。
「くそ! この私がこんなところで!」
事情は分からないが、このままではあの男と仲間が危ない。
ゴーレムにも何か事情があるのかもしれないが……ここは争いを止める為にもゴーレムの心臓部だけを生かし、その体だけを破壊するとしよう。心臓部さえあれば、体を作り直してやるのは容易い。
俺はルーン達にそれを伝えると、加減をしながらゴーレムを倒そうとするのであった。




